――最近、ホリエモンの動きが活発だ。テレビや外国特派員クラブなどで、自らの有罪判決の不当性や検察の暴走ぶりを批判したかと思えば、ネット関連のイベントに登場したり、芸能人やAV嬢との対談を積極的にこなしたりするなど、事件以前のようなタレントばりの活躍ぶりが戻ってきている。裁判闘争が最終局面を迎える中、ホリエモンのこうした行動にはどんな戦略や思惑があるのか?これらの闘いを通して、ホリエモンに変化はあったのか?事件前からホリエモンを知るジャーナリスト・佐々木俊尚(参照P32)が直撃した。
(写真/有高唯之)佐々木(以下、佐) 最近、メディアへの露出が増えてますよね。『徹底抗戦』(集英社)も出版して、大変売れている。これらは、最高裁判決を見据えた戦略的なものですか?
堀江(以下、堀) 戦略というほどのこともないんですけど。上告審から、弁護団が変わったこともありますかね。
佐 控訴審までは、弁護士に抑えられていた?
堀 抑えていたというよりは、拘置所から出てきた後は、僕の気持ち的な部分で表舞台に出る気になれなかった。そもそも事件のことも、どの部分のどういうところが法律に違反しているのか、いまいちよくわかってなくて、外部に対しても話しようがなかったんです。
佐 でも、拘置所内でも一応読むわけでしょ?事件の概要がわかるような起訴状とか冒頭陳述とか。
堀 それは単なる検察側の一方的な主張ですから。意味がないとまでは言わないけど、違和感ありまくりで、この人たちは何もわかってないな、と。それ以前に、僕は宮内さん(宮内亮治、元ライブドア取締役。証券取引法違反で服役中)の供述調書とか、全部見てるんですよ。それが、嘘だらけのものすごくひどい内容で驚いた。そういうのを見て、自分が問われている罪がなんなのかと考えるよりも、「この人は、なんでこんなデタラメを言うんだろう」ということのほうが気になってというか。
佐 保釈されてみたら、メディアで語られていることと、自分の認識との乖離が激しかった?
堀 乖離が激しいというか、火もないようなところに煙が立ってるわけです。「野口さんが死んだのは、堀江のせいだ」とか「野口さんは堀江の側近だった」なんて言われても、野口さん(野口英昭、エイチ・エス証券元副社長。06年1月死去)の死因のことはよくわかんないし、そもそも側近じゃないし。僕がすべての黒幕という前提で、報道も検察官も追及をしてくるんで、どう防戦していいのかわからなった。「粉飾決算なんてやってません」とか「悪いことをするつもりで会社は経営してません」ぐらいしか言えないんですよ。
佐 当時は、そんなこと言っても通じるとは思えないですよね。
堀 通じないだろうし、意味もないと思うし。実は、一審で敗訴して一番ショックを受けたのは弁護団の人たちじゃないかな。判決の日も「無罪だと思うけど、もし有罪でも執行猶予はつくでしょう」なんて言ってて。それがいきなり実刑判決食らって、弁護団が「どうしよう......」みたいな感じになって。それで、これはメディアでの風評が影響しているだろうから、もうメディアに一切露出せず、忘れ去られよう、みたいな戦略を取ることになったんですね。だから、何もせず、ゴルフとか行ってたんですけど。ただ、その後、知人を通して、弘中先生(弘中惇一郎氏。現弁護団の主任弁護士)を紹介してもらい、雑誌とかでデタラメ書かれたことを相談したら「徹底的にやらないと、また同じことしてくるから」って言われて、「週刊現代」(講談社)とか日経BPとかを訴えて、勝ちましたよ。
佐 「サイゾー」は大丈夫だった?
堀 「サイゾー」は意外とないんですよ。単なる人格攻撃、アイツはデブだとか、揶揄系が多いんで。名誉毀損も何もねーだろみたいな(苦笑)。で、裁判が進むうちに、大きくは3つある容疑において、どこが悪いと言われていて、判決がどうなっているんだ、というのが、きれいに見えてきたんですよね。それで、こちらもそれに対して明確に主張ができるようになってきた【概略はこちらの記事を参照】。そのあたりの細かいところは、僕のブログや『徹底抗戦』も読んでほしいんですが、たとえば、ファンドを通して売却した自社株の利益を売り上げに計上して粉飾をしたという話でいうと、そのファンドを連結扱いにするかしないか、という争点がある。検察は、そのファンドはダミーでつくったものだから、連結すべきものという論理で攻めてるんですけど、裁判所は連結・非連結に関しては判断せず、「脱法目的で組成された組合の存在を否定する」という論理を考え出したわけです。そうすると、自社株の売却益はライブドアでも資本計上しなければいけないということになる。
佐 どうして裁判所は、判断に踏み込まなかったんでしょう?
