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第1特集
巷で話題のベストセラーを、書評ともども勝手にメッタ斬り!!

『スラムダンク』は期待はずれ!? あのヒット作の"本当の実力"

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――文芸、ビジネス書、タレント本等々のベストセラーたちは、さまざまな媒体の書評でどのように紹介されているのか? それらを踏 まえて、サイゾー的に読むべきか読まざるべきかを一刀両断!!

[サイゾー評]
5点...絶対読むべき!!
4点...なかなか面白い
3点...読んでもソンはしない
2点...暇なら読めば?
1点...読まずに捨てろ!!

脇役が多彩すぎて、中盤までが冗長

サイゾー評 3点

[小説]

海堂尊『極北クレイマー』

発売/朝日新聞出版 発行/09年4月 価格/1680円
累積売り上げ/4万5398部(5月4日付、オリコン調べ)

 第4回(05年)『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した『チーム・バチスタの栄光』(宝島社/06年)などのヒットを生み出し、メディカルエンターテインメント作家として確固たる地位を築いた海堂尊の最新刊。財政破綻間近の極北市にある赤字市民病院を舞台に、無気力な医療現場や医療事故問題を描く。

 現役勤務医でもある作者だけに、描かれる現場のリアルさは特筆モノ。「とても重要な事柄を扱いながら、物語をエンターテインメントとして語る筆致はこの作品でも冴えている」(ライター・青木千恵評、「小説すばる」09年6月号)という評価も、まず妥当なところだろう。

 一方で、物語が動きだすのが中盤以降と、やや退屈な構成だ。また、全体の3分の1を過ぎても新脇役が続々と登場し、前半は名前や肩書の記憶と反芻だけで精いっぱい。「多彩すぎる脇役キャラを次から次へと繰り出すバチスタ・タッチも絶好調だ」(作家・野崎六助評、「週刊エコノミスト」09年5月26日号)との評は、暗にそのあたりを指摘したものか。

 さらに、本作は一応、独立した作品だが、過去の海堂作品と連関する事件や人物も登場する。そのため、彼の作品を未読の者にとっては、"海堂ワールド"に慣れるまでに時間がかかるかも。『チーム・バチスタの栄光』や『螺鈿迷宮』(角川書店/06年)あたりを先に読むのが順当だろう。

あくまでも迫力あるノンフィクション

サイゾー評 4点

[ノンフィクション]

佐藤優『交渉術』

発売/文藝春秋 発行/09年1月 価格/1750円
累積売り上げ/5万部(3月14日付、産経新聞より)

 官僚として外交の最前線で活躍した著者が、「交渉術」をキーワードに、したたかな外交の世界を冷静な筆致で鮮やかに描き出した一冊。「北方領土問題をめぐる日露の駆け引きの内幕といったスリル満点のエピソードが満載で、ハラハラドキドキしながら読破した」(産経新聞09年3月14日付)というように、政治・外交のリアルな舞台裏をのぞけるノンフィクションとしても興味深く読める。

 注意すべきは、「看板にやや偽りあり」である点。著者は同書執筆の目的について、「本書では、私自身の過去の経験も踏まえた上で、将来の日本的交渉術を形成するための材料を読者に提供したい」とし、帯でも「実用書」とうたっている。しかしそれは、読者の関心を惹くための小道具にすぎず、ハウツー本的な要素はほとんどない。よって、「そのタイトルどおり広く社会生活に応用可能な交渉の考え方を教えてくれます」(書店員・笈入建志、「週刊現代」09年3月7日号)と額面通りに受け止めるようでは、いささか単純にすぎるだろう。また、いうまでもなく実際の交渉場面では、理論だけでなく、瞬時の判断力や機転といった、主に経験によって培われる能力が求められる。著者の明快な交渉理論に感じ入り、思わず「こういう場面で使えるかも……」などと妄想してしまいたくなるが、現実はそう単純ではない。あくまで迫力ある回顧録、もしくは事例集としてオススメしたい。

違和感あるけど……確かに泣ける

サイゾー評 4点

[ノンフィクション]

