「現在の不安定な国政を鑑みる限り、国からの地方交付税や借金頼りの財政は非常に危険。今後、財政の安定には市町村税収入等の確保やコストダウンが大きな鍵となります。収入はさまざまなものがありますが、各自治体にとって大きなウエイトを占めているのが市税です。潤っている自治体は、その収入の割合が大きい」と話すのは、『自治体連続破綻の時代』(洋泉社)を著書に持ち、今年5月に埼玉県和光市市長に就任した松本武洋氏。
トヨタ自動車のお膝元である愛知県豊田市は、金融危機が深刻化するまで日本一優良な自治体のひとつと言われていたが、それは毎年増収増益を続ける同社による法人市民税の納付があってこそ。過去を振り返ってみても、財源の確保のために(シャープの液晶テレビ工場を誘致した)三重県亀山市など、企業誘致を働きかけた自治体は少なくない。
「企業城下町の自治体は、好況時には財政が潤います。しかし、企業の業績が下がると、当然ながら自治体に入る法人市民税の金額は激減します。つまり、 企業が傾けば自治体も傾くというリスクを抱えているのです」(松本氏)
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その一方で、個人市民税による収入が大きい自治体は、比較的安定した収入が期待できるという。
「所得の高い富裕層が多く住んでいる自治体がその好例ですが、リスク分散にもなっています。吉祥寺を中心に多くの財界人や文化人らが暮らす東京都武蔵野市、東京ディズニーリゾートがある千葉県浦安市は、個人市民税と法人市民税の両方がバランス良く確保できている理想的な況状といえるでしょう」(同)
しかし、セレブが多い自治体にも落とし穴がある。
「関西の高級住宅地として知られる兵庫県芦屋市は、もともとは非常に潤っていたのですが、95年の阪神・淡路大震災により、甚大な被害を受け、その復興支援のために多額の借金をすることになりました。こうした場合、高コスト体質また、財政的に潤っていた自治体の中には、サイフのひもがゆるかったところが少なくありません」(同)
日本の自治体財政は、"3割自治"(3割市税、7割交付税)とされるという言葉が示す通り、国がバラまく地方交付税に依存している。そのため、市税収入が少なければ、国の政策や財政状態に大きく影響されてしまうのが現状だ。企業同様、もはや市町村さえ破綻する昨今、堕ちる自治体、残る自治体の構造を紐解いてみたい。
大阪あんぜんミュージアム、大阪市下水道科学館……など、たくさんの"箱物"を抱える大阪市や06年に開港した神戸空港を持つ神戸市などは、公共事業により巨額の負債を抱えた結果、財政難に陥っている。それでは、個人市民税も法人市民税も期待できない、少子高齢化と過疎化が進む地方都市は破綻を待つしかないのだろうか?
「都市と地方の自治体の格差は広がる一方ですが、財政的に健全な自治体も存在します。例えば、茨城県東海村や青森県六カ所村など、原子力発電所や関連施設のある自治体です。こうした自治体には電力会社などから多額の交付金か固定資産税が納付されているのです。賛否はありますが……」(同)
当然、原発施設の誘致は住民感情を逆なでする可能性も少なくない。07年に高知県東洋町では高レベル放射性廃棄物の最終処分場を誘致しようとしたが、住民の猛反発により当時の町長は落選、中止に追い込まれた。
「結局のところは、地道な取り組みをやりきれるか」(同)であるが、自治体のトップが財政手腕にたけていても選挙という壁があるため、企業経営とは違った難しさがあることも事実なのだ。
(大崎量平)