堀 当時、連結・非連結の問題は非常に曖昧で、それはまずいということで、ライブドア事件後に明確化されてるんです。で、二審判決の直前に、長銀事件(97年に起きた日本長期信用銀行による粉飾決算事件。08年7月に無罪確定)の最高裁判決が下って、「会計規則が曖昧だった時期は、両方の解釈ができるものとする」という判例ができたんです。そうなると、ライブドア事件のファンドも非連結という判断ができるという話になるので、上告審ではそこを押しているんです。
もしも刑務所に収監されたら......
(写真/有高唯之)佐 現在のようにメディアやブログで自分の主張を発信することで、最高裁の判決に影響を与えることができそうですか?
堀 それは期待してますね。事件の本質を、より多くの人たちに知ってもらって、最高裁の人たちにも関心を持ってもらいたいんです。
佐 仮に最高裁で実刑が確定して収監されたら?
堀 はい?そんなこと考えても仕方がないでしょ。判決が出てから考えればいい話で、実刑判決が出ても、すぐ収監されるわけじゃないですから。あれ、3〜4カ月延ばせるみたいですから。
佐 ここまで堀江さんを追いつめた検察の手法に対しては、国策捜査的なものは感じますか?
堀 国策というより、検察のスタンドプレーじゃないかと。最近、検察庁や特捜部の歴史とか、ほかの事例を分析して、わかってきたんですけど、特捜部っていうのは、自ら事件をつくり出していくところなんですよ。検察庁のホームページに書いてありますから。「新しい判例をつくるぐらいの意気込みで巨悪を摘発するんだ」みたいなことが。判例をつくるって、グレーを黒にするんだって言ってるのと同義ですよ。最高裁判例というのは、事実上立法と同じ機能を持つわけですから、検察は立法権まで得ようとしているわけです。
佐 佐藤優氏はそんな検察を指して、「青年将校化している」と言っていたような。
堀 いい表現だと思いますよ。今の検察は、2・26事件の青年将校と変わらない。国民のためと言いながら、自己の組織を正当化するために、事件をつくっていくというところがある。ロッキード事件の田中角栄とか、リクルート事件の江副浩正とか、ああいう人を摘発したことが、はたして国民のためになったのかというと、僕はなってないと思ってます。
佐 みんなが「気に食わないな」と思い始めた頃に、そいつを逮捕するという流れってありますよね。
堀 みんながというより、ある程度有名で、社会的影響力を持った人間が出てくると、その人を気に食わないと思う人も出てくるわけで。それが、それなりの数になったら、検察がスタンドプレーをしようが、彼らは応援してくれる。で、逮捕したらメディアも応援してくれるわけですよ。そういう勝ちパターンが、ロッキード事件でできたんですよ。
佐 ニッポン放送買収のときに堀江さんの場合、マスメディアではかなりバッシングされてましたが、ネット上ではライブドアを批判する声はあんまりなかったと思うんです。
堀 それで検察は、「俺らは動ける」って思ったんじゃないですか。「堀江のことを称賛している人は結構いるけど、その悪の部分を俺らがあぶり出してやるんだ」と。そもそも、みんなから悪者と思われている奴をやっても、「当たり前じゃないか」で終わる。ある程度支持されている人間の暗部を突いた形にしたほうが、インパクトも大きいじゃないですか。「巨悪を摘発する」なんていうのは嘘。有名でかつ弱い者をいじめたほうが効率がいいんですよ。
最大の欠点は人にかかわらないこと?
佐 堀江さんが、ブログやメディアで検察批判を始めた時期は、小沢一郎の秘書逮捕で検察批判が盛り上がる前でしょ。その段階で検察批判をして、人々に伝わるのかな?って考えませんでした?
