――不況不況とメディアは騒ぐが、そこで話題になるのは、誰もが知っている有名企業の動向ばかり。でも世の中、大会社だけで回っているわけじゃない!(怒) 目立たなくても生活に欠かせない業界に日々接する、専門紙編集長に聞いてみた。おたくの業界、最近どうですか?
「アート」「サカイ」と競争必至で中堅企業がこれからアブない
『物流Weekly』6月22日号。
【引っ越し業界】 『物流Weekly』 高田直樹代表取締役
物流産業新聞社
毎週月曜日発行/1カ月3700円/発行部数16万5000部/主な購読層:物流企業経営者
ここでは物流の中でも、引っ越し業界についてお話しします。今般の不況の影響で、企業が社員を転勤させなくなったり、家族ごとの引っ越しではなく単身赴任を増やしたりしていることで、業界全体的に受注が減っていることは確かです。3月の繁忙期も、以前よりピーク期間が減少しています。
今後も全体的に低調が続くと思いますが、「アート引越センター」や「サカイ引越センター」などの大手は資金力もあり、堅調といえるでしょう。また、大手がテレビCMで知名度を高めているのに対して、小規模な会社は複数の会社の見積もりを一括で出せる「見積もりサイト」のようなネットサービスに登録しているところも多い。厳しい価格競争を展開していますが、それなりに収益も上げているようです。
生き残りという意味で一番厳しいのは、中堅クラスです。大手との競争にさらされるポジションにあり、価格競争をするとどうしても負けてしまう。一昨年、「ダック引越センター」が「アートコーポレーション」の傘下に入りましたが、今後はさらにそうした業界再編が進んでいくのではないでしょうか。「ゾウさんのほうがもっと好きです」のCMで有名だった「松本引越センター」の破産手続きですか?あれは報道でも言われている通り、業界の動きや不況とは関係なく、単純に同社の経営体質の問題かと思いますが……。
引っ越し業は現金商売ですから、これまでは片手間で始めようとする運送会社も多かった。繁忙期だけ引っ越しをやるとか、そういう形ですね。でも、そういったやり方だと、結局人材もノウハウも育ちません。今後は、各社がどれだけサービスの質を向上できるかがポイントとなってくるのではないかと思います。
「SECOM」「ALSOK」との棲み分けで価格競争の波を超えるべし
『警備保障新聞』6月5日号。
【警備業界】 『警備保障新聞』 市川四郎編集長
株式会社警備保障新聞社
毎月5日・15日・25日発行/年間購読料3万1500円/発行部数1万5000部/主な購読層:警備保障業界全般
1962年に現在の「セコム」(東京)が誕生してから今まで、警備業界の市場規模はずっと右肩上がりでした。しかし、2008年に入って全体の売り上げが下がりました。現在、警備会社は全国に約8900社あり、過剰になっています。そのため過当競争が起こり、価格の引き下げが進んで市場規模全体を下げることになったのです。
とはいえ、警備の需要は警察からの民間委託などにより、現在も少しずつ増えており、警備員の数も増えているので、見通しの明るい業界ではないかと思います。ただ、今後は合併や吸収など淘汰が始まるのではないかと思いますね。特に警備員が常駐しない"機械警備"については、スケールメリットを生かしやすいので大手の独壇場。業界1位の「セコム」、2位の「綜合警備保障(ALSOK)」の2社で約8割の売り上げを担っています。しかしながら、業界全体で見ますと、大手2社を合わせても市場全体の約6分の1に過ぎないんですね。参入障壁が少なく新規参入しやすいので、若い社長も多く、起業家を目指すには良い業界なのではないでしょうか。
中堅で元気なのは09年上半期の売り上げが業界7位の「テイケイ」(東京)、13位の「シンテイ警備」(同)あたりです。両社ともイベント警備(花火大会など)に強い会社で、大手が予算の関係で参入しづらいところを狙ってます。中小になりますと「第一警備保障」(福岡)、「にしけい」(同)など地元に強い企業が目立ちますね。反対に伸び悩んでいる会社ですか?うーん、行政を相手にしている会社は毎年入札で受注者が入れ替わるので前年度より大きく落とすケースがありますが、連続して業績を下げている会社はあまりないような気がしますね。
対面販売が生き残りのキモ コンビニ的では先行き不安
『薬局新聞』6月24日号。
【薬局業界】 『薬局新聞』『ドラッグストアレポート』 川畑朗編集長
薬局新聞社
毎週水曜日発行/年間購読料1万7000円/発行部数5万700部/主な購読層:医薬品小売業者・製薬メーカーなど
