経済力がものを言うわけじゃない “推し活”という行為の功罪

これまで「オタク」と呼称されていたファン活動は、「推し活」というポップでカジュアルな言葉に置き換えられた。前者はアイドルやアニメの熱狂的ファンを指す言葉だったが、後者になるとその分野は果てしなく広がりを見せている。本稿ではオタクの心理やカルチャーの動向を研究してきた識者に依頼した質問の回答・見解を引用・活用しながら、自ら推し活に従事する気鋭の文筆家・つやちゃんと藤谷千明両氏の対談を敢行。そこで見えた推し活の“功罪”とは――。

(絵/ぱいせん)

つやちゃん(以下、つや) 藤谷さんは一般的に「推し活」と言われるようなことはしていますか?

藤谷千明(以下、藤谷) 今年『推し問答! あなたにとって「推し活」ってなんですか?』(東京ニュース通信社)という書籍を出したんですが、そこで現代のさまざまな「推し」の形を紹介していったこともあって、推しについてメタ的に考える癖がつきすぎ、むしろ現在進行形の「推し」となると……。とはいえ、昔からビジュアル系が好きでCD買ったりライブ行くってことはありますが、それだってもはや仕事になってる部分もあって、客観的に見たら推し活なのかどうか自分ではわからなくなっています(苦笑)。

つや 自分は某K-POPグループの推し活を……と言っていいんでしょうか。好きなアーティストやアイドルはたくさんいるけれど、そのグループになるとグッズが欲しくなったりもするので、推し活なのかもしれないですよね。でもあまり自覚はなくて、ファン向けのイベントに足を運んでいる自分を客観的に見て「これって推し活なのかな?」と考える、みたいな。ライトな推し活、ということなのかもしれないです。

藤谷 どこからを「推し活」と呼ぶかは迷いますよね。「グッズを買う」ひとつとってもオタク的な収集癖からくる欲望なのか、「お金を落として推しを支えなきゃ」みたいな動機なのか、とかありますし。つやちゃんの場合は?

つや 単に欲しいからです。自分の場合、このアイドルに貢献したくてグッズを買うまではいかないかなぁ……。それはすでに大きなグループだからかも。売れないと存続に関わるような規模ではないので。

藤谷 ちなみに、自分の中でなんとなくな線引きがあって、アクスタやチェキが売っていて何も考えずに買いだしたら、それは自分にとっては推し活かなって。あと、推しの日記やSNSをくまなく見たり情報を熱心に集め出すと推し活。SNSで「〇〇(ファンダム名)とつながりたい」みたいなハッシュタグを使い始めるのも推し活。

つや 確かに。コアなものからライトなものまで一億総「推し活」時代ですが、なぜこんなにも広がったのか不思議ですよね。慶應義塾大学の非常勤講師であり、アイドルに関するさまざまな事象を研究されている上岡磨奈さんはこうおっしゃっています。
 

上岡磨奈(以下、上岡) インターネット環境の普及によってあらゆる情報へのアクセスが手軽になったことは大きいと思います。イベント情報などを運営側が発信するスピードもファン側がキャッチアップする速度も段違いですし、ファン同士のコミュニティ形成も容易になりました。また、それによって潜在的なファンへのアプローチも広範に行うことが可能になりました。YouTubeでおすすめされた動画をきっかけに「推し」始めたという話は、この2~3年聞、聞き取りなどの場で一番よく耳にしたと言っても過言ではないです。

 

藤谷 コロナ禍以降、という環境変化ですね。確かにYouTubeやSNSをはじめとしてコンテンツに触れる機会は増えた。

つや アルゴリズムが推奨する推し、ですよね。

藤谷 直接人に会えない状況になって、愛情を注ぐ先が推しにつながっていったというのもあるかもしれません。

つや 免罪符とまではいかないですけど、職場などでオタクな趣味を伝えるのに、推し活という言葉を使うことで生きやすくなりましたよね。以前は、オタクということに対してどこか後ろめたさやネガティブなイメージがあった。あと、マニアックだし説明してもわからないだろうし……みたいなこともあったはずです。でも今は、「ほら、推し活ってやつだよ」「そっか!」で一通り説明がつくようになりました。

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