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第1特集
おのれの体内に神を宿した男が、15年ぶりに日本映画界に殴り込み!?

"超人"角川春樹、日本の暗部に挑む!! 「おれが『笑う警官』を撮ったワケ」

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 実業家、文学者、俳人、冒険家、そして超人──さまざまな肩書を持つ角川春樹氏が、果敢にもニッポン警察の"ウラ側"に切り込んだ超大作映画の監督・脚本・製作を手がけたという。神の領域に達するべく、木剣を日に3万3100回振るう男が語る、本作のウラ側、そして世界の真実とは?

 本気なのか、リップサービスなのか。ここ数年、「人間から脱皮し、神の領域に近づいている」「脳細胞が覚醒する」「刑務所で宇宙を見た」などのブッ飛んだ発言が注目を浴びている角川春樹氏。いよいよ神の領域に達したのか、『REX 恐竜物語』以来15年ぶりにメジャー作品でメガホンを取ることになった。佐々木譲の人気小説を原作とした『笑う警官』である。

 なんと、監督に決定したのはクランクインの3週間前。急遽決まったのだという。角川氏はまず、そのウラ側を明かした。

「別の監督で撮ることになっていてね、キャスティングも撮影予定もすべて決まっていたんだ。ところが、現場サイドから『この監督の演出のままだとR指定になって、一般公開できないんじゃないか』という話が出てきた。激しい銃撃戦や血なまぐさいシーンがあると。これじゃ公開できてもせいぜい単館上映。とてもじゃないが製作費を回収できる見込みはない。テレビ放映も期待できない。かなり悲惨な結果になると。しかし、新たに別の監督を探してお願いした場合、脚本の書き直しに3カ月、ロケハンなどの準備に3カ月はかかる。クランクインの予定を変更すれば、すでに押さえた役者たちのギャランティを支払わなければならない。そうすれば3500万円は確実に吹き飛ぶ。その上、決まっていた俳優陣を再びキャスティングすることは難しい……。本当に危機的な状況だった」

 この窮地を救えるのは誰か? わずか3週間で脚本を書き、クランクインする。超人でなければ不可能だ。その時、現場から誰ともなく声が上がった。

──角川さんに監督してほしい。

「私は逆境に強い。史上最強かもしれない。刑務所に入る直前に肺結核を患い、胃がんで胃の4分の3を切除して、会社は倒産するかという状況の中で、体重は一時43キロまで落ち、医療刑務所に入った。それらの試練を乗り越えた私だから、今回の逆境もすべてプラスに変えられると信じた」

 超人、参上である。かくして角川氏は3週間で脚本を書き直し、新たにロケ地を探し、映画の構想を練ることとなった。

『笑う警官』の舞台は札幌。女性警官の殺人容疑をかけられた警官・津久井卓(宮迫博之)の無実を晴らすため、警部補・佐伯宏一(大森南朋)が、小島百合(松雪泰子)ほか信頼できる仲間と共に秘密裏に捜査を行う。そして彼らは、北海道警察内部の闇に踏み込んでいく──。

 薄暗いバーで大森がサクソフォーンを奏でる。全編ジャズに彩られた、渋い作品だ。静かに感情を押し殺すようないぶし銀の演技を見せる松雪。ところどころに燃える感情が見え隠れする。

「スタッフにシナリオが渡ったのは、クランクイン前日。しかも、撮影中も毎日家に帰ってから翌日撮る分のシナリオを書き直して、朝一番にスタッフとキャストに渡した。役者はたいへんですよ。覚えてきた台詞がほとんど変わっちゃうわけだから」

 スクリーンのウラ側は、ギリギリのスケジュールの中、厳しい演出がなされていた。角川氏が目指したのは、1950年代のロスを舞台にした『L・A・コンフィデンシャル』。あのテンポを表現しようと努めたという。妥協は決して許さない。

「初めて"演出"をされた役者が多かったんじゃないかな。というのも、今の監督は、演出なんてできないからね。マンガが原作の映画だったら、マンガを渡して『これと同じようにやって』って。それは演出じゃない。宮迫もこの映画で初めて"演出"されたひとり。『おまえ下手だなあ』と言ったら『そうなんです……』と言ってたね。だけど、私がいいところを引き出したよ。とはいえ、現場がずっと緊張していたかというと、そうでもない。昼休みは役者と一緒に演出プランについて話をするためにファミレスに行った。ロケ現場の周りには、ほかに何もなくてね。中川家の中川礼二が『角川監督がファミレスですか!?』って驚いてたけど、当たり前じゃないか!時間がない中での撮影だからこそ、役者たちとよく話し合ったんだよ」

木剣を振るう私の体から竜が抜けていくのが見えた

 なんだか、すごくまっとうな映画監督である。厳しくも楽しそうな現場であることが想像できる。しかし、やはり角川氏らしいエピソードはあった。台風をはね飛ばしたというのだ。

「撮影していたのは、昨年の秋。台風で予定がずれ込んだ場合、その分人件費、製作費がかさんでしまう。しかし、そこは角川春樹というケタはずれのシャーマンだから、ことごとく台風をすっ飛ばした。助監督にも言ったんだけど、私は撮るのが早い。深夜までかかる予定の撮影が、午前中に終わることもあった。それで、1日の撮り残しもなく、予定通りにクランクアップした」

 確かに08年の台風上陸はゼロだった。あれが角川氏の仕業だったとは!

