連載
磯部涼の「川崎」【第八回】
【磯部涼/川崎】川崎の不良が歌うストリートの世界
―― 彼が登場したのは、午前0時を少し過ぎた頃だった。その日のパーティが行われていたのは、川崎市の閑静な住宅街にあるバーで、そこにまだ夜が浅いうちから続々と、首までタトゥーが入った男たちや、着飾った女たちが...
2016.08.26
―― 彼が登場したのは、午前0時を少し過ぎた頃だった。その日のパーティが行われていたのは、川崎市の閑静な住宅街にあるバーで、そこにまだ夜が浅いうちから続々と、首までタトゥーが入った男たちや、着飾った女たちが...
―― 最終電車が去ると、川崎駅周辺にはもうひとつの世界が立ち上がる。ついさっきまで帰宅者でごった返していた東口は静まり返り、地下道の入口は路上生活者たちのベッドルームと化す。隣接したショッピング・センターの...
―― 夜が明けようとしていた。空の色が次第に黒から青へと変わり、闇に埋もれていた工場群のシルエットが、型抜きでもするかのように浮かび上がる。めくるめく世界をつくり出していたプロジェクション・マッピングの色味...
―― 川崎の闇は濃い。平日の夜、くたびれた帰宅客でごった返すターミナルと、気が大きくなった酔客が空騒ぎを繰り広げる繁華街をすり抜け、南下していくうち、ひと気がなくなり、街灯もまばらな、ふるびた住宅街へと入り...
―― 「ダメだ、外れた……」「おお、当たってる!」。2016年2月2日、午前9時15分。寒空の下に熱を帯びた声が響く。800人以上が凝視するのは、当選番号の書かれた看板。そして、その周りを無数のカメラが取り...