市民にとっての最適な販売ルールとはなんなのか?(写真はイメージ)
今年6月1日に施行される改正薬事法と厚労省の省令によって、一般用医薬品(以下、大衆薬)の通信販売が大幅に規制される見通しだ。これに待ったをかけるべく、ヤフーや楽天などの国内大手ネット企業が、署名集めなどの一大キャンペーンを展開している。
今回の法改正により、大衆薬は、リスクの高さに応じて第1類、2類、3類に分類されるようになる。このうち、対面で販売することができないネットや電話による通信販売業者は、リスクが極めて低いとされる3類しか扱えなくなってしまうのだ。
大衆薬の6〜7割を占めるといわれる1類と2類が扱えなくなれば、ネット通販業者にとっては痛手だ。また、原材料の入手や、事業規模の関係から全国に店舗を置くことが困難な漢方薬の業界は、郵送による販売が大半のため、規制が施行されると廃業に追い込まれかねない。そして何より、地域に薬局がない、障害があるなどの理由から、店舗に赴くことが困難な人が、必要な薬を入手できなくなってしまうという消費者への影響も問題だ。
驚くべきは、この改正案が、規制を受ける業界抜きで議論されてきた点だ。
「法改正が検討され始めた当初は、議論が通販の規制にまで及んでいなかったんですね。ですが、次第にそこに及ぶようになって。その頃から、法改正の検討部会に、いろいろな形で加わろうとしました」と語るのは、大衆薬のネット通販を手がけるケンコーコム株式会社代表で、日本オンラインドラッグ協会の理事長も務める後藤玄利氏。
「当時は厚労省に『現段階では大枠しか決めないので、今後の細かな部分を話し合う検討会で話せばいい』と言われたんです。ところが、その検討会にも入れてもらえませんでした」(同)
また、規制に反対する旨のパブリックコメントが多数寄せられたが、深い議論はされることなく、結局、省令案は変更されずに公布された。
この間、日本オンラインドラッグ協会では、薬の通信販売に関する自主ガイドラインを作成。安全策も示したが、それらが省令に盛り込まれることはなかった。厚労省の腰の重さに、楽天の三木谷浩史社長は、規制推進派が属する団体による与党議員への献金リストを示し「何か裏の力が働いているんじゃないか!」とぶちまけたが……。
「厚労省からすると、今回の法改正は、ドラッグストアなどで、薬剤師が常駐していないのに大衆薬が売られている、という問題が出発点でしたから。法改正のための議論をしたメンバーにもインターネットの専門家はいませんでした。通販の議論は十分にできなかった、でも危なそうだから規制しよう、という感覚なんでしょう」(同)
もちろん、大衆薬でも用法を誤れば命の危険もある。安全性を重視するのも、当然の話だ。検討会メンバーで、全国薬害被害者団体連絡協議会の増山ゆかり氏は、こう語る。
「大衆薬の身体への影響には、個人差や健康状態、生活環境など、さまざまな要素が関係してきます。そのリスクは、専門家が対面で、適切な情報を提供し指導することで、大幅に減らせるのです。ネット業者の方は十分安全性が確保できるとおっしゃいますが、いくら詳細な注意書きを添付しても、消費者の、大衆薬のリスクに対する認識が低い現状では、きちんと目を通すか疑問です」
一方、後藤氏は、この対面販売の原則に疑問を呈する。
「対面販売といっても、家族が代理で買うこともできる。その程度の原則に縛られて、必要な薬を手に入れられなくなる消費者や、それらを扱う事業者をすべて切り捨ててしまっていいのでしょうか?このまま施行されれば混乱を招くことは明らかで、今後も検討会で安全策に関する議論を深めていきたい。もしそれができないのであれば、議論を法廷の場に移して、施行の差し止めなどを求める準備もあります」
安全性確保は重要だが、この規制でそれが本当に実現されるのか?議論すべきことはまだまだありそうだが、残された時間は少ない。
(逸見信介)