清原和博『男道』

発売/幻冬舎 発行/09年1月 価格/1470円
累積売り上げ/24万8709部(5月25日付、オリコン調べ)

 昨年、23年間の現役生活に終止符を打った元プロ野球選手、清原和博の自伝。ドラフト会議で、憧れの巨人軍と盟友・桑田真澄に「裏切られた」ことや、宿願かなって巨人に入団したものの、「使い捨ての商品のように扱われ」て退団したときの気持ちなどが率直に綴られている。「オビに『涙なくしては読めない!』とあるが、確かに泣ける」(精神科医・斎藤環評、朝日新聞09年4月5日付)かどうかはともかく、その筆力は、読者に「これぞ清原の本心だ」と思わせるに足るものだ。「文章すべてが清原自身によるものだとは思わない。しかし書かれている内容は、まさに清原のことである」(ピアニスト・今井顕評、「紀伊國屋書評空間」09年2月20日付)とは言い得て妙だが、前半部はいわないのがお約束。

 ただ、読み進めるうち、ひたすらボールを遠くへ飛ばすことのみに心血を注いだ"求道者"としてのストイックな清原の姿に、若干の違和感を覚える。たぶん、メディアによって刷り込まれた"番長"キヨハラ像が、無意識のうちに邪魔をするからだろう。「『キヨハラ? 男気、過剰でしょ』なんて言ってた自分をひたすら後悔。先入観って、たぶんジャマ」(雑誌編集者・江藤かんな評、「47NEWS」09年2月16日付)との評もうなずける。意外といっては失礼だが、読ませどころの多い一冊だ。

ぶっちゃけ後半は蛇足です

サイゾー評 3点

[小説]

湊かなえ『告白』

発売/双葉社 発行/08年8月 価格/1470円
累積売り上げ/53万3058部(6月8日付、オリコン調べ)

 中学校の女性教師が、クラスの全生徒の前で、事故死したとされた自分の幼い娘は、このクラスの2人の生徒に殺されたこと、そして、その2人の犯人には、すでに復讐を仕掛けたことを告白する──。そんな衝撃的な出だしの第1章は、もともとは著者のデビュー作にして、第29回小説推理新人賞を受賞した『聖職者』という単体の作品。『告白』は、事件のその後や背景を書き下ろし、全6章の作品に仕立てたものだ。刊行直後から口コミで人気が広がり、「2009年本屋大賞」など、数々のタイトルに輝いた。

「彼女のモノローグで進む第1章は、中学1年生が幼女を殺したという事件内容、そして教師が用意した意外な罰に、ゾワーッと鳥肌が立つ」(ライター・瀧井朝世評、朝日新聞08年10月19日付)など、各紙誌書評で絶賛されまくっただけあって、確かに完成度は高く、ラストには戦慄が走る。しかし、事件のディテールが明かされる第2章以降は、少々蛇足気味。「ページをめくる手が止まらない」(書店員・宇田川拓也評、「本の雑誌」08年10月号)などといった評価もあるが、第1章を超える衝撃が待っているはずだ、という期待感がそうさせるだけでは......。独立した短編として第1章を読み、そこで本を閉じるのもアリ。

硬派ネタを一般読者にも読ませる構成力

サイゾー評 5点

[文芸批評]

水村美苗『日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で』

発売/筑摩書房 発行/08年11月 価格/1890円
累積売り上げ/6万部(4月23日付、佐賀新聞ひびのニュースより)

 国の政治的・経済的勝利と、インターネットの出現などによって、英語が「普遍語」としてますます世界を席巻しつつあり、日本語という「国語」が存亡の危機に直面していることに警鐘を鳴らした書。「精読に値する一冊である」(作家・池澤夏樹評、毎日新聞08年11月23日付)、「日本語使用者の各々(おのおの)が日頃意識せざるこの言語との関係を考え直す絶好の機会となるだろう」(作家・小野正嗣評、読売新聞09年2月22日付)等々、数々の新聞や雑誌の書評で絶賛された。ネット上でも議論を巻き起こし、売り上げ部数6万部超と、この手の本としては異例のヒットを記録している。