堀 それはもうやるしかないでしょ。まあ自分の影響力がどれぐらいあるのか当時は未知数だったので、とりあえずブログで恐る恐るやってみたわけですけど。そしたら、意外といけたんで、調子に乗ってやってるわけです。で、逮捕されたときの話に戻るんですけど、検察は「堀江をやりたい」と思って情報収集をしていたら、結構いい情報がいっぱい集まってきたんだと思うんですね。週刊誌とかネットとかも見て、裏社会に金が流れているんじゃないかとか、海外口座で怪しいマネーロンダリングをしてるんじゃないかとか、横領しているんじゃないかとか。しかも、ライブドアグループの役員だった人物が検察に協力的だから、その証言で事件をつくれと。ところが、詰めていくと、事件にはならないものばかり。横領疑惑に関しては、宮内さんが主犯になっちゃうし【編註・宮内氏が、ライブドア株売却益のうち1500万円を私的流用していた件。宮内氏は「返却予定だった」としている】、そっちのほうが堀江を唯一追及できる証券取引法違反よりもでっかい事件になっちゃうからマズいだろうと。
佐 メディアに「マネーゲームに奔走している」と、あれだけ書かれてましたからね。検察も何か出てくると思ったのかもしれない。ああいう報道は、どう思っていました?
堀 言わせとけって感じですよ。わざわざ反論するようなことでもない。
佐 でも結果的に反論しなかったから、検察が調子に乗っちゃった可能性はあるわけでしょ。
堀 今となってはそう思いますよ。当時は、そんな小物たちのすることにいちいち腹を立ててもしょうがないと、本気でそう思ってたから。
佐 私は事件後、テレビに呼ばれて、ライブドアという企業についてしゃべる機会があったんですけど、ほとんどの識者が「ライブドアは虚業だ」とか言いまくってて、異様な違和感がありました。もちろん、M&Aは活発にやっていたけど、IT業界の中にいると、ライブドアは技術企業であるというのが固定的な評価だったのに、まったく違う認識がされているなと。ただ、堀江さん個人に対しては、「文藝春秋」に「堀江さんという人は、ビジネスの仕組みをつくるのが非常にうまい。そこに優秀な技術者や営業マンも集まってきている。だけど、堀江さんの最大の欠点は、人の気持ちが読めないというところ」と、批判を書いたんだけど。
堀 読めないというよりは、かかわりたくないんですよ。
佐 (笑)。でも、そういう状況が宮内氏の暴走を招いたとは思いませんか?宮内氏の横領疑惑ってのは、そういうことでしょ。その横領疑惑を不問に付す代わりに、彼は検察の筋書きに沿った、堀江さんに不利な証言をしたという見方がある。
堀 ま、そうなんですけど。それは僕の中で、「たかが金のために汚いことまでやる必要はないでしょ。自分の部下だって、さすがにそこまではしないでしょ」って思ってたから。
佐 それは、堀江さんは経済的に恵まれているからでは?
堀 みんな、そうおっしゃいますけど、僕がキャッシュで大金を得たのは、2005年の5月なんですよ。それまでは、大した金はないんです。
佐 05年5月って、自社株を売却して、約140億円を手にしたとき?
堀 そうです。それ以前は、結構金なかったんですよ。年収3000万ぐらいだったけど、半分税金でしょ。可処分所得は月100万円いかないぐらいですよ。それに、僕の方針で会社は交際費0円でしたから。で、養育費も結構大盤振る舞いしてるから(笑)。フェラーリだって、ローンで買ってましたからね。外資系のサラリーマンぐらいですよ、生活水準は。でも、宮内さんは、それ以上に生活を良くしたい、というところが一番のモチベーションだったし。
佐 宮内さんは、キャッシュでフェラーリ買いましたからね。
堀 彼は、自分と仲間たちの生活を良くする、というのが仕事のモチベーションなんですよね。でも僕は「そんなのはうそだ」って思ってるんですよ。20歳ぐらいで月収100万円超えて、わりとキャッシュリッチな生活をしてたからかもしれないですけど、「これくらいあれば、うまいもんも食えるし、十分豊かじゃねーかよ」と思ってきたわけです。
「ITはもうやらない」ゾクゾクする次の商売は?
(写真/有高唯之)佐 でもお金持ちになりたい、という欲望は誰にでもあるのでは?
