(写真/大泉美佳)
──昭和最後の内閣総理大臣・竹下登の孫、DAIGOの姉として注目を浴びるマンガ家・影木栄貴が、エッセイマンガ『エイキエイキのぶっちゃけ隊!!』(新書館)を発売。本書では、祖父のことや弟のこと、自分の腐女子気質についてなど、赤裸々に語られている。今まで自ら多くを語らなかった彼女が、いかなる覚悟ですべてをさらけ出したのか?
──これまで、少女マンガをはじめ、BL(ボーイズラブ。女性向けに、男性同士の恋愛が描かれた物語)や百合(女性同士の恋愛が描かれた物語)の作品も多く描かれていますが、自分と家族について語るエッセイマンガを描かれた経緯について教えてください。
影木(以下、影) 05年の1月に「第74代内閣総理大臣・竹下登氏の孫はマンガ家で、総理大臣と女子高生のラブストーリーを描いていた」というネタで、『トリビアの泉』(フジテレビ)に出演した後に、せっかくだから家族のことなどを自分の言葉でぶっちゃけたら面白そうだよね、ということで描き始めたのがきっかけです。
──単行本になって、周りからの反響はいかがでしたか?
影 今までの作品の中で一番面白いって言われますね。フィクションよりも、自分の周りのノンフィクションのほうが面白いというのは自覚していたので、こんなエッセイマンガを描いたら絶対面白いんだろうなあとは思っていました(笑)。ただ、作品の中で自分のすべてをさらけ出そうと決心はしたものの、まだ整理ができていない部分もあって……。私は自分の力でマンガ家になってここまできたのに、竹下登の孫だとバレた途端に、「七光でしょ」みたいな見方をされるのがすごく嫌で、吹っ切れていない部分もあったんですね。納得のいくネームが描けなくて、連載をストップしていた時期もありました。
──首相時代のおじい様のことも描かれていますが、つらいエピソードも多いですよね。
影 そうですね。まだおじいちゃんとのエピソードを客観的にとらえることができていなかったんだと思います。世間やマスコミに対する恨み節と、"自分はこんなにがんばったのに!"という思いが強くなってしまっていて、読者が不快になるような描き方をしていたんです。おじいちゃんは消費税を導入した総理大臣だったこともあり、あまり人気がなく、当時マスコミに総攻撃されたんですね。消費税導入の利点は一切報道せずに、ただ批判するばかり。身内が攻撃されて初めて、報道に偏りがあるんだということに気づきました。
でもDAIGOがテレビに出始めて、彼がおじいちゃんの名前を明るく前面に出しているのを見て(笑)、気持ちの整理がつきました。今まで持っていたプライドやネガティブな考え方が、どうでもよくなっちゃったんですね。それでネームを描き直したら、理想の形になりました。
──本では普段のおじい様について、「何を考えているのかわからない、宇宙人みたいな人だった」と描かれていますよね。
影 はい。本当に変な人で……。総理時代、答弁が"言語明瞭、意味不明瞭"と言われていたんですが、家では出雲弁でしゃべるものですから、"言語不明瞭、意味不明瞭"でしたよ(笑)。そういえば、これは本に書いてないのですが、年号が変わるとき、次は何になるのか先に教えてもらおうと思って聞いたんですけど、最後まで口を割ってくれなかったのを覚えています。私が「"慶応"があったんだから"早稲田"とかどうよ?」って言ったら、「それはだめだ」って言ってましたね(笑)。
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──先生は商業誌だけでなく、現在も同人誌を精力的に描かれていますよね。それぞれ、描く上での心構えが違うものなのですか?
影 まったく違います。同人誌は、好きな男をメチャクチャにしたいという、自分の欲求を満たすために描いています。"同人誌で好きなキャラを描くこと=恋愛"ですね(笑)。商業誌は理性を持って、読者を楽しませるためにエンターテイナーとして描いています。
(C)影木栄貴/新書館
──本の中で、「BLマンガは魂の叫びなの!!」と描かれていますが、BLのどこが魅力で、この世界にハマっていったのですか?