「一見して挑発的なタイトルだが、それを裏付けるだけの論旨を盛った、奥行きのある、説得力に富んだ本である。筋の通った展開が知的興奮を誘う」(前出の池澤評)という言葉の通り、取っつきにくい題材を、一般読者にもスラスラと読ませる構成力は、『私小説 from left to right』 (新潮社/95年)や『本格小説』(新潮社/02年)で各文学賞を受賞した小説家の面目躍如といったところ。また、ともすれば陳腐になりがちなこうした主張をまとめ上げる圧倒的な筆力と教養も、さすがのひとことだ。

 強いて難点を挙げるなら、評論においては重要な情報である著者の生年(1951年生まれ)が、プロフィールに記載されていないことぐらいか。今回ピックアップした7作品の中ではイチオシ。

ただのブログの使い回し!?

サイゾー評 1点

[エッセイ]

梨花『Love myself 梨花』

発売/宝島社 発行/09年3月 価格/1400円
累積売り上げ/12万1416部(5月18日付、オリコン調べ)

『恋愛体質 Love Body』(講談社/03年)、『Rinka』(宝島社/06年)に続く、自身3冊目のフォトエッセイ。「"梨花"になれないことくらい百も承知。でも『"梨花"に一歩近づけたような気持ちになる』だけで、昨日とは違う自分になれる気がするんですYO」(雑誌編集者・江藤かんな評、「47NEWS」09年5月11日付)というのが、本書を手にした女性に共通する意識かもしれない。

「梨花のマストハブアイテムが大集合」という版元・宝島社の公式サイト掲載の売り文句の通り、全約130ページのうちの約50ページが、お気に入りの商品と店の紹介で占められている。まあそれはいいのだが、プロフィールに「自身のブログ『RinkaのHappylife』で紹介したアイテムがすぐさま店頭から消え去るなど、数々の完売伝説を残している」とあるのはやぶ蛇。刊行のウラが透けて見えてしまうというか、「商品を載せてもらうために、いろいろな企業の暗躍があったのだろうなあ」などと、下世話なことを考えてしまう。

 また、商品紹介と並んで本書の柱となっている、梨花やその自宅の写真については、「本人が撮った感のあるデジカメ写真がリアル!」(「PINKY」09年7月号)との好意的な評価がある一方で、アマゾンや楽天市場での一般読者によるレビューでは、「画質悪すぎ」「ブログの使い回し」と不評。一種の"カタログ本"と割り切って読むべし。

ていうかデカすぎ!!

サイゾー評 1点

[フォトブック]

井上雄彦『SLAM DUNK 10DAYS AFTER 完全版』

発売/フラワー 発行/09年4月 価格/2100円
累積売り上げ/13万1733部(4月27日時点、オリコン調べ)

 バスケマンガの金字塔『SLAM DUNK』(集英社)の総売り上げ1億部突破を記念して、04年12月に開催された「スラムダンク1億冊感謝記念ファイナルイベント」をフォトブック化したもの。作者が廃校の黒板にチョークで描き、わずか3日後に消されたマンガ「スラムダンク−あれから十日後」を収録している。ちなみに、同イベントの関連商品としては、過去に『黒板カード』とDVDが発売された。

 本作は、当時の雰囲気が伝わるよう、カレンダー大の大型判となっている。「白い線画で描かれた個性あふれるキャラクターからは、42×30センチの大型判を通して躍動感が伝わってくる」(「AERA」09年5月18日号)、「井上雄彦は、善意の人である。『スラムダンクを育ててくれた』ファンのために今回の完全版もある」(「BRUTUS」09年5月15日号)など、メディアでは好意的に受け止められているが、肝心のユーザー評価は微妙だ。アマゾンのレビューは、「肝心の漫画が読みづらい」「本棚に入りません」等々の不満で溢れ、事実、フニャフニャして非常に扱いにくく、1コマも小さい。1万円以上の高値で取引されている『黒板カード』(定価4200円)のようなプレミアム化は、マニア心理を読み切れなかった本作には期待できないだろう。ただし、純粋に読みたいだけの未読ファンにはオススメ。


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