「10月解散、11月総選挙」──まるで既定路線のように伝えられた、あの政局報道はいったいなんだったのだろうか。大手新聞は各紙、9月下旬に誕生した麻生太郎政権について、「早期解散」を既定路線として報じ続けたが、結局、前代未聞の見立てミスとなった。麻生首相が解散時期を明言しない中で、「10月解散」と報じ続け、日本全体をミスリードした"大誤報"といえるだろう。そんな一連の報道を、大手紙の政治部記者が振り返る。
「自民党の細田(博之)幹事長らが、メディアに対して先送りを正式に認めたのは10月28日。このときになって、大手紙は初めて解散の先送りを報じたんです。もちろん、それ以前にも兆候はあったんだけど、いったん自社の1面で報じた"早期解散へ"という政局を覆す報道はできなかった」
この記者が口にした「兆候」とは、こうだ。実は、自民党は10月中に2度(1度目は15〜16日、2度目は25〜26日)、選挙に関する独自世論調査を実施しており、いずれも、自民党と公明党を足しても衆議院480議席の半数に届かず、民主党など野党優勢というデータが出ていたのである。
「このデータを見た麻生さんが『公明党と組んでも勝てないじゃないか』と最終判断し、早期解散ばかり要求していた公明・創価学会側を切り捨て、解散を見送ったんです。しっかり取材をしていれば、この時点で『先送り』を他紙に先駆け出せたでしょうが」(同)
ところが、先送り決定後も大手紙は誤報を反省するどころか、言い訳のオンパレードに終始するばかり。
なかでも、読売新聞は始末が悪い。11月2日付朝刊で、「麻生首相が10月10日夜に自民党の細田幹事長とひそかに会談し、『10月末衆院解散─11月30日衆院選』に踏み切る意向を伝えていたことが分かった。(中略)『首相のはっきりした意志が示された』と判断した細田氏は、その後、『解散は近い』と積極的に発言」などと掲載。「政治家の言うままを伝えただけで、誤報を流したわけじゃないという読売の強烈な言い訳ですが、政治家の言葉を垂れ流したのが問題だったという反省がない」と、前出の政治部記者も苦笑する。
一方、先送り決定に合わせ、ここぞとばかりに政権の内幕を書いたのが、共同通信だった。
先送り当日の10月28日に配信された記事によると、同月26日夜、グランドプリンスホテル赤坂で、麻生首相と公明党の太田昭宏代表、北側一雄幹事長が密会。その席で公明党の2人は、早期解散に慎重な麻生首相に向かって「一体、誰のおかげで総理になれたと思ってるんだ」と怒鳴りつけた──自民党と公明党の亀裂が決定的になった瞬間を、こう報じたのだ。
「共同は迷走する政権内の暗闘を描いたんです。案の定、自民・公明の両党から訂正を求める猛烈な抗議が共同の編集局に届きました。編集局長は『ウソ偽りのない報道だ』と抗議を突っぱねているそうです」(同)
共同の孤軍奮闘もむなしく、与党からの抗議を時事通信が面白おかしく報じたほか、朝日新聞も10月31日付の政局検証報道の冒頭で「与党内は、共同通信が配信したこの記事の話題で持ちきりだ」と記事を引用して内幕を語るという、人のふんどしを借りた禁じ手を使った。「自分の足で情報を集めない日本の政局報道には、絶望感すら覚えますよ」と前出・政治部記者。
ところで、大手紙の政局報道に本誌が不甲斐なさを感じるのには訳がある。10月発売の本誌11月号のなかで、小沢民主党が自民党と改めて連立を模索していると報じた。大手紙各紙は12月1日付でようやく、小沢氏が大連立構想を周辺に語ったと報じる事態になり、本誌の見立てが2カ月も後に裏付けられることになった。
キャスティングボートを握る公明党に振り回されることなく冷静に政局を見極めれば、ここまでの誤報など起き得るはずもなかったであろう。政治家からの垂れ流し報道をいつまでも続けていては、新聞の読者離れは加速するばかりだ。
(編集部)