東京・丸の内のAIGビル
2月13日、米政府から公的資金の注入を受けて経営再建中のAIGが、東京・丸の内に保有している日本法人本社ビル「AIGビル」の売却を決めたと報じられた。丸の内のAIGビルといえば、皇居を見下ろす一等地にあり、いわばAIGの象徴ともいえる建物。
同社の日本人社員は「AIGビルで働くことにステータスを感じたことも多い。あのビルを売るところまで追い込まれているのか......」と嘆息する。
一方、AIGの米国人社員は「単にビルを売っただけ。保険事業の売却などと比べると金額も低く、インパクトは少ない」と言い放つ。ただ、米国人社員のこうした態度は今に始まったことではなく、過去には驚くような本社移転計画もあったという。
「80年代後半にAIG日本法人の事業が急拡大したことで、手狭になった本社の移転が話し合われた。この時には、米国から来た役員が『丸の内なんて土地代が高いだけだから、もっとコストが低くて便利な場所に本社を建てろ』と主張。候補地として挙げられたのが、千葉の成田や松戸だったため、会議室にいた日本人全員が椅子から転げ落ちそうになった。そりゃ、アメリカ人にとっては成田空港から近いほうが便利なんだろうけど、いくらなんでも成田では社員も困るからと、必死になって止めた(笑)」(AIG元社員)
AIGビルは同社の登記上の本社ではあるが、すでに本社機能の大半は97年に錦糸町のAIGタワーに移っている。現在、ビル内の大半はテナントに貸し出されているが、それでもAIGビルが売却されないでいたのには、〝一部の社員〟が猛烈に反対したことが影響しているという。
「錦糸町に本社が移ると聞いたときは、大半の社員が『成田よりはマシだ』と許容したが、運用部門の社員だけは、『(都心ではない)あんな場所では働けない!』と強い態度で反対した。運用部門は金融機関の中でもエリート意識が強く、勤務地によっては人が集まらないということもある。しかたがないので、運用部門だけは丸の内に残した」(前出の元社員)
つまり今のAIGの危機は、社員のプライドなど気にしていられないほどに悪化していることにもなろう。
外資系ファンド傘下にある新生銀行も、サブプライム危機で業績が悪化したことを受け、霞が関の官庁街間近にある本店を売却、来年、日本橋の賃貸ビルに移る計画を立てている。外資系銀行に勤務する日本人は「外国人にとってはどこに移ろうが関係ない。業績が悪化した際にはなりふり構わず、少しでも安いところに移ろうとする」と苦笑いする。
景気はますます悪化の一途をたどると見られており、いつか「本社は成田」などという外資系金融機関も本当に出てくるかもしれない。
(千代田文矢)