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連載
佐々木俊尚の「ITインサイド・レポート」 第17回

広告収入減の各社にダメ押し! あらわになる"押し紙"タブー

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──大手メディアの間で長年タブーとされてきた新聞社各社による"押し紙"問題。6月に「週刊新潮」が報じたのを皮切りに、そのタブーが破られ始めた。広告収入も減る一方の新聞社にはまさに泣きっ面に蜂のこの事態、新聞総倒れの契機となるかもしれず──。

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足元からどんどんと崩れゆく新聞業界、今さらおろおろしても、時すでに遅し!?

 いま、こういう噂が流れている──新聞に全面広告を頻繁に出している大手メーカーが、広告代理店に強硬な質問状を送りつけてきた。それはこういう内容だった。

「本当に押し紙というのは存在するのか。もし本当に存在するのであれば、これまで我々が支払ってきた広告料金は、過剰請求ということになるのではないか。これは詐欺と呼んでも差し支えない事態であり、場合によっては訴訟も辞さない」

 これに対して広告代理店サイドは火消しに必死になっており、クライアント側に広告料金のダンピングも含めてさまざまな交換条件を提示しているようだ。これでいったん騒ぎは収まりそうな雲行きではあるものの、しかし一度暴露され始めた問題は、もう元には戻らない。

 いよいよ新聞社の押し紙問題が、新たな段階へと入ってきた。

 最初に突破口を開いたのは、「週刊新潮」である。6月11日号で、「『新聞業界』最大のタブー『押し紙』を斬る!ひた隠しにされた『部数水増し』衝撃のデータ」という記事を掲載したのだ。執筆したのは、かねてよりこの問題を追及し続けているフリージャーナリストの黒薮哲哉氏。「『押し紙率』を見てみると、大手4紙については読売18%、朝日34%、毎日57%、産経57%だった。4紙の平均でも、公称部数の実に4割以上が『押し紙』」という衝撃的な記述だった。

 押し紙について、簡単に説明しておこう。押し紙とは、新聞社が販売店に売る新聞のうち、読者に届けられない売れ残りのことだ。たとえば、ある販売店が5000部しか読者に販売していなかったとしても、新聞社からは6000〜8000部と余計に販売店に届けられる。そしてこの余計な1000~3000部の仕入れ代金は、販売店側に押しつけられる。そうやって新聞社から押しつけるから、押し紙と呼ばれるのだ。

 なぜこのようなことがまかり通っているのかといえば、2つの理由がある。まず第1に、新聞社側が部数を減らしたくないから。だから部数減の分を、販売店に押しつけている。

 第2に、部数が減ると広告単価に影響があるから。見た目の部数をなんとか維持することによって、広告料金を高止まりさせることが可能になるというわけだ。
 
 新聞販売店からすると、押し紙は一方的に損失を押しつけられる以外の何ものでもない。しかし押し紙を断ったりすると、販売店契約を解除されてしまう恐れがあるため、新聞社に対して従属的な立場にある販売店は、このひどい慣行を受け入れざるを得ない。
 
 とはいえここ数年、新聞の部数はますます減少してきており、経営に行き詰まる販売店もどんどん増えている。そこで「窮鼠猫を噛む」じゃないけれども、販売店の側が新聞社を相手取って訴訟を起こすようなケースも現れてきている。しかしこうした問題を、新聞社の側は、まったくといっていいほど報じていない。メディア界のタブーのひとつだったのだ。

 しかし、もう押し紙を隠し通すことはだんだん不可能になってきている。

 そもそもこれだけ新聞を定期購読する人が減り、周囲を見渡しても「新聞をとってます」という人がものすごい勢いで少なくなっているのにもかかわらず、いまだに読売新聞が1000万部、朝日800万部、毎日380万部という公称部数がまかり通っているのは、あまりにも無理がありすぎる。本当にそんなに新聞は読まれているのか?実はかなりの部数は、押し紙で維持されているだけじゃないのか?

