「女性セブン」で隔週連載中の「レッツゴー3匹」より。プロ(左)とセンシュ(右)。↑画像をクリックすると拡大します。
ふらっと入った書店に自分の本が0冊だと、かなり落ち込みます。どうすれば、読者や出版社に見捨てられず、末永く仕事を続けていけるのでしょう……。ふと目についたのが、書店で華やかに展開されているペットブログ本コーナー。
このジャンルに参入できれば、ある一定数の読者が見込めるし、写真がメインなので作画や執筆の労力も少なく済んで良いかもしれない……と、下心が芽生えました。猫は萌えの宝庫なので、ネタに困ることもありません。ギャラを要求しないし、うまくいけば、わずかなエサ代で猫に養ってもらえそうです。そこで、今回は、最も勢いを感じさせる猫ブログコンテンツ「猫パンチTV」【註1】で、写真漫画を発表されているURA EVOさんに取材して、ペットブログで儲ける方法を伝授していただこうと思います。
葉山の高台に建つ瀟洒な一軒家が、URA EVOさんの猫ブログ制作現場兼ご自宅です。かなり素敵なお宅ですが、もしかして猫ブログ御殿? と思ったら、10年ほど前にこちらに引っ越して来られたとか。「このあたりは自然が豊かで、リスやタヌキ、ハクビシンやマムシ、なんでもいますよ」と、URA EVOさん。ブログにはそれらの珍動物は登場させず、猫onlyの姿勢が潔いです。世の中にハクビシン好きやマムシ好きは少ないので、マーケット的に判断されたのかもしれませんが……。
さっそくURA EVOさんのお宅にお邪魔。階段のところで「ニャ?」とグレーのアメショー系の猫が出迎えてくれました。漫画に出ていたチェリー【註2】です。一瞬で逃げてしまいましたが……。ほかの猫さんたちも隠れて出てこないので、ひとまず猫ブログの栄光の歴史についてお話を伺います。
「もともと1999年頃出入りしていた会社に、レナ(『女番社長レナ』という人気シリーズのヒロイン猫)がいたんです。webマガジンを立ち上げた時に、レナの写真漫画を連載することにしました。10年前は、写真漫画というスタイル自体珍しかったですね。『女番社長レナ』の本は人気で台湾版も出ました。猫ブロガーが集まった『猫パンチTV』をスタートさせたのは06年。単純に猫が好きで始めたんです。撫でたり見ているだけで癒やされるというか……。その頃はまだ猫ブームは来ていなかったです。最初は1日15PVだったのが、おかげさまで今は1カ月150万PVになりました」
そのくらいになると、アフィリエイトでしたっけ……かなりまとまった額が入ってくるのでは?と、下心をあらわに伺うと、
「アフィリエイトなんて、高校生のおこづかい程度ですよ。『猫パンチTV』の全ブロガーさん合わせても毎月1万円くらいにしかならないです。猫ブログだけで生活するのは絶対ムリです。猫ブログランキングに登録して、人気の1~15位くらいまでは書籍化の道も開けますが……。最近は猫ブログの数が増えているので、上位に入るのは難しいですね。猫ブログは、ほとんど自己満足の世界です。自分の猫の可愛さを見てもらって、コメントを書かれるとうれしい、みたいな……」
猫ブログの新機軸を提案「猫アダルト系サイト」
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お金にならないのなら、そんなに手間をかけたくないというのが人間の性。写真漫画というスタイルは理想的だと語るURA EVOさん。
「写真漫画は最高です。僕みたいな絵心がない人間でもできますから。デジカメとパソコンと加工ソフトがあれば誰でもできて、画材も必要ありません。ぜひ世の中に広めたい手法です。写真を撮る時に、フキダシが入るスペースを空けておくのがポイントですね。あとは猫のキャラを立たせて、複数いる場合、主人公を設定することです。とりあえず何か描いてみて、描きながら慣れるのが良いんじゃないでしょうか」
話を伺っていたら、だんだん手描きで漫画を描いているのがアホらしくなってきました。原稿用紙とインクとペン先とスクリーントーン代はバカになりません。写真漫画なら、それらの出費がゼロに……!
「僕はソフトのことがよくわからないので、写真を撮って、コンテ【註3】を描いて、嫁がIllustratorで加工するというスタイルです」
猫ブログという共同作業で夫婦の絆も強まります。でも、今から写真漫画を始めても、猫ブログが乱立しているので、URA EVOさんのような地位を築くのは難しいでしょう。時機を逸した感に打ちひしがれていたら、別の猫が来てなぐさめてくれました。センシュ(オス)です。
「尻尾の付け根をポンポンしてみてください。そこは猫の性感帯なので、腰を突き上げますよ」
URA EVOさんのアドバイスに従って、オス猫の腰の下を軽くスパンキングしていたら、目の前にお尻を突き出す扇情的な体勢【註4】に……。肛門&陰嚢があられもない感じで露出し、目のやり場に困ります。その時、ふと頭に浮かんだ猫ブログの新しい展開。
「猫のアダルト系サイトはどうでしょう。交尾シーンが満載の……」
「それは斬新ですが、飼い猫はたいてい去勢されているので、交尾の体勢は取らないです。ノラ猫の交尾シーンもまず遭遇しないですね」と、一瞬で計画は頓挫。では猫の次にくる動物は何でしょう?パンダ?ハムスター?アルパカ?
「中国の動物園ではパンダを抱けるそうですが、5分で1万8000円だそうですよ。アルパカは、那須まで行かないと会えません。原稿料が飛んでしまいますね」
と、冷静な助言をいただきました。そこで初心に帰って、飼育しているエビで写真漫画を作ってみることにしました。無表情なので、早くも限界を感じています……。
新たにペットを飼うにしても、初期費用が必要だし、部屋が汚されそうだし……画材代のほうが安く済むという結論に達し、大人の打算で今までの手描きスタイルを続けさせていただくことにしました。
[註1]「猫パンチTV」
URA EVOさんが主宰する、猫日記や猫写真、猫ムービーを集めた猫専門のサイト。人気コンテンツは本になったり、イベントを開催したり、景気が良さそうです。『コミック猫パンチTV』(幻冬舎コミックス/税込1000円)も発売中です。猫パンチTV
[註2]チェリー
チェリー(10歳・メス)は、URA EVOさんが独身時代から一緒に暮らしている猫。超短気で、猫パンチのスピードは3匹のうち最速だそうです。
[註3] コンテ
URA EVOさん作成の猫漫画コンテ。絵の勉強をしたことはないそうですが、かなりいい味のタッチです。編集者とのやりとりも漫画家が完全に主導権を握っていて、「このカットは撮れません」などと言ってストーリーを変えたりすることも。
[註4] 扇情的な体勢
センシュ(9歳・オス)は、数時間の間にけっこう慣れてくれました。性感帯を刺激するコツをつかんだら腰を何度も突き上げるようになり、「ゴッドハンドだね」とURA EVOさんに褒められました。
[余談]
最後まで出てこなかった人見知りのプロ(9歳・メス)。猫のじゃらし棒を持参したのですが、興味を示されませんでした。
しんさん・なめこ
1974年生まれ。東京生まれ埼玉育ち。漫画家・エッセイスト。セレブ、スピリチュアル、女磨きなどをテーマに、数々の作品を発表。「週刊文春」など多数の雑誌で連載記事を持つ。主な著書に、『女修行』(インフォバーン)、『女の人生すごろく』(マガジンハウス)、『開運修業』(講談社)など。