電通の旧社屋(02年まで使用。現在は電通TECビル)。
──前記事では現役電通マンたちの告白を聞いてきたが、電通を巣立ち、今も広告業界で活躍する大先輩から、今の電通――ひいては広告会社は、どう見えているのだろうか? 雑誌局を中心に20年あまりを電通で過ごした広告・出版プロデューサーの吉良俊彦氏から、現場で働く広告業界の若者たちに、エールを送ってもらった。
広告を語る上ではずせないのは、広告というのはクライアントがいてこそ成立するものだということです。広告業は主体ではない。広告会社の役割は、メディアプランニングを通じて、クライアントにとって有益なターゲット、あるいはマスにいかにアプローチするかを考えることです。広告とは、これから何か新しいことをやっていこうと考えている、未来に希望を持つクライアントが展開するもの。だからこそそこには、そのクライアントがどのような考えを持っているかが如実に反映されるのです。
僕は、広告の根底に流れているものは「明るさ」だと思っています。「広告を出すことで、自分の会社が良くなる」という希望は明るいものであるはずですから。確かに、今みたいな暗い時代に、それをやるのは難しいことです。しかし、広告業界の予算が少なくなった云々という視点は、広告を語る上でさほど重要ではないと思います。いま、この不況の中で広告を出そうと考えているクライアントに、どれだけ明るさを提供できるか。この努力が、広告会社で働く人に一番求められているものだと思います。
現代の広告は、その商品を買うであろう人は誰なのか、世代や地域、性別や収入などを想定してターゲットを絞り込み、そこに向けていかに発信していくかがポイントになります。ただマスメディアを使った、誰にでも受け入れられるような、画一的なメディアプランニングが通用する時代ではありません。それは、日本人が個人の意思や趣向をしっかりと持った、つまり成熟したということです。今は広告不況といわれますが、その原因は、マスメディアの影響力低下への対応が業界全体で遅れたから。メディアの規模に依存しただけの広告は、通用しなくなって久しい。やみくもに垂れ流すのではなく、例えば東国原知事の宮崎キャンペーンのように、観光客となる中高年の視聴率が高い番組に出演するなど、ターゲットを絞った戦略が必要とされるのです。
もちろん、衰えが見えていても、マスメディア自体は社会で絶対に必要とされるものだし、なくならないのも確かです。実際に報道やライブ中継といったものには、マスの受け手はしっかり反応していますよね。ただ、そういったこと以外に、マスメディアだからやれることって何かある? と感じるのも事実。だからこそ、マスメディアのさらなる可能性を提示し、相乗効果として広告業界の内需を増やしていく努力が必要になるのです。
ただ、一口に「これからはターゲットだ」といっても、まずターゲットを絞りこむ作業から始めなければならない。また、広告会社の内部においても営業やマーケティング、クリエイティブ、メディアと部署によって考えることは違う。これらを統括的な視点からプロデュースするようなシステムが今の広告会社にあるかというと、決してそうは言えません。それは、広告会社の組織がセクショナリズム化しすぎたことの弊害でもあります。結果として、現状の組織系統のままでは、広告会社全体の内需拡大を考えたときに、結局マス向けの商品を伸ばすほうに方針が向かざるを得ない。しかし、それではターゲットに向けたものは作れないし、時代にも逆行しています。これは、よりターゲット化した広告を出してもらいたいと考えているクライアントにとって不幸ですし、広告減の要因のひとつにもなっている。この両者の指向の差異が、広告会社が現在抱えている唯一の問題です。
これを解決するには、セクションを飛び越えた視点から物事を動かせるような新たな指揮権を持った存在の誕生を待つ......いや、作っていかなければならないのだと思います。今の広告業界人は、プランナーをやりつつマーケッターとしての仕事をすることに追われてしまっているけど、今後はフルメディアを使ってメディア自体をデザインするような、「メディアデザイナー」を目指すことが必要なのだと思いますね。(談)
吉良俊彦(きら・としひこ)
広告・出版プロデューサー。大阪芸術大学客員教授。電通雑誌局などを経て、ターゲットメディアソリューションを設立。中国の出版社の最高顧問を務めるなど、出版・広告業界で幅広く活躍。