──女子の憧れの職業であるキャビン・アテンダント(CA)、学生の憧れの企業である全日空(ANA)。つまるところ、ANAのCAは誰もがうらやむ理想の仕事のはずだが、現実は正反対。入社1年で3分の1以上が辞めることもあるという過酷(?)な現場の内幕を、CAたちが告発する!
昨年末に公開されてスマッシュヒットとなった映画『ハッピーフライト』。(C)2008 FUJI TELEVISION, ALTAMIRA PICTURES, TOHO, DENTSU
A ANAが特別協力している映画『ハッピーフライト』観た?
B 観た観た。あれ、業務内容とか人間関係とか、結構リアルだよね。わかるわかる、って感じ。
C でも、田辺誠一演じるコーパイ(副操縦士)が頼りなさすぎだけどね。あんな人いない。
A あと、綾瀬はるかほどチャランポランなCAもいない(笑)。
B そうそう。映画では、「プリブリ(=プリブリーフィング。出発前のCAによる打ち合わせ)」で、綾瀬はるかが「CAも、お客様に提供するデザートを食べられますか?」とかなんとかCP(=チーフパーサー、CAの責任者)にトンチンカンな質問をしてたけど、実際はあんな質問したら、人格否定されるほどCPに怒られる。プリブリは、これが一日のフライトの明暗を分けると言っていいくらい怖い!
A 私も、プリブリがストレスで、毎回吐きそうになる。CPが名指しで保安上の対処手順などを答えさせるとき、先輩方の厳しい視線が一斉に自分のほうを向いて......。あのときの緊張感を思い出すだけでも恐ろしい。
B たとえば、火災が起きたときの手順とかね。電気火災か一般火災か見分けて、それぞれどういう消火器を使えばいいか、その消火器の使い方、有効距離、有効時間、機長とCPへの報告内容などなど......。答えはマニュアルの文言と一字一句同じでないと、「この子大丈夫?」っていう目で見られ、もし間違えようものなら、「あの子はできない子」というレッテルが貼られちゃう。しかも、その噂がCAの間で知れ渡り、業務で一切信用されなくなることも......。女の園は怖いよ。
A この前、答えられなかった子は、業務中もCPの顔を見るたびに「今日はすみませんでした」と謝りっぱなし。宿泊先のホテルに着いてからも、あらためて謝りに行ったんだって。10センチくらいの分厚いマニュアルを全部暗記しろっていうのが無理な話。
C もうプリブリさえ終わってしまえば、仕事は終わったようなものという感じ。
B いちばん気を使うのは、お客様じゃなくて先輩だね。
A ほんとだね。一緒に飛ぶCPに「○月×日にご一緒させていただきます△△です」って、いちいち社内メールで挨拶したりね。そのために、定時よりだいぶ早く出社しなきゃならない。規則で決められてるわけじゃないけど、暗黙のルールでメールしなきゃマズい。ほかに、その日のフライトに関する情報をチェックしたり、プリブリのために勉強したりで、初めの頃は決められた時間の3時間前には出社してた。サービス残業してるのに等しい。
B 気を使うといえば、地方のホテルに宿泊したとき、朝、空港へのタクシーが迎えに来る時間の15〜20分前にロビーに下りて先輩を待ってなきゃならないってルールもよくわからない。そういう上下関係が、体育会系っぽい。
A 全然働かない先輩もいるのに。昨日一緒だった50歳くらいのCAも、なんにもしなかったよ。お客様に頼まれたワインの色も、ギャレー(飛行機内のキッチン)に取りに戻る間に忘れちゃってんの(笑)。
C 業務中に先輩に怒られたことってある? 私は新人のとき、先輩に「センスがない」って言われて、機内で泣いちゃった。そのことはいつまでも傷になってて、今でもその先輩を見かけるとビクビクしちゃう。
A 私も「この仕事、向いてない」って言われて、家に帰って泣いた。あんたにそんなこと言われる筋合いないよって。
B プリブリの緊張を引きずって、業務中に倒れた子もいたね。結局、その子は辞めちゃった。
A お客様の前で泣いちゃった子もいたよ。飛行時間の短い韓国線では用意するのに時間がかかる飲み物を頼まれたら、後回しにするか断るのがCA間の暗黙のルールなんだけど、その子はすぐ作りに行こうとしてその場で先輩に腕を掴まれて怒られて泣いちゃったんだって。お客様はびっくりして「ないなら、いいです」って恐縮してた。
B 入る前には、こんなに先輩との関係で悩むとは思わなかったな。
C でも、今の若い子はCPともわりと気さくにしゃべってるって感じるときも多いよ。昔は、大御所CAは、同じ便に乗務していても話せないくらい雲の上の存在だった。変わったなって感じがする。
A 一般的に、CAは給料が高い、花形の職業というイメージがあるけど、全然だよね。
