日本において最も重い刑罰・死刑と、その次に重い無期懲役刑。その維持・執行にかかるコストを、可能な限りのデータを拾い、数値化した。そこから見えてくるものとは?
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死刑・無期懲役刑のコストには、大きく分けて、刑の確定前に要するものと、確定後に要するものとがある。それを調査・推定してまとめたのが、上の図表だ。見ての通り、確定後のコストで比べると、在所期間の長い無期懲役刑のほうが、死刑よりはるかに高くなっている。しかし、確定前のコストにははっきりしない点が多いため、日本において、トータルでどちらが高コストといえるのかは判然としない。
一方、米国では、死刑のほうが終身刑より高コストであると試算されている。これは、同国における確定前のコスト、例えば弁護士や鑑定士などの専門家費用が、日本と比べて格段に高いためだ。さらに、国策として、冤罪を減らすために多額の税金を投入しているという側面もある。つまり、米国の試算を、日本にもそのまま当てはめることはできないわけだ。
つけ加えると、図表で挙げたもの以外にも、死刑・無期懲役刑には、有形無形のさまざまなコストがかかっている。例えば、受刑者の高齢化により生じるコストだ。無期懲役受刑者の在所期間は、08年4月時点で、40年以上が24人、55年以上が1人。98年〜07年の間に獄中死した無期懲役受刑者は120人に上る。当然、彼らには、受刑者全体の平均より多額の医療費や介護費がかかっていると推定される。
また、仮釈放者を支援する保護司には、俸給は支払われておらず、社会に対する彼らの貢献を金額で示すことはできない。そうした、数字で表せないコストという意味では、犯罪によって受けた人的被害こそ、その最たるものといえるだろう。
約287万円
[人件費等を含む年間収監コスト]
上記の収容費データから、「受刑者の年間コストは約50万円」とする向きもあるが、実際にはそれ以外に、人件費(受刑者の指導や教育、保安警備に当たる刑務官の給与など)や設備の維持費などとして、巨額の経費がかかっている。中でも人件費は、矯正予算総額の68%を占めているのだ。そこで、予算総額(2315億6709万円)を刑事施設の1日平均収容人員数(8万684人)で割ると、1人当たり年間約287万円となる。こちらのほうが、より実質的な受刑者の年間収監コストであるといえるだろう。
約2億4000万円
[削減可能コスト?]
現在、日本には、官民が共同で運営する、いわゆる「PFI刑務所」が4つ存在する。刑務所の一部業務を民間に委託することで、コストを大幅に削減できるのだ。例えば、国内初のPFI刑務所である美祢社会復帰促進センター(山口県、07年に供用開始)の場合、20年の契約期間中にかかる総費用を、従来の方法と比べて約48億円(1年で約2億4000万円)節減できたという。また、地元への経済効果も非常に大きいとされている。
[出典]「刑政」(矯正協会、2008年5月号)、「自由と正義」(日本弁護士連合会、2008年12月号)
(文・構成/松島拡)
(絵/カズモトトモミ)