アマチュアバンドが夢見るビッグステージに立つのも金次第......。
【keyword1 新人オーディション】
何万人もの聴衆の面前で演奏できる夏フェスのステージは、多くのアマチュア・バンドにとって目標となる夢の舞台だろう。そのためなのか、4大フェスは開催前に新人限定の公募を行い、選考を通過した者たちにルーキー・ステージ出演を約束するとうたったオーディション制度を設けている。例えばフジロックは「ROOKIE A GO-GO」、サマソニは「ROAD TO SUMMER SONIC」、ロック・イン・ジャパンは「RO69 JACK」、ライジング・サンは「RISING★STAR」というステージを設け、くすぶる無名バンドにチャンスを与えているかに思える。が、2007年にフジロックのROOKIE A GO-GOに出演した20代男性に話を聞くと、登竜門の知られざる実情があるようだ。
「約1500通の応募から最終選考で15組に絞られる高倍率でしたけど、自主制作で活動してきた僕のバンドはなんとか残ったんです。でも出演者の8割方は事務所に所属していましたね。そうしたバンドはCDリリースやライブなど"次"につながったそうですけど、僕たちは本当に出ただけでしたよ」
だとすれば、その舞台は事務所がイチオシの若手を周知させる格好の場である。そして無名の新人とは呼べないセミプロ・バンドが出演枠の大部分を占める点で、新人オーディションの制度自体がフェイクに見えるのだが......。
ところで、現場におけるルーキーたちの待遇はどうなっているのか? 前出の出演経験者はこう言う。
「(会場に入るための)チケット代以外は出ませんでした。フェス側から指定された一泊約8000円の民宿に自腹で泊まりましたが、8畳の部屋にメンバー4人と機材ですから正直狭い。結局、交通費や飲食費などを含めると、約4万円の出費でしたね」
それらの費用を事務所が諸経費として負担してくれるならいいが、日々のアルバイトで活動資金を自ら捻出する無名バンドには安くない出費だろう。純真な若者がサクセスをいくら夢想しようと勝手だけど、"タダ"ではルーキー・ステージに立てないのだ。
(砂波針人)
イギリスで行われるレディング・フェスティバル。日本料理の屋台もあるが、味は"それなり"、値段は"チョイ高"。
【keyword2 海外フェス事情】
フェス文化が日本に根付いたのはここ十数年の話だが、そもそも海外からの輸入文化である。イギリスの広大な農場で開催されるグラストンベリー・フェスティバルは、1970年から続く大型フェスであり、フジロックはこれをモデルとしたのだ。また同じくイギリスのロンドン近郊で行われるレディング・フェスティバルは、郊外型フェスという意味でサマソニと近似する。ほかにもカリフォルニアの砂漠地帯で催されるコーチェラ・フェスティバルや、北欧最大級といわれるデンマークのロスキルド・フェスティバルなど海外にもフェスは多数あるが、それらの現場は日本と何が異なるのか? 海外フェス体験者(20代男性)に話を聞いた。
「僕が行ったのは2004年のレディングです。まず驚いたのが会場の汚さ。ゴミが散乱している地面に、とても座る気にはなれませんでした。観客はみな飲み残したビールの紙コップを前方に放っていましたよ(笑)」
マナー云々というより、著しいモラルの欠如が想像される。また、より驚かされるのはトイレの惨状である。
「当然洋式でしたが、便座の高さを汚物が超えていましたね。それを見て僕は便意が失せてしまったのですが、ほかの観客はどう用を足したのか......」
さらに、日本と状況が異なるのはそうした汚さだけではなく、ライブの見方に関しても随分と差があるようだ。
「50セントというアメリカの黒人ヒップホップMCが出演したのですが、ブーイングがヒドくて一曲でステージを去ってしまったんです。でも"国産"の白人ラッパー、ザ・ストリーツが登場すると、観客は大合唱でした」
もはや人種差別そのものではないのか。これも日本人ならカルチャー・ショックを受けざるを得ない光景である。
これまで欧米のミュージシャンが異口同音に日本のフェスを「クリーン」と評してきた。それは、エコとかロハスとかピースとは程遠い、海外フェスの現実を知っているからかもしれない。
(砂波針人)
サマソニでは、スタッフによるブログ『さまそ日記』を公開しており、書籍化もされた。スタッフらによる情熱に、思わず目頭が熱くなる! 『さまそ日記』(ニフティ)は、好評発売中!!