6月の薬事法の改正により、これまで薬剤師がいないと販売できなかった市販薬のうちの約95%を、「登録販売者」がいれば売れるようになりました。これによりスーパーやコンビニが参入しやすくなり、これまで規制に守られてきた業界であった薬局・薬店がイオングループなど流通大手との競争にさらされつつあります。もともと不況に強く利幅のある市販薬は、小売流通市場で狙い目の商品と考えられていました。
薬局・薬店・ドラッグストアが生き残る道のひとつは、文書を用いて説明を行う、作用の強い市販薬の対面販売など、専門性で信用を得ること。利用者が店を選んで薬を買う状況となったときに強いのは、やはり薬剤師のいる店でしょう。現在の業界1位は「マツモトキヨシ」ですが、2位の「スギ薬局」は、30年前の創業当時から一貫して薬剤師がいる薬局での店舗展開を続けているので強いと思います。「スギ薬局」の業態と近い「グローウェルホールディングス」も注目株ですね。ここは長時間営業をするなど、利便性でも積極的な取り組みをしています。
10年ほど前からドラッグストアが台頭し始め、今では薬局も薬以外の化粧品や日用雑貨などを販売するイメージが強いと思います。実際に、それらの店舗の売り上げで医薬品の占める割合は30%程度。ただ、実際に利益があるのは医薬品です。化粧品や日用雑貨は客寄せとして効果はあるけれど、利益は薄い。そういった意味でも、登録販売者では売れない5%の薬の販売や信用のある対面販売を強みとしていくべき。利用者に「コンビニやスーパーと同じ感覚」で利用されてしまう薬局・薬店は、今後これまでのようにはいかないかもしれません。
「加ト吉」「ニチレイ」に続け! 海外展開が大手の主流に
『冷凍食品新聞』6月29日号。【冷凍食品業界】 『冷凍食品新聞』 山本純子編集長
冷凍食品新聞社
毎週月曜日発行/年間購読料3万5280円/発行部数2万5000部/主な購読層:冷凍食品メーカー・流通企業、量販店、外食チェーン、その他冷凍食品関連業界、官庁、研究機関
冷凍食品に限らず、食品業界は不況でいきなりガクンと落ちることはない業界です。業界トップ10に入るメーカーを見ても、非常に厳しい環境下にあった昨年度でも、ほぼ横ばいか数%減止まり。中には102%というところもあります。ただ、強い業界だといっても少子高齢化でパイそのものが縮小しているので、競争に負けた場合は事業の縮小や、去ることを余儀なくされる企業も多くなってくるでしょう。冷凍食品売り場をよく見ると、少なくとも15社程度のブランドがあるのに驚くと思います。冷食は業務用も含めあらゆる食品分野に及ぶため、700社程度とメーカー数が多いですが、業界内で競争ばかりせず、再編が必要だという声も高くなっています。大手の企業は海外にも目を向けています。すでに海外で日本向け商品を作っている企業は多数ありますが、今後は海外で現地やその他の国々向けの冷食を作る企業がさらに増えてきます。まず、「加ト吉」が得意の冷凍うどんやフライ類で海外に打って出ています。「ニチレイフーズ」「味の素冷凍食品」「日本水産」は中国やタイを中心に生産拠点があり、日本以外の販売実績を積み上げてきています。マルハニチログループの「アクリフーズ」も中国の「煙台阿克力食品」という子会社で現地向け商品を作っています。もちろん、国内の畜肉原料調達力を強みとして、昨年度売り上げが前年度比119%という「日本ハムデリニューズ」のような企業もあるように、国産に対する安心感に訴える商品は今後も根強いでしょう。
食品業界は、堅実にノウハウを積み重ねてきた業界。厳しい企業があるとしても、統合の形で生き残っていけるのではないかと思います。
機能の裏付けデータなくして健康食品への信頼回復なし
『健康食品新聞』6月24日号。【健康食品業界】 『健康食品新聞』 山内洋行編集長
食品化学新聞社
毎週水曜日発行/年間購読料2万1000円/発行部数1万2000部/主な購読層:食品メーカー、大学、医療機関コエンザイムQ10のヒットなど、健康食品市場は2005年まで右肩上がりでした。というのも、テレビ番組で紹介されると、その原料を使った商品が急激に売れる状態が続いていたからです。ところがその後、テレビ番組のねつ造問題で、健康食品そのものに対する信用が落ちてしまいました。
業界全体が厳しい中で、企業は生き残りをかけて、より確実にデータの裏付けを取るようになりました。今の食品表示制度では、厚生労働省が認可した特定保健用食品(トクホ)以外は、企業が機能性のデータを取っても消費者の目に触れるところでは公開できないという制約がありますが、企業は自主的に行い、きちんとしたものを売ろうとしています。消費者の理解が進み、安い商品に集中せずにきちんと選別しているからです。データを確実に集めることで業界内でも一目置かれているのは、「富士化学工業」や「インデナジャパン」でしょうか。そのノウハウがなく、安さだけで勝負しようとする企業は厳しいかもしれません。
