マスメディアと各種団体の事件史から、3つの事件をピックアップし、団体側を直撃取材。「事件の後の状況はどうでしょうか?」と聞いて回ろうと思ったが......。
FILE 01 筒井康隆"断筆宣言"事件
日本てんかん協会
正式名称:社団法人日本てんかん協会/発足年:76年/会員数:約6000人「小児てんかんの子どもをもつ親の会」と「てんかんの患者を守る会」が統合して誕生。てんかんの社会的理解の促進、てんかんに悩む人の社会支援活動、てんかん施策の充実を目指した調査研究や施策推進を全国的に展開している。
概要 93年、角川書店の高校国語教科書が筒井康隆の小説『無人警察』を掲載。その小説の中のてんかんに関する記述が、てんかんの誤解と偏見を広めるとして日本てんかん協会が文書で抗議。当初は当該教科書の出版停止と小説の削除を要求した。角川書店は同協会と何度かの交渉を持ち、最終的に小説を削除した。これに対して筒井康隆氏は「差別表現の糾弾が過激になる風潮では、小説の自由にとって不都合になってきた」として「噂の眞相」の連載コラムで断筆を宣言し、業界内外に大きな衝撃を与えた。
現在 「筒井騒動をどう捉えているのか?」「メディアへの抗議基準は?」「差別の現状は?」などFAXで取材依頼をしたところ、「てんかんは外見から差別されることはないが、泡を吹いて倒れる、遺伝するなど誤解が多く、諸々の社会活動参加を制限されることが多くあります。協会ではこうした不利益をなくすために活動しています。差別表現については本部事務局が情報収集などを行い、理事会で内容を精査し、てんかんが社会悪であるかのような報道には断固対処します。てんかんは、今は薬でコントロールできるようになったため、発作を見かける機会も減り、若い人の中にはてんかんを知らない人も増えています。こうした中で無知、無理解をできるだけなくすために、活動を続けています。筒井氏の断筆宣言は、全く本意ではありませんでした。てんかんについて正しく伝えてくれることを望むだけで、執筆活動に云々言うことが目的ではありません。報道に煽られた部分もありましたし、当方の対外的活動にも、未熟なところがあったのだと思います」(日本てんかん協会事務局長・田所裕二氏)と、丁寧な書面での回答が。とても誠実な印象。
FILE 02 少年ジャンプ『燃える!お兄さん』回収事件
全日本自治団体労働組合
正式名称:全日本自治団体労働組合/発足年:54年/組合員数:約90万人全国の地方自治体職員や公社・事業団などで働く労働者が参加する産別組合。活動目標に、「組合員の生活の向上と労働者の権利の保護」「社会正義の実現」などを掲げる。
概要 90年当時、発行部数500万部を誇っていた「少年ジャンプ」の連載マンガ『燃える!お兄さん』(佐藤正)の「サイボーグ用務員さんの巻」(10月22日号)で、用務員を差別する表現があったとして、自治労大阪府本部や自治労本部が電話とFAXで集英社に抗議、連載の中止や謝罪広告を要求した。これを受けて集英社は「職業差別を起こしたことは遺憾」として掲載号を回収、同誌上や新聞に謝罪広告を掲載した。連載は中止にならなかったが、問題の回は単行本に収録しないことで決着した。
現在 「『燃える!お兄さん』事件以降、現在はマスコミへの抗議活動などは行っていないのか?」というFAXでの質問に対し、「少年ジャンプの事件以後は、用務員などの差別に関することでマスコミへの抗議はありません。日常の業務の中でも職業差別事件は起きていないので、お答えできる内容がありません」(自治労本部)との電話回答。
FILE 03 『ちびくろサンボ』ほか絶版・回収事件
黒人差別をなくす会
正式名称:黒人差別をなくす会/発足年:88年/構成人数:200人超大阪府堺市にある団体。最初は家族3人でスタートしたが、現在では世界に二百数十人の会員がいるそう(05年時点)。90年前後に盛んな活動を繰り広げ、『オバケのQ太郎』(藤子不二雄著、小学館)『Dr.スランプ』(鳥山明著、集英社)などの作品に対しても抗議を行っている。
概要 53年に、岩波書店が絵本『ちびくろサンボ』の翻訳本を出版。その後、複数の出版社からも刊行されたが、89年「黒人差別をなくす会」の文書による抗議をきっかけに、岩波は絶版を決定。しかしその後も別の出版社からたびたび同内容の書が登場し、最近では瑞雲舎がオリジナル版『ちびくろ・さんぼ』を05年に復刊した。同会はこれにも異議を唱えたが、今のところ絶版にはなっていない。
現在 連絡先となっている電話番号に、繰り返し電話をかけるも、常に留守番電話。取材のお願いを何度か吹き込むものの、一向に返答ナシ。最近は抗議活動を行ったというニュースも聞かないし、まさか活動休止中......?ホームページもないため、近況は確認できず。