(写真/江森康之)
日本の結婚難の解消は草食系男子の増加にあり!?
[選者]
白河桃子(ジャーナリスト)
これまでの男性向け恋愛本といえば、どれも「不特定多数の女性と、どれだけ多くSEXできるか」という、極めて露骨なテクニックが内容の中心でした。しかしこの『草食系男子の恋愛学』は、小手先のテクニックよりただひとりの好きな女性に気持ちを伝えることを重視した、これまでにないタイプの恋愛実用書になっています。ひとりの女性に対して徐々に距離を縮める努力を続け、誠実で静かな愛をはぐくむ思想。女性向けの恋愛本では、すでにこうした草食系の恋愛が語られることが多いのですが、今回、初めて男性向けにこの手の本が出版されたことは、非常に画期的だったと思います。
ちなみに、この本における"草食系男子"とは、自分はモテないと思い込み、恋愛に臆病になってしまった人たち。でも、心の奥底には「好きな女性に振り向いてほしい」「恋愛したいのにうまくいかない」という切実な悩みを抱えていて、「自分を少しでも変えたい」と願っている心優しい人たちを指しています。
この本には女性と付き合うまでのプロセスや接し方、恋人同士になってから心掛けるべきこと、そして気遣いまでが、丁寧な言葉で解説されています。ここで目を見張るべきは、あらゆる記述が女性の身になって考えられた、非常に優しい内容だという点。特に女性のSEX観を述べた部分には、男性視点の乱暴な解釈もなく、女性が読んでも嫌悪感を抱かない、こまやかな配慮がなされています。著者である森岡正博先生も本の中で、「何十人もの女性に話を聞いて原稿を読んでもらい、違和感のある部分を指摘してもらった」とおっしゃっていましたが、こうした地道な執筆姿勢もまた、この本の価値を高めているのだと思います。
と、ここで私の個人的な意見を述べておきましょう。かつてはバブル世代の女性を中心に、恋人にしたい男性の条件は、背が高くてルックスも良く、会話も面白くて高収入……なんて要素が大半でした。しかし、今の20~30代の女性はみな、こうした男性は女性のプライドを満たす道具でしかなかったことを知っています。大体、こんな男性が本当にそばにいたら、浮気されそうで不安じゃないですか(笑)。結局、今の若い女性は、恋人に「誠実」と「安心」を求めているのです。つまりは"草食系男子"こそ、現代女性のニーズに合った恋人候補なのです!
最後に、「婚活」に携わる身としてもう一言。恋愛に対して奥手の草食系男子は、積極的な部分を女性に任せればいい。相手が誠実なパートナーになってくれるとわかったときの女性の突進力は、男性が想像する以上です。もし、今のあなたに理解を示してくれる女性がいたとしたら……迷わず流れに身を任せてみましょう。意外と幸せな人生が、待っているかもしれないですよ?
しらかわ・とうこ
慶應大学卒業後、OLを経てライターに転身。晩婚、未婚、少子化問題に関する書籍やコラムを多く執筆し、(少子化)ジャーナリストとして活躍する。07年の著書『「婚活」時代』(山田昌弘 共著/ディスカヴァー携書)で使われた「婚活」という言葉が今年は各種メディアでブームになり、若い世代の結婚観に大きな影響を与えた。近著に『結婚氷河期を乗り切る本』(メディアファクトリー)。
『草食系男子の恋愛学』
極貧生活の暴露と音楽業界の悪しき習慣を赤裸々に告発!
[選者]
雨宮処凛(作家・ライター)
『ホームレスヴィジュアル系』は、ヴィジュアル系バンドSHAZNAのデビュー前から現在までを振り返った告白本。私は15~20歳の頃までヴィジュアル系バンドの追っかけをしていたのですが、SHAZNAはインディーズ時代からよく知るバンドのひとつでした。一見、華やかに見える彼らですが、デビュー前に極度のビンボーを経験していたことは、ファンなら周知の事実。しかし、対外的なイメージを大切にするヴィジュアル系バンドが、当時の生活をここまで赤裸々に語って本にするとは、正直驚きでした。
この本には2通りの読み方があると思います。ひとつは、極貧状態だった彼らの生活を垣間見ること。そしてもうひとつが、音楽事務所のいい加減さやインディーズバンドに対する搾取構造など、当時の音楽業界の裏側を見て楽しむ方法です。たとえば、LUNA SEAなど多くのアーティストを抱え、当時最強の音楽事務所だったスウィート・チャイルドとSHAZNAが契約を交わすシーン。別の音楽事務所でデビューが内定していた彼らに対し、事務所側は社長自ら勧誘をかけたのですが、そのときの会話の内容がテキトーすぎてスゴイ(笑)。社長はボーカルのIZAMのことを最後まで「イズモくん」と勘違いしていたし、SHAZNAはSHAZNAで下手くそなライブ(当時彼らは自分たちのライブパフォーマンスに自信がなかった)を見られると契約の話が流れると考え、口八丁も含めたその場のゴリ押しで正式契約を勝ち取ってしまった。
90年代後半は、X-JAPANとLUNA SEAの活動休止後にさまざまなバンドが乱立した、ヴィジュアル系第二次最盛期。この本からは、デビューを目指してがむしゃらに頑張るSHAZNAの熱意がダイレクトに伝わってきて、私もつい若い頃を思い出し、身悶えするような恥ずかしさを覚えてしまいました。
ところで、この本を現代的な視点で見てみると、「当時はまだ余裕のある社会だった」と感じざるを得ません。ギターのAOIは多額の借金を両親に肩代わりしてもらいましたが、これは今なら「払えない」と断られる可能性が高い。また、友人宅を転々としたり、車中泊を繰り返していた彼らですが、協力者が登場し、無条件の救いの手が差し伸べられています。同じホームレス状態でも難民として社会からはじき出された今のフリーターとは、周囲の環境がまるで違うのです。
SHAZNAはビンボーになっても多くの人に助けられながら、ビッグな夢をつかむことができました。でも、今の若い人たちが、同じようなリスクを背負ってチャレンジするとどうなるのか? 夢を追うことすら難しくなった現代の悲しさも、この本から読み取ることのできる、もうひとつのテーマなのかもしれません。
あまみや・かりん
10代はヴィジュアル系バンド追っかけの日々。22歳のとき右翼団体に入信し、愛国パンクバンド「維新赤誠塾」でボーカルとして活動したが、99年に同団体を脱会。00年に作家デビュー。小説『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)が代表作となる。現在は若者の貧困問題に取り組んでおり、今年話題になった、「ワーキングプア」や「プレカリアート」などの言葉を広めた。近著に『対論一生き抜くこと』(七つ森書館)がある。
『ホームレスヴィジュアル系』
(構成/西原太郎・平田誠人(KyoPro))