B そうそう。入社して3年間は全員契約社員で、基本給+ステイ代金(地方での宿泊手当)1日5000円。昇給ほとんどなしで、年に2回15万円の手当がもらえるけど、合計したら年収350万円前後。中途採用の私は、OLだった以前よりも給料は下がった。
C 4年目以降の正社員はステイ代金が若干高いけど、それでも契約社員時と比べて、年収は1・5倍もない人がほとんど。バブル期以前に入社した、今40歳ぐらいの人たちは、年収1000万円くらいあるみたい。それで居座って全く働かないから、不公平感を感じる。
B 小さい頃からの憧れの職業だったのに、現実はキツい。
A 私もそう思う。夢を金で買ったようなもんだわ。
C そう思って入ってくる子も多いけど、辞める人も多い。私のときは、300人ほど採用されたけど、6年もたってない今では3分の1くらいしか残っていないよ。
A 2〜3年くらい前が採用人数のピークで、私たちのときも600人くらい採用された。でも、08年からまた減ってきているみたい。会社は新人を育てるより即戦力を求めてるみたいで、「キャリアCA」っていって、以前ANAで働いていた経験のある人を、パートとして雇って穴埋めしてる。人件費を削減したいんだろうね。
C 削減といえばさ、宿泊ホテル、明らかに経費削減されているよね。以前はANA系列の立派なホテルに泊まれたのに、一昨年にホテル事業を売却しちゃったこともあって、どんどん格安のビジネスホテルに変更されてる。
A 最低なのは、石川県小松市のホテル。女性社長で有名なホテルチェーンなんだけど、部屋の中にコウモリが飛んできた(笑)。
B あそこは本当にひどい。シーツを換えてなかったことがあって、CAがクレームを言ったら、ホテル側も非を認めて「換えるようにします」って。大阪のホテルも嫌い。閉所恐怖症の人はダメっていうくらい狭い。
A パイロットはめっちゃいいホテルで広い部屋に泊まってるのに......。
C 精神医学上、パイロットはいつも密閉された場所で仕事をしているから、広い部屋に泊まらないとダメ、という理屈らしいよ。
B CAだって、狭くて人が密集してるところで仕事しているから、ストレスたまるよ!
B この仕事をしていると、有名人に結構会えるよね。EXILEはみんないい人だったな。AKIRAなんて、毛布は畳んで返してくれたし、最後はCPに「ありがとうございました」って丁寧に挨拶して帰った。
A かわいかったのは、小林幸子さん。芸能人は軽食はいらないという方が多いんだけど、「食べよ、食べよ」ってマネージャーさんとうれしそうに話してた。VIPでは、中曽根康弘さんが乗ったときは、今まで見た中でいちばん厳かなプレミアムクラス(ANA国内線の最高クラス)だったな。
C でも、VIPの人が遅れると、出発時間が遅れても待ってなきゃならないから大変。
B この前、SMAPを乗せ忘れたと勘違いしたときは、離陸直前にわざわざ搭乗口まで引き返して48分も遅れたもんね。SMAPや嵐はお客様と一緒に搭乗すると混乱するからVIP扱い。地上係員が引率して、わざわざ引き継ぎに来る。ANAと仕事をしたことがあるかどうかも関係しているみたい。SMAPは過去にANAのCMに出ていたし、嵐の松本潤も『花より男子』とタイアップしたCMに出ていた。同じジャニーズでもJAL協賛のドラマに出たメンバーはJALに乗ったりしてるしね。ほかに政治家や大きな会社の社長さんはVIPだからご挨拶して、新聞をお持ちする。
A 芸能人で評判が悪いのは、エド・はるみ。同期が体験したんだけど、機内の空調を止めろって言ってきたんだって。止めろって、上空の気温はマイナスなんですけど。「それはできかねます」と答えたら、「なんでできないのよ!」って大声で怒られて、さすがにそれはレポートアップ(=会社に報告書を提出)したって言ってた。世間では評判がいいのに、ショック。
C エドは、以前にも「寒いからプレミアムクラスからエコノミーに移動したい」と自分で希望したくせに、「エコノミーには人がいっぱいだから嫌」といって怒鳴ったんだよ。
B タカアンドトシのタカは、去年、8年間付き合っていた一般人女性と別れたって言ってテレビで涙ぐんでいたけど、直後に女の子とラブラブで乗ってきて唖然とした。別れたのが嘘なのか、もう新しい人を見つけたのか。
A 賛否両論あるのはIKKO。「今年の秋は、どんなメイクがはやるんですか」とCAが聞いたら、カバンの中からいろいろ出して丁寧に説明してくれたんだって。でも、トイレがたまたま汚れていたことで、叱られたCPもいたとか。すごい強い香水をつけていて、苦情が来そうなくらい匂いを振りまくのも困る(笑)。
