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第1特集
音楽界のイケメンビジネス"ヴィジュアル系"の売り方【2】

音楽評論家・市川哲史氏が語る 古今ヴィジュアル系"イケメン事情"

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 最近のヴィジュアル系のコたちは、昔よりも確実に美形。逆にみんな同じような顔をしていて、誰が誰だかわからない(笑)。X JAPANとかLUNA SEAとか、昔のバンドには個性的な顔の人が多くて、「いかに美しく魅せるか」みたいな工夫があったけど、今のコたちは最初から中の上。同じイケメンでも、そもそもの出発点が違うと思います。

 というのも、男の顔はキャリアと一緒に成長するというか、ブサイクでも注目されればされるほどカッコ良く見える勲章みたいなものじゃないですか。たとえば、昔のヴィジュアル系バンドは「メイク」という分野で、時代の先駆者だった。独学で築き上げた彼らなりの手法が、女の子たちに絶大な影響を与えていた。今や常識になった日本人女性の〝目力メイク〟は、彼らが作り上げた文化だと僕は思っています。それに比べ、今のヴィジュアル系バンドは奇麗な顔をした男の子たちが、すでに出来上がったシステムの中で小さく活動している印象。「時代の先端を走る」といった熱意みたいなものが顔に現れていないんです。

 そこで、僕が考える史上最高のヴィジュアル系のイケメンは、90年代当時のBUCK-TICKの櫻井敦司。メイクした姿はもちろん、素顔も超一級品の美形だったし、何よりも彼独自の美学が全身からひしひしと伝わってきた。彼のモテっぷりといったらもう、死ぬほどスゴかったですよ。ライブの後に飲みにいけば、地方でもホステスたちが群がってメチャクチャ。でも、彼は決して彼女らを持ち帰ったりはしなかった。たまに、勝手にホテルまでついて来ちゃうホステスがいても、そのコを部屋に置きっぱなしにして、深夜のドライブに出かけていたんです。彼の胸には「自分にその気がないセックスはしない」というストイックな誓い(失笑)が、しっかりと刻まれていたんです。

 これはある種の自虐的なこだわりだけど、ヴィジュアル系ミュージシャンの魅力は、そういう特殊な哲学が背景にあってこそ。だから今のコたちは一見イケメンでも、どこか物足りない感じがするのかもしれないですね。(談)

市川哲史(いちかわ・てつし)
音楽評論家。1961年生まれ。「ロッキングオン」「音楽と人」編集部に籍を置く。主な著書は、『私が「ヴィジュアル系」だった頃。』『さよならヴィジュアル系』(いずれも竹書房)など。現在、「日経エンタテインメント!」(日経BP社)にて「市川哲史のライブは人なり。」を連載中。


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