――雲に隠れた岩山のように、正面からでは見えてこない。でも映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる、超大国の真の姿をお届け。
『アプレンティス』
80年代、父の会社で働いていたトランプは、高級クラブで悪徳弁護士ロイ・コーンに出会う。彼は「勝つための3つのルール」をトランプに伝授、やがて成功して財を成していくトランプだが……。
監督:アリ・アッバシ、出演:セバスチャン・スタンほか。25年1月17日公開予定。
2004年、ドナルド・トランプは『アプレンティス』というテレビ番組で人気だった。ビジネスマンたちが「道端でレモネードを売る」などの課題に挑戦し、最後まで勝ち抜いた者がトランプにアプレンティス(弟子)として雇われる、というリアリティ番組だった。
それから20年後の24年、『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』という映画がつくられた。トランプが弟子だった時代の話だ。
1973年、27歳のトランプ(セバスチャン・スタン)は父の下で働いている。父フレッドはニューヨーク・ブルックリンで低所得者向けのアパートを建設、経営して財を成した。トランプはアパートのドアを叩いて家賃を徴収していた。
そのアパートが黒人の入居を拒否して訴えられる。父フレッドは差別的な人間だった。トランプは弁護士ロイ・コーン(ジェレミー・ストロング)に弁護を依頼する。
コーンはローゼンバーグ事件で悪名を馳せた。51年、ローゼンバーグ夫妻はソ連に原爆の機密を渡したとして死刑判決を受けた。冤罪だと世界中が反対する中、夫妻は電気椅子で処刑された。ローゼンバーグ夫妻に死刑を求刑した検事補が、当時まだ24歳のコーンだった。
これでコーンはジョセフ・マッカーシー上院議員に弁護士として雇われて共産主義者の摘発、「赤狩り」に参加する。このときコーンは政府内の同性愛者を摘発して公職から追放した。「同性愛という秘密を握られてソ連のスパイにされる」という理由だった。秘密なのにコーンはどうやって同性愛者を特定したのか。コーン自身も同性愛者で同性愛コミュニティの噂を利用したのだ。