──お台場カジノ構想から、はや7年。かつてはアングラな違法賭博と認知されてきたが、近年は税収増や雇用創出を期待し、合法化を望む声も多い。昨年は、自民・民主の有志が党の垣根を越えて協議を始め、その気運も高まりつつあったが──その矢先の政権交代。はたしてカジノ法案は?
石原慎太郎都知事の『お台場カジノ構想』を受け、02年に自民党に議員連盟が発足。同党岩屋毅議員などを中心に議論が進められてきたカジノ法案だが、ご存知の通り、先の衆院選で民主党が与党に。政権交代で法案はどうなるのか? 民主党でカジノ合法化を目指す、「娯楽産業健全育成研究会」の事務局長、牧義夫議員に法案の現状と今後について語っていただいた。
──牧議員はカジノ合法化を目指してこれまでも自民党のカジノ議連の方々と協議されていますが、政権交代で、カジノ法案はどうなるのでしょうか?
牧 自民党案の、骨子の大筋はヒアリングを受けています。昨年、民主党もこの研究会を立ち上げて、これから骨子を作り協議をしていきましょう、となったところで麻生政権が始まったんです。いつ解散するのか、という状況の中でカジノ法案の協議も止まってしまい、今に至るという感じですね。
──自民党案は、独立行政法人や委員会を設置して管理、悪影響への対処をしたり、運営や遊戯に犯罪歴などの欠格要件を設けるなど、具体的な部分まで決まっていたようですが、そのまま引き継ぐ可能性はありますか?
牧 自民党案は役所主導というか、相当タガにはめられた中での限定的なもの、という印象でした。ですから、我々はもっと思い切ったものを提示して、それこそ政治主導で、お互い意見をすり合わせる必要があると思っています。
──党内では、どのくらい議論が進んでいるのでしょうか?
牧 まだ始まったばかりです。刑法、賭博罪の違法性をどう阻却するのか、という入り口の部分でかなり思い切った政治判断をしなければと考えています。法律の専門家に聞くと、公営でなければまず100%無理、という話をする(笑)。それでは何も進まないですよね。だから、公設だけど民営、とか、実現方法を色々と模索中なんです。
──具体的なことはこれからですか?
牧 ええ。収益をどの目的に供するか、裏社会への資金流入を防ぐ仕組みづくり、観光・地域振興、雇用創出等目的の明確化など、細かいものを組み立てていくような話ですから。政権交代で、我々が主導することになるでしょうけど、幸い自民党の岩屋毅さんなども残っていますので。仕切り直してまた一緒に、ということになりますね。
──カジノは日本で成功しますか?
牧 もちろん。日本は観光資源も十分あるんですが、最後の最後に他国に客を取られてしまうようなところがある。あともうひとつ、何か欲しいんです。例えば、サミットをやった洞爺湖みたいな所にカジノがあれば、今よりもっと観光客が来るだろうし、経済効果も大きいはず。
パチンコの合法化で一気に日本のグレーを排除?
──並行して、パチンコにおける換金も明確に合法化する話が出ていますね。
牧 並行というか、カジノを認めたら当然、じゃあパチンコはどうなんだ?という話になります。換金についてもきちっと法律で定めて、グレーだった部分をなくすべきですよね。できればひとつの業法を作るべきだと思いますが、急には難しいなら、風適法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)の中で、パチンコホールと他業を分けるというやり方もあります。
──セットで出す必要はないということですか?
牧 セットでなくてもいいですが、カジノだけ先に合法化すると、「じゃあ俺たちも」という感じでギャンブル性の高いパチンコ台が増えて、ヘビーユーザーを増やしてしまいかねない。パチンコを、年金生活のお年寄りでも安心して遊べるような娯楽に回帰させるためにも、同時期に出すべきでしょう。
──換金が違法ならいますぐ禁止にすべき、という意見もありそうですが。
牧 意見はさまざまでしょうけど、換金はやはりストレートすぎますよね。ほかのやり方があると思う。玉の数を全部カードに入れて、それで買い物ができるとかね。例えばイオングループがパチンコもやって、同じ敷地内のイオンで買い物ができる、とか。
──景品が充実していれば、換金にこだわる必要はないということですね。ところで、小沢幹事長が、議員立法を原則禁止し、法案提出を政府に一元化する、という方針を打ち出しましたが……。カジノ法案は党内を上げての政策になるのでしょうか?
