思慮深い本誌読者なら、政局を左右する西松建設事件の捜査の行方を、ある程度予想できたのではないだろうか。
3月3日、東京地検特捜部は、野党潰しとしか受け取れない民主党・小沢一郎代表の公設秘書の逮捕を断行。時の政権の言うがままに政敵を逮捕する「国策捜査機関」ぶりを見せつけてくれた。特捜部のこうした性格は、本誌もたびたび追及してきており、今月号でも特集を組んでいる。
その上で本誌は、着手直前の今年3月号で「狙いはハッキリしている。特捜部が昨年11月下旬に西松建設本社など約20カ所を一斉捜索したとき、その中に、同社OBがつくった2つの政治団体『新政治問題研究会』『未来産業研究会』が含まれていた。西松の裏金が政治団体を通じて政治献金へと"マネーロンダリング"され、政界にバラまかれていたとみているのだ」と指摘し、次のように予測をしておいた。
〈西松は、自民党の二階俊博氏率いる「二階グループ」を筆頭に、派閥の領袖クラスに多額の献金をしていた。さらには、民主党の小沢一郎代表やその側近である山岡賢次国対委員長にも多額の献金が渡っている。もらった政治資金が裏金から捻出されていたことを議員側が認識していれば、少なくとも政治資金規正法違反に問われる可能性があり、ワイロをもらう汚職事件よりも微罪だが、それでも家宅捜索を受ける容疑になり得るという。いつ解散総選挙があってもおかしくないタイミングだけに、自民・民主のどちらの議員に踏み込むか。やられたほうは計り知れないダメージを受けかねない〉
つまり、小沢氏を含め"汚れた西松マネー"をもらった以上、該当する国会議員の周辺はいつ捜査を受けてもおかしくない状況に追い込まれていた。 今回、いきなり小沢氏の秘書の逮捕に踏み切った検察の手法は賛否あるだろうが、重要なのは、なぜ今、検察は小沢氏を狙ったのかという点だ。
「小沢率いる民主党は、検察の虎の尾を踏んだんだよ」。そう打ち明けるのは、ある検察関係者。いったい、どんな尻尾を踏んだというのか? 「今、検察首脳が最も重要視しているのは、政治家の摘発なんかじゃない。自ら生み出した裁判員制度をスムーズに始めることを何より優先させたい検察は、5月のスタート目前で抵抗を始めた民主党に一撃を与える必要があったんだ」
実は、民主党は今年1月下旬に、裁判員制度の5月開始を凍結するかどうかを協議するプロジェクトチームを立ち上げていた。裁判員に選ばれた市民に"法廷通勤"を強いることになるこの制度には欠陥が多く、民間企業の有給休暇の実施や、保育・介護のフォローなどを導入するよう日本経団連や厚生労働省に持ちかけ、制度の見直しが必要かどうかを3月末までに行う予定にしていたのだ。
「この動きに、検事総長の樋渡利秋はカチンときたんだろう。彼はまさに、裁判員制度の生みの親だからね」(検察関係者)