出版不況が叫ばれるようになって久しいが、その本質は、今の経済不況とは異なる部分にある。業界動向に詳しい月刊「創」の篠田博之編集長は、次のように見る。
「今の出版不況というのは、メディアを取り巻く環境の変化という構造的な問題です。卑近な例でいうと、若い人たちの情報源がネットにシフトし、あまり雑誌が読まれなくなり、広告が集まらなくなったとか。『情報はタダ』というネットの世界で、今後、書籍やマンガなども含めたコンテンツをどこがどのように管理するかというせめぎ合いになっていくでしょう。グーグルやヤフーといった大手ネット企業もコンテンツ確保に躍起になる中で、業界丸ごとサバイバル戦に突入した感じですね」
もっとも大手出版社などは、これまでのコンテンツの蓄積があるため、簡単につぶれるようなことはないというのが大方の見方だ。
「ですがそれは安泰ということではなく、いちはやくコンテンツのデジタル化を進めるなどの努力をした結果の話です。講談社も小学館も、今ものすごく落ち込んでいるから、没落する可能性はゼロではない。大手出版社は、中小に比べると体力がある分有利ですが、長い目で見ると、どちらも危機的状況にあることは同じ。この10年で、業界の勢力図がガラッと変わる可能性は高いでしょう」(同)
そんな逆風の中でも、出版事業で業績を伸ばしているのが、ビジネス書を中心に扱う出版社だ。
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「この分野は書籍へのニーズがまだ高い。たとえば、フォレスト出版は、書籍で獲得した読者を囲い込み、高額なセミナーやDVDへ誘導する手法を確立し、高い利益率を誇っているようです。ディスカヴァー21も、きめ細かいマーケティングや営業により、"書籍を読みたがる層"に確実にリーチし、ヒット作を連発しています」(大手書店員)
そのほか、不況知らずと言われてきたのが自費出版だ。昨年は、自費出版系大手で、数々のトラブルが露呈していた新風舎が倒産し、ブームは終わったかのようにも思えたが、自費出版の問題に詳しいジャーナリストの長岡義幸氏によれば「その分野で、本を出そうという人はほとんど減っていないようです」という。
部数の低迷、印刷コストの増大、広告出稿量の減少などで、続々と休刊する雑誌。老舗の出版社も相次ぎ倒産。中小はもちろん、大手出版社も例外なく厳しく、講談社は過去最大の赤字決算、小学館も三期連続の減収で赤字決算。追い討ちをかけるような世界的不況でいっそう厳しさを増す中、『1Q84』のヒットも焼け石に水 !?
「ただ、本来の自費出版とは異なる共同・協力系の出版には疑問がある。最も問題だと思うのは、著者が制作費のほとんどを支払っているのに、出来上がった商品の大部分は出版社の所有物になってしまうこと。片務契約とも思えるビジネスモデルです。新風舎に対しては、このような契約に批判が集まりましたが、議論は深まらなかった。共同・協力系の出版社の中には、同様の仕組みを残しているところがあります」(長岡氏)
現在、新風舎のライバルだった文芸社が圧倒的な強さを誇っているが、共同・協力系の出版事業に手を出している出版社は少なくない。
「某大手文芸出版社の子会社も似たような仕組み。企業イメージを落とすのではないかと心配になるが、富裕層相手なのであまり問題にならないのでしょう。新風舎の旧経営陣が活動を再開しつつあるらしいという話も伝え聞いています」(同)
仕組みは違えど、多くの出版社が、著者に負担を強いる形での出版を増やしている。この歪んだ状況は業界にとってプラスなのか?
(逸見信介)