【keyword3 アルバイト】
夏フェスの会場で目にする、観客を誘導し整理する若いスタッフたち。「アルバイト情報誌でサマソニ(04年)の男子スタッフを募集していたので応募しました」と話す当時大学生だった男性のように、その多くはアルバイトであり、公式ホームページで募集が告知されることもあるが、それとはまた異なる人材確保のルートがあるようだ。
「僕が所属するイベント・サークルはライブ企画にプロのミュージシャンを招くことがありますが、それはイベント・スタッフの派遣会社ライブパワーの協賛で可能になっています。その代わりに、毎年フェスのアルバイトをサークルから約20人提供していますね」
そう語るのは、昨年にロック・イン・ジャパンで働いた男子大学生。では、実際の労働条件は一体どうなっているのだろう?
「開催期間3日とその前後の計5日間で約5万円。一見、悪くない給料ですが、毎日6時に起床し23時頃まで作業があるので、時給換算すると......。ツラいのは、音楽好きなのにステージを向いたら怒られることですよ。観客を常に監視するのが仕事ですからね」
一方で、物販やフードコートには女子アルバイトの姿がある。昨年にフジロックの飲食店で働いた女子大生によると、出店には「掟」があるという。
「会場でビールの値段は500円と決まっているんですけど、それを200円にすれば確実に売れますよね。過去にそれを実行した店があったのですが、フジロックの出店管理本部が姑息な商売と見なしその店を排除したため、翌年以降は二度と姿を見なくなったそうです」
また学生アルバイトといえば男女の出会いの場。だが前出の男子学生は「男子も女子も同じ宿泊先でしたが、疲れていてそんな余裕はなかったです」と言い、特に浮いた話もなかったようだ。
割がいいわけでも、憧れのミュージシャンと接触できるわけでもないフェス・アルバイトの「やりがい」とはなんなのだろう。誰かにうまいこと「搾取」されてない?
(砂波針人)
出演するアーティストも、AAAからTRFまで、世代を問わないラインナップも魅力!『a-nation'08〜avex ALL CAST SPECIAL LIVE〜』(エイベックスマーケティング)より。
【keyword4 エイベックス】
国内ロックフェス最大動員数は、サマーソニックの20万人。だが実は、それを超える観客を毎年集め続けているフェスがある。エイベックス主催の全国巡回型ライブツアー、a-nationだ。
浜崎あゆみ、Every Little Thingなど、チャート上位を賑わすエイベックス系アーティストが一堂に会するこのフェスは、初年度となる02年からいきなり20万人規模の動員を実現。昨年は、6カ所8公演で26万人を動員している。100ページに登場した業界関係者は次のように語る。
「日本では、近年やっと『フェスの影響力は甚大だ』という認識が定着しましたが、世界的には、音楽業界の主導権はレコード産業からライブ産業へと、とっくに移動しています。07年、マドンナがアメリカの興行会社ライブネーションと『10年で1億2000万ドル』という前代未聞の高条件で新契約を結びましたが、これは"360度契約"といって、興行権のほか、CD販売権、配信権、グッズ販売権などをすべて独占する包括契約。国内で、この動向にいち早く反応しているのがエイベックスで、a-nationは外部興行会社を使わず、エイベックスのグループ子会社が企画運営しています。現状ではa-nationは赤字だと思いますが、エイベックス以外に所属する出演アーティストの版権獲得を見越して、いまのうちにエイベックスを360度契約に対応可能な事業グループに育て上げる計画があるようです」
a-nationは、来るべきコングロマリット化のための先行投資ということか。一方、ソニーグループでは、エイベックスの戦略に焦ったか、チケット事業の最大手ぴあから興行に『ぴあ』元編集長を引き抜くなど、早急に興行専門子会社の増強を図っているという。なんだかa-nationが「フェス産業を罰する義賊」に思えてきた!?
(古間潤)