牧 こういうのは議員立法でやる話なんですが、政策決定を一元化され、政府部内ですべてやられてしまうと、我々の話がどこで反映されるのか?どこに預ければいいのか?ということになる。マニフェストで約束したことをやっていくだけならそれでいいのかもしれませんが、それだけではないですよね?これまで党の枠組みを超えて進めてきた話を、全部白紙撤回というのはおかしい。それでいて、法務大臣が夫婦別姓を唐突に出してきたり(笑)、政策にも優先順位があるじゃないですか。自分の趣向でそういうことをやるなら、こっちもカジノをもっとやってくれって思いますよね。
──今後は、どのように活動されていく予定なんですか?
牧 世界中が日本に注目してくれているうちに、早めに外に向けて打ち出さないといけない、という危機感はあります。でないと、観光客だけでなく、国際会議などでも次第に相手にされなくなってしまう。日本はまだ特定の議員が集まって、茶飲み話みたいなことをしている、という印象しかないでしょう?
──具体的に見えてはいないですね。
牧 まず、今月は臨時国会で皆がそろうので、体制を整えて、今後の方針を定めたいと思っています。その上で、自民党で今までやってきた方と超党派の議連を立ち上げるなどし、国民的な議論にまで押し上げる。来年の臨時国会までには通したいですが、どうなるか、というところですね。
早ければ来年の国会にも通過するかもしれないカジノ法案だが、そのプロセスには党内の混乱などさまざまな困難もあるようで……。雇用対策や外貨獲得の起爆剤として期待する人も多いだけに、ここはひとつ、早めにお願いします!
(文/逸見信介)
牧 義夫(まき・よしお)
1958年、愛知県名古屋市生まれ。民主党衆議院議員(4期)。上智大学文学部哲学科中退後、防衛庁広報誌記者、鳩山邦夫衆議院議員の秘書を経て、民主党本部に出向。2000年に衆議院選挙で当選を果たし、現職。(写真/後藤秀二)
そもそもカジノ法案とは? 日本が動くギャンブルマネーの魅力
現在検討されているカジノ法案だが、中身はどのようなものなのか。06年発表の「我が国におけるカジノ・エンターテイメント導入に向けての基本方針」によると、現在違法のカジノを、複合型エンターテイメント施設として国内で運営できるよう法整備するというもの。成立すれば日本にも、ホテルや劇場、アミューズメントパーク等が併設された、ラスベガスのような一大カジノ・リゾートが生まれ、雇用創出や税収増、外国人観光客の呼び込み等が見込まれている。カジノはそれほど儲かるのか?世界を見渡すと、日本以外の全ての先進国を含む120カ国以上でカジノは合法。ラスベガス、マカオ等のカジノリゾートには多数の観光客が訪れ、莫大な利益を上げているのだ。国内外のカジノ事情に詳しい日本カジノスクール校長・大岩根成悦氏によれば「日本は、カジノ好きの富豪が多い中国にも近く、立地条件が良いといわれています」とのこと。お台場にカジノを作れば、年間6000億円から1兆円の売上が見込めるという日本カジノ学会の試算も、あながち大げさとも言い切れない。
しかし一方では、治安の悪化、闇社会の資金源化、マネーロンダリング、ギャンブル依存症の増加などの懸念もある。これらの問題に対して「他国では、カジノ運営認可に厳格な審査を設けたり、依存症へのセーフティネットを義務付けるなどしています。警備に割く費用も莫大で、ラスベガスはアメリカでもっとも治安がいいとさえ言われるほどです」(大岩根氏)ということで、日本でも同様の対策を盛り込むとされている。
また、カジノの合法化に伴い、現在グレーな部分を抱えるパチンコも合法に、という案が浮上している。パチンコの換金方式は、客がホールで出玉と交換した景品を、店外の景品交換所で現金化し、問屋を通じてホールが景品を買い戻す、という三点方式が採られている。それぞれ別の営業主体のため違法ではない、という解釈だが、パチンコが実質賭博なことは周知の事実。さらに公的機関が介入し管理する、パチンコ税を導入する、などの案も挙がっており、業界に影響を与えることは必至だ。