国内のIT企業が振るわない理由は、不況によるものだけではないようだ。IT業界の動向に詳しいD4DR代表の藤元健太郎氏は、この閉塞感について、次のように語る。
「日本のIT業界でこれまで幅を利かせていたSI系企業は、顧客ごとにシステムをゼロから設計して作るので、無駄が多い。オラクルやマイクロソフトといった海外の企業は、データベースやOSなど、完成品を売り、企業側がカスタマイズして使うのが基本です。世界的需要はこちらに流れており、日本のSI系企業は世界のIT市場で乗り遅れています」
さらに、業界のトレンドとして挙げられるのがクラウド・コンピューティングだ。ITコンサルタントの吉澤準特氏は「一言でいえば、ユーザーはネットを介して利用するサービスだけを意識し、裏側にある物理的な仕組みはまとめて効率化する、というもの。この変化により、IT企業間の競争が激化し、合従連衡が世界規模で進んでいます」と語る。
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「セールスフォース・ドットコムによって、ITサービスをウェブ上で提供する、いわゆる『SaaS(Software as a Service)モデル』が一般化され、今では国内でも多くの企業が、同モデルの営業支援システムなどを利用しています。また、アマゾンのように巨大データセンターを持つクラウド業者のサービスを利用することで、システム開発コストを劇的に下げることができるようになった。独自技術による顧客の囲い込みが難しくなり、国内のIT企業は新たな強みを持たなければならなくなったのです」(吉澤氏)
そうした中で勝ち残る企業とはどのような企業なのか?
「クラウドの波にうまく乗りつつも、独自性を発揮する企業が勝ち残るでしょう。SI系やウェブ系は、優れたコンサルティングサービスを提供し、企業の戦略的パートナーになること。具体的には、
IBMやアクセンチュア、アマゾン、グーグル、楽天などが挙げられます。製品系なら、製品価格の競争力だけでなく、ユーザーのニーズに応えるサポートサービスを充実させることが重要です。オラクルやマイクロソフトなどが、この点に強い企業に当てはまります」(同)
ITと業界いっても、その業種はさまざま。ネットでコンテンツやサービスを提供するウェブ系に、大規模システム開発を行うSI系、ソフトウェアなどの製品を開発・販売する製品系、通信を担う企業もIT業界に括られる。アマゾンやグーグルなどが好調な一方、NECや富士通などの国内大手IT企業は、前期決算で赤字を計上している。
逆に、「そうしたことができない企業は、市場から消えていくでしょう。富士通は、競合他社に比べあまり特徴がなく、何か新機軸を打ち出さないとジリ貧になる一方。規模の経済が加速している状況では、研究開発費が減っているNECも厳しい」(同)とのこと。
また、前出の藤元氏は「SI系の企業はどこも厳しい。一方で、ベンチャーにはまだまだ可能性がある。サービス業のIT化はまだまだこれからで、実際の世界と連動したもの、たとえば、カメラで商品を覗くと、その商品の関連情報が画面に表示される『セカイカメラ』という技術を開発した頓智ドットなどは伸びるでしょう。これからIT業界に来る人は、大手企業にSEとして入るより、ベンチャーに行ったほうがいい」
クラウドの大波到来で、大手でも安穏とはしていられないIT業界。大きな船ごと沈むぐらいなら、荒波に小船で挑む気迫で、ベンチャーに身を投じるのもひとつの手か?
(逸見信介)