──02年の韓国大統領選挙以来、日本におけるネット上での選挙運動解禁に向けた動きは凍結状態にある。そんな日本を尻目に、アメリカでは今回の大統領選挙で一気にネット化が加速。オバマ勝利のカギを握っていたのは、SNSに代表されるウェブメディアだった。
ネットを最大限に利用したオバマ。日本ではいつ解禁になることやら......。
ある国会議員秘書は、私の取材にこう話した。
「インターネットのことが理解できていないわけじゃない。ある程度理解できているからこそ、ネットでの選挙運動を解禁するのは怖いと思っているんです」
「日本でネット選挙が解禁されない理由をどう思うか?」と聞いたときのことである。「日本の国会議員は、あまりにもネットに無知すぎるのでは?」という質問に対して、秘書はそう答えたのだった。
秘書の言う「ある程度理解できている」というのは、実は韓国の先例を意味している。韓国では日本に先駆けてブロードバンドが普及し、その結果、インターネット上の世論がマスメディアを凌駕するパワーを持つようになった。
たとえば2002年の日韓共催W杯では、ネット上で場所と時間を決めて応援が呼びかけられ、それに応じた人々により最終的に400万人もの大応援となった。
また同年の大統領選挙でも、ネット世論は盧武鉉前大統領を当選させる原動力となった。「ノサモ」と呼ばれる盧氏の応援団がネット上で結成され、ウェブ上の掲示板やメールを使った選挙運動を繰り広げたのだ。韓国ではネットと市民(シティズン)の造語であるネティズンという言葉がよく使われるが、盧氏の勝利は「ネティズンの勝利である」と語られた。このときの韓国内の世論調査では「投票に大きな影響を与えるものは何か」という質問に、「ネット」と答える人が最も多かったという。
これは、政治における世代交代も伴っていた。韓国には「386世代」という言葉がある。IT化の進んだ1990年代に30代で、80年代に民主化運動を経験し、そして60年代生まれの人たちのことだ。この層がインターネットを使って盧氏を支持し、朝鮮日報などの新聞メディアを中心とした保守政党ハンナラ党支持勢力との対立構図を作り上げたのだった。盧武鉉大統領は就任後、急速に支持を失うことになるが、当選した時点では、韓国内ではある種の革命的事態であると受け入れられていた。
こうした隣国の状況に驚いたのが日本の政界で、「気軽にネット選挙運動を解禁してしまったら、韓国と同じような『革命』が起きかねない」という不安を招き、これが公職選挙法改正の機運を徐々にしぼませてしまったのである。
公職選挙法にはインターネット利用の規定は書かれていないが、96年に自治省(当時)が「選挙期間中にウェブを更新することは公職選挙法に抵触する」という見解を示して以降、事実上門戸は閉ざされたままだった。しかし、ネットを使いこなしている国会議員の中からは「そろそろ解禁すべきではないか」という声が何度も上がっており、実際に04年の参院選では、解禁直前まで話が進んでいた。
だが02年の盧武鉉政権誕生のインパクトが予想以上に強く、この時の解禁は先送りになってしまったのだった。その後、06年5月に自民党の選挙制度調査会が「ネット選挙運動を解禁する」とする案をまとめたこともある。だが状況は一向に進んでいない。
ところがアメリカでは、08年の大統領選挙で、一気にネット化が全面展開してしまった。当選したオバマ陣営はブログどころか、動画共有のYouTubeや写真共有のフリッカー、ミニブログのトゥイッター、SNSのフェースブック、マイスペースなど多くの最先端ウェブメディアを使い、ネット上の至る所で運動を繰り広げた。
たとえばフリッカーにはオバマの名前で投稿された写真が多数掲載されており、彼の選挙運動中の様子などを見ることができる。投票日の夜、選挙結果を報じるテレビニュースを見つめるオバマ一家のプライベートな写真など、興味深いものも多い。そうした写真は誰でも再利用が可能になっている。
またフェースブックなどSNSのオバマのページでは、政策や生い立ち、ミッシェル夫人について、次期副大統領のジョー・バイデン関連など、さまざまな記事を読むことができる。YouTube上の動画にもリンクされ、俳優のオーランド・ブルームがボランティアとして有権者に電話をかけるシーンや、セレブたちの応援映像、オバマ本人の演説などを視聴できる。さらに「サポーターになる」というボタンが置いてあり、クリックすると、SNS上の自分のフレンドたちに「○○さんはバラク・オバマのサポーターになりました」と情報が配信される。このようにフェースブック上でオバマのサポーターになったユーザーは300万人以上にも上ったという。
