──マスコミ報道では連日、「金融危機」「不況」の文字が躍っている。実際、サブプライムローン問題をきっかけに始まった金融市場の信用危機はいまだ解決の糸口が見えず、日本経済も深刻な状態に沈んだままだ。日経平均株価が7000〜8000円台と低迷する中、日本を代表する企業の厳しい台所事情も、次々と明らかになっている。2009年3月期の連結営業利益が1500億円の赤字になると発表したトヨタ自動車を筆頭に、ソニーが2600億円、パナソニックが3800億円、日立に至っては7000億円と、輸出関連メーカーが例年にない巨額の赤字を計上する見通しだ。
↑をクリックすると拡大します。
「出口が見えない」「100年に一度の危機」ともいわれる、今回の世界同時不況。一連の報道を見ていると、資本主義経済がこのまま終わるのではないか、という気持ちにさえなる。ただし、個別の企業動向を見ると、この厳しい不況下でも、しっかりと儲けている企業が、あるにはある。
たとえばコンビニ業界。2008年中間期決算で過去最高益を記録したセブン-イレブン(7&i)をはじめ、ローソン、ファミリーマートなども軒並み好業績を残している。これには、タスポを所持していない喫煙者がコンビニでタバコを購入するついでに、他商品にも手が伸びる......という図式が貢献したとみられるが、冷え込んだ消費者マインドを掘り起こす、各社の取り組みが功を奏した面も見逃せない。百貨店や大手スーパーがヒット商品を出せない中、ニッチな売れ筋商品をPOSシステムなどでいち早く見つけ出すコンビニのマーケティング手法は、不況下で強さを発揮しているようだ。さらには、セブン-イレブンが来期に1000店規模の新店舗構想をぶち上げる一方、他コンビニによる大連合結成の動きも報じられており(日本経済新聞2月4日付)、コンビニ業界の活況はさらに続くとみられる。
また、IT業界ではインターネットの通販業者も元気だ。ショッピングモール最大手の楽天では昨年12月、楽天市場における1日当たりの売上高が30億円を突破。同サイトに出店する医薬品や健康食品の人気店「ケンコーコム」では、インフルエンザの流行もあってか、今年1月末に1日当たり3000万円を超える売り上げを記録したという。さらに、家電中心の価格比較サイトを運営するカカクコムが、低迷する株式市場で独歩高を演じるなど、ネット通販会社の健闘ぶりに、市場の注目も集まっている。レジャーや遠出を敬遠する消費者の"巣ごもり"現象が報じられる中、「自宅で買い物」というライフスタイルは確実に広がっている模様だ。
通信では、ケータイのキャリア企業も業績を伸ばしている。NTTドコモが1月末に発表した2008年度第3四半期決算によると、連結売上高は減少したものの、同営業利益は前期約20%増を確保。ソフトバンク、KDDIも同様に、携帯電話事業単体だと"減収減益"だが、会社全体で見ると"減収増益"傾向を強めている。ケータイ購入時の分離プラン導入にともなう販売経費削減という背景はあるものの、各社の経営合理化が進んでいることがうかがえる。
ほかにも、マクドナルド、ユニクロなど、不況下でも好決算を発表した企業は数多い。そんな中、2009年の日本経済を予測してみたい。エコノミストの間では、景気回復の時期について「あと2年」「いや5年だ」と論争が続いているが、米国オバマ政権による景気刺激策の行方がそのカギを握る点では、意見が一致しているようだ。同政権が計画する総額7800億ドル超の景気刺激策には、1500億ドルに上る新エネルギー・環境関連投資も含まれ、グリーン・ニューディール構想と呼ばれる。ビッグスリーの再建問題や、不良債権に苦しむ金融機関の救済方法をめぐって紆余曲折が予想されるものの、一連の景気刺激策が実を結べば、新エネルギー・環境関連技術に優れた日本の企業にも好影響があると期待されている。
もっとも、米国頼みの"他力本願"では、あまりにも不確定要素が多い。実際、オバマ政権による多額の財政出動には、国家財政の悪化に伴うドルの信認低下につながる危険性も指摘されている。もし仮にドル暴落となれば、アメリカだけでなく、世界経済がさらなる混乱に陥ることになりかねない。グローバル経済下で、日本だけが独自の道を行くことは難しいものの、輸出に頼らない内需型の企業が元気になることは、日本経済のリスクヘッジにもつながるはずだ。
さて、今回は「儲けのカラクリ」と銘打った特集を展開する。これまでの日本経済界の主流は、クルマや家電といった輸出型企業であったが、中には今や死に体の様相を呈するものも少なくない。そんな"恐慌の荒波に溺れてしまった"会社、そしてニッチな需要を掘り起こして躍進する新・勝ち組企業などのスキームを浮き彫りにしたい。
(文/神谷弘一(blueprint))