C 和田アキ子は大きい荷物を機内に持ち込んでCAに上の棚に上げさせたり、トイレで喫煙したこともある困り者という評判。伊東美咲も感じが悪くて、大きい荷物を持ち込んで、棚に上げたくないから預かれと言ってきたことがあったな。
A 織田裕二もひどい。CAがこっそり名刺を渡したら、「ちょっと皆さん見てください。この人、仕事中にこんなことしてますよ」って名刺をひらひらさせながら大きな声で発表して恥をかかせたんだって。まぁ、下心を出して名刺を渡したほうも、問題なんだけど(苦笑)。
C みんなは名刺を渡したり渡されたりってある? 私が入社した頃は、ちょうどITブームで、六本木ヒルズで村上世彰さんらと合コンしたり、ホリエモンとメールしている同期もいたよ。
B 私はないな。男性客から手紙を手渡されたことがあるけど、中を見てみたら、その人は僧侶で「つらいことがあったら電話ください」って書いてあった。私、そんなつらそうに仕事してたのかな(笑)。
A 私も「信じればいつか道は開ける」っていう格言が書いてあるカードをもらって、よくよく聞いたら創価学会だったよ。業務中の出会いは、世間が考えてるほどはないと思う。
C 私はけっこう名刺やお礼状を頂いて、交際に発展したというケースを知ってるけど......。人によるのかな。
B 恋愛対象として絶対ありえないのは、パイロット。女癖が悪いのを間近で見ているからね。
A 私が知ってるパイロットは、みんな1人か2人は愛人がいる。小学生の子が「パイロットになりたい」なんて言ってるのを聞くと、「実際は汚い世界なのよー」って言いたくなっちゃう。
C パイロットは、地上勤務(総合職やグランドホステス)と結婚するパターンが多いね。パイロット訓練前に2〜3年地上勤務を経験するから、そこで知り合う。地上勤務の中ではパイロット訓練生はかっこ悪くてもモテモテ。
A CAに手を出すパイロットもいる。年収2000万円とかざらだから、お金に弱い子は誘われたらコロッといっちゃうんだろうなあ。そういう子たちを"ピンクCA"って呼んでるんだけど(笑)。
C ねえ、みんな、ANAでいつまで働きたい?
A 私は辞められるときに辞めたい。あと3年続けばいいかな。いい経験にはなったし、正社員になってまで続けたいとは思わない。周りでも、辞めたいって言ってる子は多いよね。10年後のビジョンがある人なんかいない。子どもを産んでからも続けられる仕事じゃないし。
C 体もきついしね。離陸着陸の衝撃や重い荷物の上げ下ろしで、腰痛が職業病みたいなもの。いつまで働けるかわからない。
B 実は私、もう転職活動始めてるんだ。でも、優待券(契約社員は、国内線ならどの便でも年間約8回無料)が残ってて、おいしいところを全部味わってから辞めたいなあ、とか考えると、辞めるタイミングが難しい。
C 私も早く結婚して、JALウェイズ(JALのグループ企業で、ホノルルやグアムなどリゾート路線を運航している)でゆったりと働きたい。JALウェイズは、元ANAのCAを歓迎しているんだってよ。A&B いや、もうCAは勘弁!
(構成/安楽由紀子)
まず、新聞。アレってもらえるものだと勘違いしている人いない?
「新聞は同じものを一日使い回すんです。なので、読みたいページだけ抜いてしまったり、グチャグチャにしたりしてしまうと、畳み直すのが大変。新聞をきれいに読む人が好きです(ハート)」(若手CA)
持って帰るのはもってのほか。逆に自分が持ち込んだ新聞を置いて帰ってしまうのも、混同して困るとか。もうひとつ、困るのは手荷物。CAさんが棚に入れてくれるものと勘違いしている人も多い。
「大きいキャリーケースを『上げて』という方。私たちも普通の女です。ご自分で上げられない荷物や足元に置けない荷物は、機内に持ち込まずに預けてください。CAの腰痛は深刻な問題なんです」(ベテランCA)
男性は、ここでCAさんを助けてあげるとポイント高いかもね!
では、「一緒に写真を撮ってください」「肩を揉んでください」などのリクエストには、CAさんはどこまで応えてくれるのだろうか?
座談会に出席してくれたCA。彼女たちを困らせないよーに!
「業務に差し支えなければ、修学旅行生たちと一緒に写真を撮ることもあります。肩揉みは『ほかの業務があるの で』と言い訳してお断りするでしょうね。以前、マニアの方から、『靴を脱いでください』と頼まれたときも、『緊急時に対応できないと困りますので』とお断りしました。まあ、そんなに気持ち悪い要求でなく、かつ保安業務に支障がなければ、できる限りのことは応じますけれども......。たとえば、『サインをしてください』と頼まれた時は、 実際にサインして握手をしました」(前出・若手CA)
度を過ぎた要求やクレーム、暴れるなどの問題があった場合は、ブラックリストに載ってしまう。常識の範囲内で、よい空の旅を!