運動の中心になっていたのは「マイ・バラクオバマ」という独自のSNSで、オバマ関連の記事や動画を見ることができるほか、Tシャツやアクセサリーなどのグッズも購入できる。さらに「今すぐ献金する」というボタンがトップページに置かれていて、クリック1回で献金コーナーに飛ぶことができる仕組みになっていた。
このコーナーには「献金してTシャツをもらおう」といったキャッチコピーが掲げられ、名前と住所、クレジットカード番号を入力するだけで、少額の献金を行うことができる。「献金した人の中から抽選で4名をオバマとのディナーにご招待」などというキャンペーンまで行われ、有権者の射幸心を煽った。日本では考えられないネットの大盤振る舞いである。
そして、オバマ陣営は約100万人もの個人献金者を集めることに成功し、大統領選が盛り上がっていた9月の1カ月間だけで、なんと1億5000万ドルを集めた。最終的に献金総額は約6億ドルに上ったとされている。注目すべきは、これらの献金の半数近くが、献金額200ドル以下の小口献金だったということだ。これまでアメリカでは政治家に個人献金するのは金持ちに限られていたが、オバマの選挙では膨大な数の中・低所得者が献金した。まさに「塵も積もれば山となる」そのものである。そしてこの献金をもとにオバマは大統領選の終盤、全米のテレビネットワークのゴールデンタイムを占領して選挙戦のCM番組を流すことができたのだった。
さらにこの献金で、全米各地に選挙事務所を設置した。SNSなどでオバマ陣営につながった人たちが、すぐに選挙運動に参加できる土台を用意したわけだ。そうした人たちに対しては、ウェブやケータイ上で勧誘電話を効率的にかけられる仕組みも提供された。次々に有権者の電話番号が画面に表示され、その有権者の反応を入力フォームから書き込んだり、結果を管理したりできる。至れり尽くせりとはこのことだ。
オバマの選挙運動には、マスコミがあまり登場しない。私がここまで書いてきたことの中からピックアップすれば、テレビのゴールデンタイムを占領して選挙CMを流した場面ぐらいしかない。マスコミはほとんどスルーされてしまっている。アメリカで新聞社がいくつも破綻し始め、至高のジャーナリズムとまで言われたニューヨークタイムズでさえ経営危機に陥っている状況と、オバマの戦略の方向性は、軌を一にしている。
日本でも大新聞社と古い政党、年寄りの識者たちは、イデオロギーの左右などいまやなんの関係もなく、世論を支配する力という既得権益のために守りに入ってしまっている。ネット選挙を解禁すれば、このがっちり組まれたスクラムが崩れかねない。おまけに彼らが「世論」と思っているのは、60歳前後から上の年配層だけで、20〜30代の若者など眼中にないのだ。
しかしいずれは間違いなく、世代交代のときがやってくる。そのときにはすべての既得権益は押し流されていくだろう。
「iコンシェル」
昨年11月19日から、NTTドコモが始めた新サービス。ユーザーの好みに応じて、パーソナライズされた情報が携帯端末に配信される。たとえばDVDレンタルのGEOの会員IDを登録しておくと、借りたDVDの返却日が、自分のケータイのスケジューラに自動的に表示されたりする。ライフスタイルや居住エリアに合わせた情報が待ち受け画面に表示されるなどの機能もあり、自分の生活パターンに合わせて、的確な情報が提供されていくライフログ時代の幕開けとなるか。
「グーグル・サイト」
自分の好みのウェブサイトを比較的簡単に構築できるグーグルの無料サービスで、昨年12月から日本語版が提供されはじめた。天気予報やカレンダー、写真などのウィジェットを自由に組み込むことができる。容量は100MBで、グーグルドキュメントとも連動している。デザインだけでなく、アクセスと共有の設定もカスタマイズできるので、イントラネットとしての利用が可能。
「ポメラ」
文房具メーカーのキングジムが発売した、2万7300円(希望小売価格)の超小型メモ入力マシン。打ちやすいキーボードと小さな液晶で構成され、日本語入力のATOKが実装されている。昨年11月の発売以来、IT業界で大ブームとなり、ずっと品薄。
「うごメモはてな」
任天堂とはてなが協業、という驚くべきニュースとともに12月18日に発表された新しい試み。ニンテンドーDSiの無料ソフト「うごくメモ帳」で作品を描き、DSiをインターネットにつないで「うごメモシアター」にアクセスすると、作品を投稿できたり、パソコンやケータイから観ることができる新しい動画サービス。