「健康食品」の定義は実は曖昧で、法による規制がありません。トクホの表示許可が出ているものは約850品ありますが、審査が厳しいし、コストがかかるので中小企業は手を出しにくい。このため、中小を中心に、トクホに次ぐ規定を作ろうという動きもあります。
いま業界が注目しているのは、「日本ハム」が総合医科学研究所と共同で開発し、疲労軽減作用でトクホ申請を行っているイミダゾールジベプチドという成分を配合したドリンクです。これが認められれば、すごいことになりますよ。将来、「疲れが軽減できる!」と明記した商品が店舗に並ぶかもしれませんから。
「コムスン」方式は通用しない 適正価格で確実なサービスを
『シルバー新報』6月26日号。【介護業界】 『シルバー新報』 川名佐貴子編集長
環境新聞社
毎週金曜日発行/年間購読料2万2050円/発行部数6万部/主な購読層:介護保険の事業者(在宅・施設)、行政団体、研究機関、福祉用具メーカーなど2000年の介護保険創設から、介護報酬のマイナス改定が続き伸び悩みましたが、今年4月の介護報酬改定での3%アップ、政府の緊急経済対策も追い風になり、少し上向きました。しかし今後の少子高齢化を考えれば、以前の「コムスン」のように、いかに効率よく介護報酬を受けるかに尽力するビジネスは、特に大手では厳しくなっていくでしょう。
上場している企業の決算を見ると、有料老人ホーム、高齢者住宅を運営している企業は介護報酬の動向に左右されにくく、比較的安定しています。介護報酬以外にも入居一時金、利用料などの収入があるし、都市部を中心に施設が慢性的に不足していることが大きい。有料老人ホームというと高所得者層向けというイメージがあるかもしれませんが、岡山に本社を置く「メッセージ」は入居金をゼロにして価格破壊旋風を巻き起こしました。現在は全国に160以上の施設を展開し、「ベネッセスタイルケア」(ベネッセコーポレーションの100%子会社)と並ぶ業界大手です。ベネッセも、対象所得層を3段階に分けて、それぞれに見合った額のホームを提供しています。
介護・福祉は不況に強い業界ですが、最も大きな問題は、需要に対するマンパワーの確保。今後は人材を集めるだけでなく、育て、定着させていくことができるかが企業にとっての強みとなっていくのではないでしょうか。それと、個人的には、もっと女性の経営者に頑張ってほしい。サービスを受ける人も、提供する人も多くが女性という業界ですから。それに、女性は日常で得たヒントからサービスを考え、ビジネスにするのがうまい。まだまだチャンスがあると思いますよ。
建設ラッシュは二度と来ない……独自の顧客を持たぬ中小は危険
『日本プレハブ新聞』6月25日号。【プレハブ住宅業界】 『日本プレハブ新聞』 新谷和明編集長
株式会社日本プレハブ新聞社
毎月5日・15日・25日発行/年間購読料1万2600円/発行部数1万6500部/主な購読層:住宅メーカー、工務店、住宅設備メーカー、官庁・地方公共団体など不動産業界自体が落ち込んでいるので、やはり住宅業界も落ち込んでいます。土地付きで住宅を販売しているような会社は、地価の下落の影響で悲鳴を上げています。それに加えて、消費者の持ち家志向の落ち込みもあり、住宅建設戸数も減少。今年3月の決算期には、大手住宅メーカーは黒字でしたが、4月以降は業績において前年同月比でマイナスになっている会社がほとんどですし、先はまだまだ見えないです。
元気な中小企業もいくつかあります。神奈川県の「近代ホームグループ」は地域に根差した高級住宅の販売で堅調ですし、埼玉県の「富士住建」は、エアコンからカーテンまで生活に必要な設備類をあらかじめフル装備した木造住宅を据え置き価格で販売しています。コスト削減の面でかなりの企業努力をしていると思います。東京都では、「みらいテクノハウス」が世田谷区・練馬区などで高所得者層に絞った高級住宅を、「相羽建設」が東京多摩地区・西部地区で質の良い狭小住宅を販売しており、それぞれ独自の顧客層をつかんでいる住宅企業は堅調なのです。
一方、大手を見ると、大きく落ち込んでいるところはありません。大手の顧客は高所得者層が多く、安定した消費者を抱えているので、全体的に見て有利です。ただし、住宅が以前のように爆発的に建設されることはないと考えると、大手といえど、今後経営戦略を間違えると、黒字の維持は難しくなるでしょう。中小企業は、持ちこたえている社とそろそろ経営的に危ない社が二極化しています。独自の特色があり、営業力や提案力が強く、地域に根差した販売網があるところでないと、今後厳しくなるのではないでしょうか。
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