昨年12月、千葉県東金市の成田幸満ちゃん(5歳)を殺害したとして勝木諒容疑者(21歳)が逮捕された。だが、勝木容疑者が知的障害者であったため、全国の特別支援学校などから「いわれなき偏見を生んでいる」と訴えが続くなど、やり切れない状況になっている。
そんななか、「事件をめぐる一部の報道こそ、捜査をかく乱し、差別も助長した」という指摘が警察、弁護側双方から噴き出してきた。
「特にTBSの女性記者の行動に対しては、さまざまな面での問題をはらんでいると批判を浴び、告発に発展するのではといわれています」(地元記者)
まずは、事件について振り返っておこう。県警の発表によると昨年9月21日の白昼、路上を歩いていた幸満ちゃんが勝木容疑者に声をかけられ、自宅マンションへと連れて行かれる。幸満ちゃんは部屋の中でマンガを読んで楽しんでいたが、途中でむずかりだしたため、腹を立てた勝木容疑者が風呂場へ幸満ちゃんを連れて行き、黙らせようとして服を着たまま浴槽に沈めた──県警の調べに、勝木容疑者はこんな供述をしていると報じられた。
一方、「知的障害者は、同じ質問をしても違う答えが返ってくる場合がある。警察官やマスコミが『○○じゃないか?』と、一方的な質問をぶつけたら、それが本人の頭の中に刷り込まれ、事実と違う調書が出来上がってしまい、それをマスコミが垂れ流すというとんでもない事態になる」と訴えるのは、副島洋明弁護士率いる勝木容疑者の弁護団だ。この副島弁護士は2004年、2つの強盗事件の容疑を掛けられ逮捕された宇都宮市の知的障害者がでっち上げの自白調書を作成されていたことを追及、後に無罪になった事件などを担当した、その道のプロなのだ。
では、問題のTBS記者の行動を検証していこう。事件発生から数日後、現場近くの聞き込みで「裸の女の子を肩に担いだ男が歩いていた」「女の子を追いかけ回す男がいる」という不審者情報をつかみ、挙動不審に見えた勝木容疑者にアタックを始める。それはとても取材とはいえない手法だった。
まずカラオケ店に勝木容疑者と同行、彼がアニメソングなどを歌うシーンを撮影。屋外でインタビューするときもカメラを堂々と回し、事件のことを知っているかと繰り返し聞くと、にやついた勝木容疑者が「いやぁ、知らないです」と答える。勝木容疑者の、こうした、尋常とは思われにくい表情ばかりを放映すれば、知的障害者への偏見が助長されるのも当然だろう。
問題のシーンはこればかりではない。逮捕目前の12月6日午前1時前、「重要参考人が浮上」と大手通信社が特ダネ記事を配信。同社では、参考人が自分のことであると気がつくと、逃亡したり、自殺することも考えられるので、勝木容疑者に取材はかけていなかった。だが、TBS記者は、この記事配信から約1時間後、つまり5時間後に任意同行されることになる勝木容疑者に直接電話をかけるという禁じ手を犯していたのだ。
取材という名のカラオケデートからすでに2カ月。TBS記者が「その後、あの事件もどうなったかなと思って」と切り出すと、「まだわからないみたいだね」と答える勝木容疑者。TBS記者は、配信記事の中にある匿名の「重要参考人」が勝木容疑者本人を指すのかどうか確かめようと、焦って「警察の人に話聞かれた?」と被疑者になっていることを感づかせる質問を向けてしまったのだ。
「この電話の中で、『諒君は犯人じゃないよね』と何度も問い掛けたせいで、勝木容疑者は逮捕直後の調べに『逮捕されるとは思わなかった』と供述するなど、自分は容疑者ではないという"刷り込み"効果が表れ、真相解明の障害になっています」(地元記者)
知的障害者がかかわる事件は捜査も難しく、過去のえん罪を反省に、報道にも細心の注意を払う必要があるといわれる。それでもTBSは弁護団のクレームを受けた後も映像を流し続けているため、弁護団は告発の動きを進めているという。
(編集部)