この男、凶暴につき、優しくてせつない。そして純だ。アイスピックをペンに持ち替えた男の言葉とは──。
興味深い本が出た。タイトルは『ドブネズミのバラード』。チーマー、ギャング、暴走族が入り乱れ、争った90年代東京を振り返る、当事者の自叙伝。著者は、ぼくもよく知っている「彼」だった。
初めて会った10年前、彼はまだバリバリの現役だった。たぶん実話誌か何かの打ち合わせだったと思うが、歌舞伎町の喫茶店で彼と待ち合わせたことがある。そのとき、何を話したかは忘れてしまったが、2メートル近い長身のアフリカ人2人を引き連れて彼が現れたことだけは覚えている。アフリカ人の舎弟を持つヤクザを見たのは、あとにも先にもこのときだけだ。