 そういう状況の中で、「週刊新潮」が大手メディアとしてはほとんど初めてといっていいぐらいに、本格的に押し紙問題に切り込んだのだった。

 そしてこの記事を見て驚愕したのは、新聞社に広告を出稿しているクライアント企業だった。これまで押し紙問題はメディア業界の一部で細々と語られるだけで、大きなメディアで正面切って取り上げられることはあまりなかった。だから新聞の広告クライアントにも実は押し紙問題はあまり認知されていなかったのだが、「週刊新潮」によって、とうとう衆目にさらされることとなってしまったのである。

海外メディアも注目する株主たちへの影響

 新聞広告に関していえば、もう何年も前から「新聞に出稿しても、ほとんど効果がない」といわれるようになってきている。購読者層がどんどん高年齢化し、購買力が落ちてきているからだ。それでも、大手クライアントの宣伝部と大手広告代理店、そして新聞社の広告局という3者は長年にわたってがっちりと強固なトライアングルを作り上げ、そこで人間関係も構築してきた。昨日まで仲良くしていた新聞社に対して、急に「これからは、もう新聞広告はやめます」とは言いにくい。

 ところが昨年のリーマンショックに端を発した不況は、この無敵のトライアングルを崩壊させつつある。リーマンショックを口実に、多くのクライアントが「100年に一度の不況だから、新聞広告はもうちょっと無理ですよ」と通告するケースが目立って増えてきているのだ。新聞社の側も「まあ100年に一度ですからね。我慢するしかないですね」と広告出稿の手控えを受諾せざるを得ない。しかし実のところ、仮に景気が回復したとしても、広告が新聞に戻ってくる保証は何もない。ある大手日用品メーカーのブランドマネージャーはこう言う。

「マスメディア広告に関しては、以前より影響力が減ったとはいえ、テレビの力はまだ大きい。特に、インターネットをあまり利用しない地方の消費者や高齢者へのリーチにはテレビは必要だ。だから今後広告は、テレビとインターネットの二本柱になっていくんじゃないか。それ以外の、媒体力のない新聞とかラジオとか雑誌は、もう不要だ」

 これが実態なのだ。そしてこういう新聞広告をめぐるひどい状況に追い打ちをかけるように、いよいよ押し紙問題が急浮上し始めた。これは、新聞の広告にとどめを刺すことになるかもしれない。

 ここにきてさらに今度は、「海外のメディアが、日本の新聞の押し紙問題に注目している」という報道まで流れてきた。

 報じたのは「週刊ダイヤモンド」誌で、7月16日付のダイヤモンドオンラインで「米メディアも"押し紙"を報道 新聞部数の水増しに海外も注目」と題し、以下のように書いた。

「米国の有力メディア『クリスチャンサイエンスモニター』が押し紙問題を報道すべく、販売店店主らへの取材を進めているのだ。取材を受けた販売店店主によれば、記者は特に、『日本企業に投資する海外の投資家が押し紙を知らないことを問題視していた』という。(中略)海外の投資家がそんな事実を知ったら、自らが投資する日本企業に、新聞社に対して抗議するように促す事態も考えられる。外国人投資家に、もの言う株主が多いのはいうまでもない。 また、『英語圏での報道をギネスブックの関係者が目にすると困るのは読売新聞』(読売と係争中の販売店店主)との声も。同紙はギネスで、『世界最大の部数』と認定されており、取り消しでもされれば恥をかくからだ。 さらに、一部の国内テレビ局も取材に動き始めているし、今年の株主総会で押し紙問題について質問した日本人株主もいる」

 とうとう堤防に大穴が開き、そこから川の水が漏れ始めたのだ。このまま進めば、水漏れは気がつけば奔流となって堤防を決壊させ、新聞業界を土石流とともに押し流してしまうだろう。

知らないとマズい! 佐々木が注目する今月のニュースワード

「クロームOS」
グーグルが発表した、パソコン用の新しいOS。2010年下半期にリリースされ、まずはネットブックに搭載し、低価格あるいは無償で発売されるといわれている。WindowsやMacOSに対抗できる勢力になるかどうかに、大きな注目が集まっている。

「スクリブド(Scribd)」
文書共有サービス。ユーザーが投稿した文書を、ほかのユーザーとの間で共有し、評価できる。文書版のユーチューブとして注目を集めていて、将来の電子書籍のプラットフォームになるのではないかという観測も出ている。いま一番の注目株だ。

「マネタイズ」
最近、ウェブの業界で一番注目されている言葉。要するに「収益化」のことなのだが、広告が不況で縮小する中で、どのようにすればソーシャルメディアなどのサービスを収 そこでみんな「マネタイズ、マネタイズ」とお題目のように言いながら、情報交換や海外の事例分析などに走り回っている。

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