堀 それを、仕事のモチベーションにするのはよくないと思っているんですよ。結果的に、それだけの能力がある人たちが、対価としてもらうのはいいと思いますよ。でも、たとえば、平松さん(平松庚三氏。弥生社長などを経て、ライブドア事件後に、同社社長に就任)は、弥生がライブドアに買収される前は、同社社長として年収1億円もらってたとか、ありえないでしょ? 買収した側の社長の年収の3倍以上(笑)。だいたい、誰でも自分の適正年収の3倍もらうと、なんでも言うこと聞くんですよ。宮内さんのやり方は、部下にそれくらい払って気持ちよく働かせる。それで、彼らを幸せにしてやってんだ、と自己満足するんですよ。
佐 そういう宮内さんのほうが、人心掌握術に長けていたのでは?
堀 だから、彼の人心掌握術は金なんですよ。それは、人を動かすという手段としては正解だと思いますよ。でも僕は、厳しい中でわかり合えて、高め合える関係こそ、社長と社員の間では理想だと思ってたんで。
佐 そうなると、堀江さんのそういう理念と、世間一般の堀江像ってまったく違うじゃないですか。堀江さんこそ、金があればなんでもできると考えている人だって思われていたわけでしょ?
堀 いわゆる、ライブドアの拝金主義的なイメージって、宮内さんがつくっていたんですよ。でも世の中の人やメディアから見たら、宮内さんなんていないも同然だから、全部僕のイメージになって。でも、それはある意味、社長として仕方ないことだし。で、さっきの話に戻ると、そういった人たちの心がわからないのではなくて、深くかかわりたくないんですよね、考え方が違う人と。
佐 でも、それって経営者として失格じゃないですか?
堀 うーん、僕はそうは思わないですよ。無視してるだけですから。
佐 そういう堀江さんのポリシーを、メッセージとして、みんなに伝えるべきだったのでは? 本来の経営者とはこうあるべきなんだということを。
堀 それはそう思うんですよ。でも、当時は面倒くさかった。でも、今は、なるべく丁寧に説明をするということは面倒くさがらずにやるようにしてます。一般の人が共感しやすいように。こっ恥ずかしいんだけど、「目標」ではなく「夢」という言葉を使ったほうが、みんなが「そうなんだー」って思ってくれたり。単純で困るんだけど。
佐 堀江さんが、そんな言葉を言う日が来ると思いませんでしたね(笑)。私は、事件前に何度も取材をさせてもらったときの、ぶっきらぼうで、何か変な質問をすると怒りだすっていうイメージが強いんで、今でも緊張する。
堀 でも、人の気持ちにあんまりかかわりたくないというのは、今でも変わんないですけどね。かかわらないようにするにはどうしたらいいのか、っていうのは最近よく考えているんですよ。
佐 どうすればいいと?
堀 いまだによくわかんないですけど、とりあえず、人を雇ってバンバン会社やったりというのはちょっと面倒くさいなと思いますけどね。
佐 ITにはもう興味がない?
堀 ないですね。もうITはゾクゾクしない。
佐 メディアビジネスには興味ないですか?
堀 面倒くささのわりに、やりがいがないというか。自分でブログやってるだけでいいかな。あれでかなり日銭を稼げるんですよ。アフィリエイトも入るし、宣伝媒体にもなるし、あれを見て、メディア出演とかの仕事の依頼も来るので。
佐 お金に困っているわけじゃないですよね。
堀 貯蓄を食いつぶしていくだけの生活って、耐えられないじゃないですか。ランニングコストくらいは稼がないと。残っている資産は、ほとんど宇宙ビジネスに投資してますし。今後は、評論家ってことで食っていきますよ(笑)。もうでっかい装置はつくりたくないですからね。ロケットつくるのはやりがいがあるんで、大きいビジネスはそっちでやっていきますよ。
堀江貴文(ほりえ・たかふみ)
1972年生まれ。東京大学中退後、91年に有限会社オン・ザ・エッヂを設立。97年に株式会社化。04年に社名をライブドアに変更する。同年、大阪近鉄バッファローズ(当時)の買収計画を発表、05年にはライブドアがニッポン放送の経営権争奪に乗り出し、時代の寵児に。06年1月、証券取引法違反容疑で逮捕。07年、一審で懲役2年6月の実刑判決が下り、08年には控訴審でも一審判決を支持。現在は上告して、逆転無罪を狙う。
(インタビュー/佐々木俊尚) (構成/逸見信介)