 角川氏は、警察小説に格別の思い入れがあった。原作者・佐々木氏に本作品を含む北海道警察本部シリーズを書かせたのも、角川氏の提案がきっかけだった。

「警察小説はミステリーでありながら、組織や個人を描く人間ドラマでもある。中でもこの作品を映画化した理由は、警察対警官の戦いだから。警察の暗部はタブーなんだよ。各テレビ局にも制作協力を持ち込んだが、どこも『警察を敵に回すわけにはいかない』と断ってきた。どうりで、テレビ局が刑事モノの映画をつくるときには、毒にも薬にもならないものをつくるわけだね。北海道警裏金事件で告発証言をした元釧路方面本部長の原田宏二さんは、この映画を観て、『実際の刑事たちはこんなにスタイリッシュではありません。でもこの映画で描かれている内実は、すべて事実です』と涙してましたよ。警察を敵に回しても動じないのは、この私しかいない。日本の警察組織の暗部を初めて描いた作品といえるんじゃないかな」

 やはりそこには、自らを刑務所に追いやった警察への恨みも存在するのだろうか?

「恨み?そりゃありますよ。だから、私の取り調べのときに警察官が言った言葉を、そのまま台詞として使ってやったよ。『この年になって警察辞めても、つぶしが利かないんだよ』とかな」

 逮捕経験が存分に生かされた、リアルな警察映画に仕上がったと言えるだろう。そんな角川氏は監督であると同時に、プロデューサーでもある。職人的なこだわりを持つ一方で、常に、"商品"としての映画を捉えることも忘れてはいない。

「製作者は、利益を上げてこそ初めて製作者として成り立つ。この作品を当てるための方策のひとつとして、ホイットニー・ヒューストンに主題歌を頼んだ。面識?ない。初めてだよ。日本人の監督としては、黒澤明が向こうでも知られてる。しかし、プロデューサーとして知られているのは私しかいないんだ。でも、OKもらってから曲が完成するまでが長かったなぁ。半年もかかった。

 それから、ほかの監督はキャンペーンにはあまり参加しないけど、私は積極的にキャンペーンをするつもり。キャンペーンまでやる監督はあまりいないよね。普通は、"映画をつくったらそれで終わり、あとは宣伝部がんばって"。でも、それだと映画は成功しない。プロデュースまでのギャランティはもらってないからということなんだろうけど。映画はつくるだけでなく、当てないと」

ところで、08年5月号の本誌インタビューに登場した際には、月に1度、1日に木剣を2万5000回振るのだと語っていた 角川氏。曰く、人間の脳は通常3%程度しか活用されていないが、50%開けば神の領域に達するという。だが、脳を覚醒させるためには、強靭な肉体が必要になる。そこで、脳を覚醒させるための第一ステップとして木剣振りを始めたのだとか。

角川氏が愛用する木剣は、非常に重く、剣道の国体に出た選手でも300回いけばすごいというくらいのもの。『笑う警官』の中でも、カメオ出演して真剣を振りかざし、鍛錬の成果を披露した。ワンシーンだけの登場だが、とてつもない迫力と存在感だ。もっとたくさん出演してもよかったのでは?

「バカ言ってるんじゃないよ(照れ笑い)。あれには、宮迫がほんとにおびえてたよ。今はもっと激しくなって、3万3100回振っている。これは、通常の身体論で考えれば不可能なことなんだ。しかし私は、それを優に超えていく。なぜなら、私には神が入っているから。最初から神が入るというのはめったになくて、ほとんどは天狗か竜神が入っているんだけどね。私の場合は、神の竜神とそうでない竜神。霊感の生命体。で、回数を数えていた社員が言うには、2万2000回ほど振ったところで、私の体から竜が抜けていくのが見えたそうだ。竜が抜けてからは完全に自力で振らなきゃいけないから、死ぬような思いだったよ。その結果、今はいろんな技を編み出して、自分の流派をつくることができた。"一刀流"という古武道の一種。どの流派とやっても私は勝つ自信がある。次々に技が生まれてくるんだ。剣の世界では無敵だと断言できる」

 いよいよ、神降臨の瞬間が近づいているようだ。今後角川春樹は、いったいどこへ行ってしまうのか?

「この作品で150万人を動員できなければ映画をやめると断言したから、それが達成されないうちは何も言えないな。しかし、かつて散々な目に遭ったとき、親しいチャネラーの尼さんに、『角川さんには、超えられない試練は与えられていません』と言われて、気が楽になったことがある。超えられない試練はない。超えたからこそここにいる。個人の展望としては、特に何も意識してはいないよ。脳細胞を覚醒させることを目指しているけど、まだ開いていない。私にも、まだわからない境地があるんだ。肉体というカセを持ってる以上はね」

(安楽由紀子)

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角川春樹(かどかわ・はるき)
1942年、富山県生まれ。65年、角川書店に入社。75年、角川書店社長に就任。翌年、旧角川春樹事務所を設立し、映像と出版のメディアミックス戦略の先駆者として映画をプロデュースする。93年、麻薬取締法違反により逮捕、懲役4年の実刑判決を受ける。保釈中の95年、現角川春樹事務所を設立。俳人としても活躍している。

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『笑う警官』
2002年に明るみに出て問題となった北海道警裏金事件をヒントに、腐敗した警察組織内部にメスが入れられるさまを描き、80万部のベストセラーとなった佐々木譲の社会派小説『笑う警官』。この作品を、角川春樹がメジャー作としては15年ぶりにメガホンを取って映画化。残されたわずかな時間の中で、女性警官殺しの謎は解けるのか──。監督/角川春樹 出演/大森南朋、松雪泰子、宮迫博之、忍成修吾、螢雪次朗、大友康平のほか、松山ケンイチもワンシーンのみ出演。11月14日(土)より、全国ロードショー


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