影 なんでしょうね?(笑)小さい頃から戦隊ものが好きで、正義の味方が捕まって縛られたりして、苦しがっている姿を見るのが大好きだったんです。ずっと"この感情は何なんだろう?"と思っていたんですけど、高1のときにBLの存在を知り、"私が求めていたのはコレだ!"と魂が震えました。BLって普通の甘いセックスだけじゃなくて、ちょっと加虐性欲的なところがあるじゃないですか? "好きな人をメチャクチャにしてやりたい!"みたいな。そんな、私の中にある男的な欲求を満たしてくれるのがBLなんだと思います。これは、あくまで私個人の場合ですが。
──そういう欲求が身についたことと特殊な家庭環境で育ったことは関係していると思いますか?
影 関係ないんじゃないかな? でもうちの父親がエロにすごく厳しかったことは、関係しているかも。人間、抑えつけられて、自然にあるものをないものとされると、嗜好が歪むと思うんですよ(笑)。BLに限らず、私はエロが好きなんです。女の子の裸も大好きで、AVとかも観ますし。子どもの頃、家にあった「週刊宝石」のグラビアページを隠れて眺めたりしてましたからね(笑)。
──BLは多ジャンルで奥が深そうですが、先生のお好みは?
影 腐女子って、妄想するカップリング(キャラクター同士の恋愛関係)にこだわりがあって、たいていは"一穴一棒主義"的なんですけど、私は昔から"総受主義"になることが多いんですね。たとえば私が初めて読んだ、『聖闘士星矢』(車田正美作/集英社)の同人誌で説明すると、氷河と瞬のカップリングだったら、氷河が"攻め"(セックスにおいて男性役)・瞬が"受け"(セックスにおいて女性役)しか認めないというのが一穴一棒主義です。私みたいな総受主義は、氷河が"受け"なら、"攻め"は誰でもいいんですね。場合によっては氷河が"攻め"でも全然アリ。女性化もアリ。そこらへんのこだわりがないんです。意味わかります?(笑)
──DAIGOさんとも、そっち方面の話をされたりもします?
影 「アスランが好きすぎて眠れないんだけど、どうしよう!?」とか、電話したりしますよ。DAIGOは、「恋をするのはいいことだね」って言ってくれます(笑)。
──百合作品のほうも、「好きな子をメチャクチャにしたい!」という思いが根底にあって描かれているのですか?
影 女の子に対しては、あまりそういう欲求がありません。百合は、BLよりはファンタジーじゃないんです。すごく好きな友達に彼氏ができると、微妙に「私の●ちゃんを盗られた!」と思うみたいな、そういうちょっと生々しい感情を描きたいと思って、百合を描き始めました。BLに比べて百合はまだまだ間口が狭く、"●ちゃんと一緒にいると、なんとなく心地いい"的な、精神論ばかりを描いていると思うんですね。だからこれからは、いろんな設定のものやもっとエロいものも入れていかなければいかん! と思い、百合はよりチャレンジ精神を持って描いています。恋愛物語は、セックスまで描いて初めて成立するものだと思いますから。
──最後に、今後の展望について教えてください。
影 コンビを組んでいる蔵王大志に作画してもらい、今後は原作執筆メインにシフトしていこうかなと思っています。というのは、自分の画力が脳内イメージに追いつかなくて……。あと、年を取ってきて、量産が厳しくなってきているというのもあります。2人で得意分野を分担すれば、倍の速度で描けるのでは? ということで、デビュー15周年の2年後までこのスタイルでやってみて、ちょっと大きなことができればなと考えています。エッセイマンガは、自分で絵も描きますよ。家族ネタに限らず、私自身のことも自分の言葉で伝えていきたいですね。
(構成/遠藤麻衣)
影木栄貴(えいき・えいき)
マンガ家。本名:内藤栄子。1971年、東京都生まれ。96年、『運命にKISS』(新書館)でデビュー。以後、少女マンガ、BL、百合と、多方面の作品を描き、商業誌と同人誌で活躍中。05年、『トリビアの泉』(フジテレビ)で第74代内閣総理大臣・竹下登の孫であることが採り上げられ、話題に。弟は、言わずもがな、BREAKERZのDAIGO。
『エイキエイキのぶっちゃけ隊!!』
竹下登元首相の孫にしてDAIGOの姉、マンガ家の影木栄貴が描く、涙あり笑いありのエッセイマンガ。竹下氏が亡くなる直前の家族だけが知るつらいエピソードから、7歳年下の弟・DAIGOの幼少時の素顔まで、ぶっちゃけ掲載。巻末には、作者本人とDAIGOとのマル秘対談も収録!! 作/影木栄貴 価格/819円(税込) 発行/新書館