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第1特集
最強外食産業マクドナルドの功罪【1】

肩書きだけの管理職......労働環境を悪化させた体制の罪

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管理職にあるのは、権限ではなく責任。成果主義は新たな問題点を生むことも――。

──安田さんは、05年に日本マクドナルド店長の高野廣志氏が起こした「名ばかり管理職」訴訟の取材を続けてこられました。

安田 私自身、高野さんが日本マクドナルドを提訴するまでは「管理職って、残業代は出ないものでしょ?」という認識であり、問題意識も持っていませんでした。当時は、管理監督者の残業等について定めた労働基準法41条というものも世間ではそれほど知られておらず、そこにおける管理監督者=管理職ではないんだということを、高野さんが初めて大々的に知らしめたのだと思います。以前にも同様の裁判はありましたが、今回は日本マクドナルドという外食産業の雄で起きた事件だったために、この問題がクローズアップされたのでしょう。

──日本マクドナルドの労働環境は、外食産業の中でも特にひどかったのでしょうか?

安田 昔から同様の問題はありましたが、「原田泳幸氏がCEOになってから、さらにひどくなった」という話もよく聞きます。創業経営者の藤田田氏も独裁者ではあったものの、社員からはどこか愛着も持たれていました。彼は良くも悪くも古い日本の経営者であり、「100年間ハンバーガーを食べたら、日本人も金髪になる」などという奇矯な言動とともに、人間らしさを感じさせる人物でした。残業代も払わずゴリゴリ働かせる一方で、社員の奥さんの誕生日に花を贈ったり、3月の決算期には奥さんの口座にボーナスを入れたりと、社員の家族思いな一面も見せていました。

──現CEOの原田氏は、そうしたタイプの経営者ではないと。

安田 藤田経営にイラついていたアメリカ本社としては、日本マクドナルドを懐に引き入れたいという思いもあったのでしょう。そこで出てきたのが、アップルコンピュータ日本法人代表だった原田氏だった。彼は04年のCEO就任以降、藤田時代の浪花節的な経営を一掃して、ドライな方向にシフトしていきました。彼は「私のスピードについてこられないという声も社員にはあるようだが、そういう人は辞めてほしい。バスに乗るか乗らないかは、自分で決めろ」と語っていますが、原田経営になってからは離職率も高まったとの話も聞いています。同じ独裁者であっても、マクドナルドを食文化として捉えた藤田氏と、ビジネスモデルとしての成功を求めた原田氏には、大きな温度差があったということです。これは、原田派の人間も含めて、多くの社員が口にしています。

──高野氏の起こした訴訟は今年3月に東京高裁で和解に至りましたが、日本マクドナルドの一連の対応はどう見るべきでしょうか?

安田 当初は「店長は管理監督者である」と一貫して主張してきたし、それに異を唱えるメディアに対しては、取材にも応じることも少なかった。また同社にとって一番痛く、また腹立たしかったのは、労働組合ができてしまったことでしょう。世界中のマクドナルドには〝ノン・ユニオン・ポリシー〟というものがあり、労働組合を作らせないことで有名な企業グループです。高野さんも労働組合に加入した際に、上司に呼ばれて脱退を強要されています。ただ、1000万円という金額で和解に至ったのは、国会でも話題になるなど予想外に注目を集めたことで、日本マクドナルド側も社会問題化したと認識し、焦りを感じたからでしょう。

──今回の判決については、「店長には管理監督者としての権限が与えられている」との反論も出ています。

安田 店長に与えられているのは、権限ではなく責任だと私は考えます。つまり売り上げ責任と、アルバイトの管理責任です。会社側は一時期「出退勤の自由を与えている」と主張していましたが、繁忙店においては、時間の自由どころか、店長自身がパテを焼いたり、レジに立ったりということをせざるを得ない。24時間営業の店舗が増える中で、アルバイトの管理も非常に難しくなっています。

──この判決を受けて、店長の待遇は変わったのでしょうか?

安田 判決後、店長にも残業手当が支払われるようになりましたが、一方でこれまで支払われていた諸手当がカットされており、今も多くの社員が不満に思っていることでしょう。しかも、残業の多い店長は能力不足だとして、原田経営の成果主義においては、減給になるケースも見られるほどです。

──先ごろ過去最高益を計上した日本マクドナルドですが、現場スタッフの苦境は続いているというわけですね。

安田 もちろん、企業は経済活動をするものですから、利益を上げようとするのは当然だと思います。しかし、利益を上げるために人件費を削るのは、社員にとって売り上げ向上のためのモチベーションになるのかどうか。そこには議論があってしかるべきでしょう。

安田浩一(やすだ・こういち)
1964年生まれ。『週刊宝石』(光文社)記者などを経てフリーに。事件、労働問題などを中心に取材・執筆活動を続けている。著書に『告発! 逮捕劇の深層』(アットワークス)、『JALの翼が危ない』(金曜日)、『外国人研修生殺人事件』(七つ森書館)など。

『肩書だけの管理職──マクドナルド化する労働』
有名企業における過酷な労働実態を、社員等への取材を通してレポートした一冊。日本マクドナルド、すかいらーく、セブン・イレブン、コナカ、CFJ(シティグループ傘下の消費者金融会社)を取り上げている。
(安田浩一、斎藤貴男/旬報社/07年/1365円)


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