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印刷業界はもうダメ......じゃない!? 近頃大日本印刷がお盛んなワケ【1】

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――長らく、業界全体が致命的な不況に陥っている印刷業。いち早く生存をかけて、2トップたる大日本印刷と凸版印刷は数多くの新規事業に手を出している。その他中小の印刷会社は、それに置いてけぼりを食らっている状況だ。業界存続の存亡危機に、特効薬はあるのか?

 今年5月、大日本印刷(以下、DNP)が中古書販売最大手のブックオフへの出資を決め、出版業界に大きな衝撃が走った。同社は昨年には大手書店の丸善、ジュンク堂、取次会社の図書流通センターを次々に子会社化しており、その動向はいま、各所に波紋を広げている。DNPといえば、凸版印刷(以下、凸版)と並ぶ印刷業界の2強のひとつ。創業から110年以上にわたり業界をリードしてきた雄だが、今年3月期には上場以来初の最終赤字に転落した。ブックオフへの出資はその直後に発表されたが、同社は長きに渡って出版業界の目の敵だった新古書店。それだけに、DNPの真意は読めず、業界関係者たちを困惑させた。さらに、これに対抗するかのように、6月には凸版が紀伊國屋書店との業務提携を発表。にわかに急激な動きを見せる印刷業界に、注目が集まっている。とはいえ、そもそもこの業界は、一般にはあまりなじみがないはず。2強を中心に、あらためて印刷業の近年の動向を見ていこう。

 現在、印刷業界の市場規模は6兆円強と算定されているが、規模、売り上げ、人員ともに1999年から連続で減少を続けている。それまで印刷業界は、景気の影響を受けにくい業種だと考えられていた。そのため、バブル期以降も新規参入が続き、業界は拡大してきた。だが、最近では存続が危ぶまれるほどまでに衰退。その原因のひとつは「デジタル化や印刷機器の高性能化」だと、中小印刷会社を専門にコンサルティングを行う阿部隆氏は言う。

「これまで印刷会社は『プリプレス』と呼ばれる印刷の前工程(入稿、デザイン、版下制作など主にアナログの作業)に対する料金をクライアントに請求できましたが、デジタル化による省工程化でこの部分の売り上げが激減。また、インターネットの普及により雑誌や書籍など紙媒体が売れなくなり、受注自体も減少しました。印刷機器のスピードが高速になり生産性が上がっても、そもそも印刷するものがなければ売り上げは上がりません」(同)

 そして、衰退の原因としてもうひとつ挙げられるのが、日本の印刷業界の特殊な構造だ。現在、印刷業界はDNPと凸版の2社(大凸)を筆頭に、共同印刷・図書印刷などの準大手、中堅、中小企業がそれに続く。事業所は全国に約1万5000あるとされるが、そのうち約99%が従業員300人以下の規模。そして売り上げベースで見ると、大凸が業界の半分近くを占める。つまり、この業界は完全なる寡占状態にあるのだ。しかも、「中小印刷企業の中には、両社の下請けで業務を展開する企業も多い。『印刷会社の一番の得意先は印刷会社』と言われるほど、相互依存体質が強い。大凸の業績=業界全体の動向といっても過言ではありません」(同)。ゆえに紙媒体が不振の今、大凸の業績不振→中小企業の受注減少・倒産→業界の危機と、負の連鎖が続いてしまうのだ。

ICカードに液晶テレビ、ファンタまで作る新事業

 このように地盤沈下を続ける印刷業界だが、新たな展開で再浮上を図ろうとする取り組みも行われている。その筆頭はやはり、2強の大凸。両社は現在、新規事業領域に進出しており、中には、「それ、印刷?」と首をかしげたくなるような取り組みも存在する。

 上で詳細な紹介をしているが、凸版印刷は高い技術力を武器に、版下のデジタル化や、液晶テレビ用カラーフィルターの開発製造など、エレクトロニクス分野に積極的に進出してきた。実際、今年3月期の連結決算では、全体の売り上げが大幅に下がる中、「情報エレクトロニクス関連分野」は1・9%の増加という結果になっている。

 対するDNPは上記のような全く新しい独自路線を断行しつつ、出版業界へ直接的に進出。この理由として、同社の北島義俊社長は「我々のメインの仕事であった紙媒体に原点回帰し、元気のない出版業界に復活してもらうため」と発言しているが、版元および取次会社、書店・古書店の大手を押さえることで、売れる本を効率よく作って流通させるのが狙いだろうというのが外野の主な見方だ。また、販路や流通を徹底管理するために自社で開発したICタグを出版流通に導入し、需要を自ら生み出す目論みもあるとされる。

大凸以外が生き残るには依存体質からの脱却が必須

 とはいえ大凸がこのような事業展開をできるのは、両社に基礎体力があるからだ。紙に代わる媒体で巻き返しを図っても、設備投資ができずに倒産に至った中小企業も多い。なかには、中途半端にデジタル化を進めた結果、印刷機を売り払ってweb制作会社になってしまった同業他社も存在する。

「2強以外が今後生き残っていくためには、プリプレスもしくはポストプレス(印刷の後工程。製本や断裁などの作業)に業務を絞って、専門性の高い形態にするか、企画・提案からすべて一貫して請け負うワンストップサービス型にするかですね」(前出・阿部氏)

 大手・中堅各社も厳しい経営状況の中、下請けへの発注を見直し、自社でこなす仕事量を増やしているとされる。いつまでも受け身の姿勢でいては、淘汰されるのを待つばかりだ。

 長年、経済産業省紙業印刷業課の所管とされ、製造業として扱われてきた印刷業だが、現在では映画やDVD、ゲームなどと同じく、同省メディアコンテンツ課の所管となっている。DNPと凸版の昨今の動きは、自らがコンテンツホルダーへと変わろうとしているように見える。置いてけぼりの中小印刷会社だけでなく、これまでは取引先だったはずの本誌を含む出版メディアが、両社をライバルととらえるようになる日は、そう遠くないのかもしれない。


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