──農林水産大臣が薦める「目からウロコの農業問題」、婚活ジャーナリストが推す「草食動物的な男性像」、草サッカーチームを日本一のチームに育てた社長がチームの姿を投影する「ドバイの作られ方」など、今年の"顔"とも言える6人がヤバい本を選出!
(写真/江森康之)
農業問題に鋭く切り込んだ 有識者による辛口批評
[選者]
石破 茂(農林水産大臣)
国政に携わる人間として、日本の政治問題に関する書物は常にチェックしているようにしていますが、『本質を見抜く力』はとてもわかりやすい切り口で、日本の諸制度を批評している良書です。特に第6章では、解剖学者の養老孟司先生と元国土交通省河川局長の竹村公太郎氏、それに農業経済学者の神門善久先生による特別鼎談が載っていて、話題になることの少なかった日本農業の問題が、目からウロコの視点で語られています。
世間ではあまり議論されていませんが、日本の農政改革は目下の急務。自給率の向上が叫ばれているのに、現実には農業人口の減少が想定以上に進み、耕作放棄された農地も増加する一方です。私もこの事態をもっと国民的議論の対象に持ち上げたいとPRしているのですが、いかんせん農地をめぐる法律は複雑で理解されにくく、なかなか成果が表れていません。そこでこれほど啓蒙的、かつわかりやすい本が出版されたことは、非常に喜ばしいことだと感じています。
もちろん、この本には国に都合の良いことばかりが書かれてあるわけではありません。特に神門先生の指摘は鋭く、農地法の不備を突いた農地の転売問題が"錬金術"とされ糾弾されています。農地の取得には、営農意欲や営農能力の公的な審査が必要です。しかし、耕作を放棄して、ただ農地の地価が上がるのを待ち、折を見て商業施設などに高額転売する土地成金がいるとも言われています。本来、農業は確たる経営方針のもと、大規模に展開されれば非常に儲かる優れた産業。実際に、そうした組織化に成功した先駆的な農業集団も存在します。ただ、これは一部の話にすぎず、今のところは野心溢れる新進気鋭の農業経営者がいたとしても、まとまった農地が適正に入手しにくい状況が続いているのです。
これは、農水省も日本農業の未来のために、早急に法整備し直さなければならない問題だと認識しています。そして私個人としては、同書が広くあまねく国民に知れ渡り、特に農政にかかわる当事者の方々全員に読まれることを願っています。農政側の身になれば、この本には認めざるを得ない手痛い指摘もあれば、反論したくなる部分もあることでしょう。ならば、ぜひ表立って改革に関する意見を述べていただきたい。すでに農水省でも、来年の国会に向けた農地法改正の準備を進めていますが、クリアカットな意見交換が活発に行われ、それを国民の皆さんが熱心に聞く光景があってこその、本当の改革だと私は信じています。
最後に、『本質を見抜く力』を読み終えた方には、続けて『日本の食と農』(神門善久著/NTT出版)も読むことをオススメします。より詳細な農地法の課題や改革案などが記されており、必ずや農政への問題意識が高まることでしょう。
いしば・しげる
政治家。86年、第38回衆議院議員総選挙で初当選。その後、農林水産政務次官、防衛庁長官などのキャリアを経て、07年の福田康夫内閣で防衛大臣に就任。今年発足した麻生太郎内閣でも続けて農林水産大臣に指名され、話題を呼んだ。無類の軍事マニアであり、ミリタリー系プラモデルの愛好家でもある。メディアに対して非常に協力的で、テレビや雑誌への出演が多数。
『本質を見抜く力』
民主主義の成熟度の高さを証明した希有な暴露本
[選者]
上杉 隆(ジャーナリスト)
『偽りのホワイトハウス』は、簡単に言えばブッシュ大統領の元報道官が、現政権の内幕をすべて明かしてしまった回顧録。何がスゴイかって、それは現在もある政権で起きた権力闘争や失政の内情、さらに国民に対する情報操作の裏側などが、実名を出して赤裸々に書かれていること。日本では混乱を恐れて、こうした"暴露本"は政権が終わってしばらくした後に、偽名や匿名を使って出版するのが当たり前なのですが、この本は現在のブッシュ政権について書かれたことに大きな価値がある、日本にはない政治ジャーナリズムを実現した好例だと思います。
なお、原書がアメリカで発行されたのは今年6月のことで、瞬く間にベストセラーとなりました。さすがは政治の国といいますか、民主主義の成熟度が高い国ですね、アメリカは。現政権の失政発覚となれば、国民間に大騒動が起こってもおかしくないものですが、今回は全米が冷静にこの本を受け入れていました。読者の中には先の大統領選でブッシュの共和党を見限り、民主党支持に回った人も多かったのではないでしょうか。現に著者のスコット・マクレランも、共和党からくら替えしてオバマ支持を表明。慣習やしがらみによって政党に縛られるのではなく、政治思想の違いや政策の成否で堂々と自身の立場を変えられる政治家がいることも、アメリカ民主主義の成熟度が高い証拠と言えるでしょう。
本の内容、特にイラク戦争にかかわる部分で釈明を求められたブッシュ大統領は、12月の会見で自らの非を認め、「イラク戦争は間違いだった」と国民に謝罪しました。この点においても私は『偽りのホワイトハウス』を高く評価していて、皆さんに強く推薦したいのですが、それと同時に当時の日本のイラク政策にかかわった、小泉純一郎元首相や麻生太郎現首相(当時は外務大臣)にも、ぜひ目を通してもらいたいと思っています。そして記者会見を開いて、「日本のイラク政策も誤っていた」と、しっかり日本国民に頭を下げてほしい。この本には漢字が多くて麻生さんには読みづらいでしょうから、私からもルビを振ってお渡しするくらいのご協力はいたします(笑)。
若い世代の方々にとって、政治の世界は"遠い空の向こう"の出来事に思えるかもしれません。でも、著者であるスコット・マクレランをはじめ、この本に実名で登場する政治家秘書やジャーナリストのほとんどは20~30代。アメリカでは政治や報道の表舞台に働き盛りの彼らが次々登場し、老人たちよりも華々しい活躍を見せています。秘書同士による情報隠蔽や騙し合い、ジャーナリストの勇気ある告発……上を目指す世代のリアルな権力闘争が書かれているノンフィクションとして、この本を読んでみるのも面白いかもしれません。
うえすぎ・たかし
富士屋ホテル、NHK報道局、鳩山邦夫公設秘書、ニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者を経て、02年にフリーランスジャーナリストとして独立。『石原慎太郎「五人の参謀」』(小学館)、安倍内閣の内幕を描いた『官邸崩壊』(新潮社)はベストセラーとなり、特に後者は韓国語にも翻訳され、日本のみならず海外でも注目された。近著に今年出版された『ジャーナリズム崩壊』(幻冬舎)がある。
『偽りのホワイトハウス』
(構成/西原太郎・平田誠人(KyoPro))