――全国に網を張り、強大な会社の力(今や過去のものだが……)を使える全国紙だけが、スクープを飛ばせるわけじゃない! 苦しい経営の中でも、各地に存在する地方紙だって、世間を揺るがすネタを取ってきた。なぜ地方でそんなことが可能に? 新聞業界が落ち込む今、地方紙の強みを考える。
朝日に読売、日経など、新聞業界の中で圧倒的な存在感と影響力を示す全国紙。しかし、置かれた環境は不利ながらも、地方紙が全国紙に先駆けてスクープを抜くケースも捨て置けない。日本中で話題を呼んだ地方紙発スクープの例として記憶に新しいのは、2003年に北海道新聞が報じた「北海道警裏金事件」だろう。北海道警察旭川中央警察署が捜査費用を不正に申請し、私的に流用していたことが発覚、その後内部告発が相次ぎ、3000人以上に処分が下された大規模な不祥事である。同紙は同事件についての一連の報道で、04年に新聞協会賞を受賞。そして同紙記者らによって、書籍『追及・北海道警「裏金」疑惑』(講談社)などが出版されたが、その内容をめぐり、道警が著者の北海道新聞記者2名と版元の講談社と旬報社を名誉毀損で告訴。今年4月の判決では被告側に計72万円の支払いが命じられるなど、いまだ騒ぎは収まらないままだ。
人員も予算も小規模な地方紙が、こんなスクープを報じられた理由はなんなのだろうか? 47都道府県52新聞社のニュース及び共同通信の内外ニュースを配信するウェブサイト『47NEWS』を運営する株式会社全国新聞ネット代表取締役社長の林憲一郎氏はこう語る。
「地方紙のスクープには、地元密着型と全国規模のものと2種類あります。前者は地方紙の強みを生かしたもの。その地域における記者の圧倒的な数と、地元特有の人脈、この2点が地方紙の武器です。全国紙は主要都市にしか記者を派遣しませんが、地方紙は域内の各地に支社があり、網の目の張り方が全然違います。また、地方紙の記者は地元出身者がほとんどのため、長年培った地域ネットワークが豊富。全国紙から派遣された"よそ者記者"には言わない情報も、地元記者だと仕入れやすい。その点で有利なわけです」
ただ、地元に広い人脈を持っていることは、同時に短所にもなるという。
「裏情報もたくさん入ってくるゆえに、それをどう処理するかが大変だと思いますよ。特に難しいのは、公害や、市長、知事などの汚職事件ですね。これらの事件は、当事者と警察、新聞社との関係が複雑で動きづらいことが多い。情報は知っていたのに、そういった人間関係のしがらみがあったために書けず、全国紙にスクープを抜かれるといったケースもままあるはずです」(同)
そしてもうひとつが、地方紙が全国区のスクープをすっぱ抜くパターンだ。沈みゆく新聞業界で地方紙はどこへ向かう?
「地方紙でも、ブロック紙と呼ばれるような大きな新聞社では、各地に多くの記者を置いているため、地元で起こった事件以外で全国規模のスクープを抜くこともあります。06年に北海道新聞が抜いた沖縄返還協定のスクープが、このパターンですね」(同)
地元の場合とは逆に、記者クラブに加盟していなかったり、中央と距離があるからこそ、問題追及が存分にできる場合もあるのだ。
とはいえ、全国紙同様、地方紙も広告売上は減る一方。依然として右肩下がりの状況が続いている。倒産した新聞社こそまだないものの、「秋田魁」「南日本新聞」「沖縄タイムス」「琉球新報」と、夕刊廃止が相次いでいる。
これから地方紙が生き残るためには、どのようなことが必要になってくるのか。前出の林氏は、「大口の広告をいかに取るか。広告は年ごとに減少傾向が激しくなっています。インターネットで、ターゲットを絞った広告の出し方ができるようになったのが大きな要因ですね。あとは、新しいメディアへ臆することなく挑戦していくところが結局は残るでしょう。たとえば、『秋田魁』をはじめ、夕刊を廃止した地方紙は、夕刊で速報を報道できない分、ウェブに力を入れるようになってきています。それから、地元ならではの情報を載せること。政治や経済のニュースだけでなく、もっと生活に役立つ情報、生活に密着したニュースこそ、地方ではニーズがありますから」という。
新聞業界には暗雲が立ちこめているが、限定された読者に対し、地域に密着した情報を提供してきた地方紙は、セグメント化されたメディアであるともいえる。全国紙にはない小回りを利かせて、新しい展開ができれば、まだ勝機があるといえるだろう。