ワイドショーでの役割と想定内(?)の炎上リスク 令和のコメンテーター業

――ワイドショーやニュース番組で、時事問題について発言するコメンテーター。難しい話題を彼らが掘り下げることで、理解が深まる視聴者も多くいる一方、その発言はネットニュースで取り上げられて炎上することも……。SNS時代のコメンテーターたちは、そんな状況にどう対応しているのだろうか?

(絵/藤本康生)

昼間にテレビをつければ、どこかの局で必ず放送されているワイドショー。それも、東京に限らず、名古屋や大阪の番組が全国ネットで流れている。

ワイドショーだけではなく、ニュース番組もそうだが、これらの番組の花形はスマートに進行を務める司会者ではなく、インパクトのある発言をするコメンテーターたちだろう。

時事問題をめぐり自らの意見や考えを述べるコメンテーターという仕事は、かつて大学教授や評論家、ジャーナリストたちに任されていたが、近年はお笑い芸人やアイドルなど芸能人が起用されることも多くなった。

それに伴ってか、パネラー席はどんどん豪華になっていき、『ゴゴスマ─GO GO! Smile!─』(TBS系)にはかつて『報道ステーション』(テレビ朝日系)のメインキャスターとして活躍した古舘伊知郎氏が曜日レギュラーを務め、『ワイドナショー』(フジテレビ系)では武田鉄矢氏が「老害キャラ」として定着している。

これまで幾度となく、その「旧時代的」な番組作りが批判の対象となってきたワイドショーだが、それよりも番組スタッフたちによって丹念に作られたVTR、さまざまなニュースソースを引用したパネル、そしてコメンテーターたちの発言は、感覚的に理解しやすいため、現在はこれらの番組を批判する者よりも、好意的に支持する視聴者のほうが多いだろう。

その一方で、視聴者の中には「コメンテーターは、好き勝手言える気楽な稼業」と思う層がいるのも確かだ。しかし、事件は番組制作に都合よく起こるわけではない。コメンテーターたちは、その日に発生した出来事について即座にリサーチして、スタジオで自らの意見を述べなくてはならないのだ。それだけの労力をかけているのに、彼らが発した意見は毎日のようにネットニュースで切り取られ、PV稼ぎのために「炎上」させられるリスクもある。コメント欄に心ないコメントがつくだけではなく、時にはSNSや番組内で謝罪を余儀なくされてしまう。

それでも、なぜコメンテーターたちは、このようなリスクの高い仕事を続けるのだろうか? そこで本稿では、3名の人気コメンテーターたちに、番組における「自らの役割」について語ってもらった。

ワイドショーに求められる役割【1】「臨場感」
テレビの生放送ならではのハプニングが生み出すネットニュースとの相乗効果

デーブ・スペクター
でーぶ・すぺくたー テレビプロデューサー。アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ出身。アメリカをはじめとする海外の情報や映像などを日本に紹介。ポイントを押さえた的確なコメント、鋭い批評は、多方面から好評を博している。Xのフォロワー数は191万人を突破。現在、『大下容子 ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系)などにレギュラー出演中。


コメンテーターというのは、ニュース番組やワイドショーにとって、非常に「便利」な存在です。というのも、局アナは社員だから私見を述べることができず、コメンテーターがジャーナリストや元新聞記者みたいな論客ばかりだと振り幅がないため、タレントや文化人を含めて、いろんなタイプの人間がいるとバランスを取りやすい。

(絵/藤本康生)

最近の傾向としては、NGOやNPOの代表をやっている若い人……僕は「SDGs軍団」と呼んでいるのですが、そういう人が増えていますね。

また、「ワイドショーには台本がある」とか「コメントを事前に決める」と、よく勘違いされますが、僕の知っている限り、そんなものを見たことはありません。そもそも生放送の現場で、事前にしっかり打ち合わせをする余裕なんてないですよ。

ただ、コメンテーターを本業としていない人や、若すぎて知識がないタレントなどに「◯◯問題についてどう思いますか?」といった「事前アンケート」を取ることはあります。だって、本当に根本的なことを知らない人いっぱいいるから! 与党と野党の違いもわからない人だっているんですよ。だから、一種の確認作業ですね。

それに、生放送だと時間も限られており、1分程度で無難なコメントが求められるため、決まりきった発言しかできないことも多い。ただ、議論が白熱した場合は、司会者や番組側の判断で延長する場合もあります。民放だとCMがあるから、その間にどのコーナーを削るかなどの判断を下して、対応しています。生放送はハプニングへの期待感があって面白い。だからこそ、ネットニュースにも取り上げられやすいのだと思います。

ネットニュースは要約されて、発言内容を誤解されるリスクはありますが、取り上げられること自体はプラス面が多いと思っています。自分の発言が記事になって、Yahoo!ニュースのトピックスに上がったりすると、「いい仕事をしたな」と感じます。それに僕の場合は、ライターさんが日本語を直してくれるからありがたい(笑)。つまり、ネットとテレビは相乗効果を生んでいるんです。Yahoo!などのポータルサイトはネットニュースから広告収入を得ているし、記事が注目されれば番組にも、出演者にもスポットが当たる。逆にネットからワイドショーの記事がなくなれば、それこそ、テレビへの注目度が減っているということでしょう。

とはいえ、コメンテーターとして番組によって発言内容や意識を変えたりすることはありません。強いて言うなら『サンデー・ジャポン』(TBS系)はエンタメ要素があるため、ギャグを入れるよう意識していましたが、最近はギャグを求められない空気になりました(笑)。でも、『バラいろダンディ』(TOKYO MX)など地方局の番組は、そもそも現場のノリが30年前のテレビと同じだから、発言を気にする必要もない。特に関西はパワーがすごくてほぼ無法地帯です。どんなに批判されても、やり切っていますよね。

ただ大前提として、スタッフを含め、番組を尊重しないといけない。何も考えずに手ぶらで来るコメンテーターも多いですが、僕はもともと裏方出身でもあるし、自分でコーナーもやるので、スタッフが日々、どれほど大変な思いをしているのか知っています。徹夜で編集作業したり、必死で考えた企画がボツになったり、取材が間に合わなくてお蔵入りになったり……。やっぱり、テレビという媒体の性質を承知したうえで、コメンテーターをやらないといけないと思うんですよ。

これまで、うまく発言できないコメンテーターたちを、たくさん見てきましたが、そういう人たちは、明らかにその場限りの仕事をやっているんです。つまり、普段からニュースをしっかり見ていないんですよ。世の中の動きを追っておらず、慌てて資料を見たり、スマートフォンでネットニュースをチラッと確認した程度でしかしゃべっていない。

だからこそ、コメンテーターをやるんだったら、やっぱりワイドショーやニュース番組を毎日見ないといけません。例えば『報道ステーション』はせめて最初の30分でいいんです。あとは、BSの討論番組もハイライトで見る。それと、移動中は本と週刊誌を読む……。そうしないと、十分に責任のある発言はできません。そういう努力をしないとダメだと思うんですよね。そのため、同じコメンテーターといっても、見ていてかなり差があると思います。そして、視聴者も、そういう人を見極める必要があるでしょう。

僕としては、おこがましいけれど、なるべく役に立つ意見や、建設的な議論に運ぶための発言をしたいと心がけています。貴重な電波を使っているわけですから、薄っぺらなコメントはしたくない。まぁ、言いようがないときもありますけどね。桜が咲いたときに「キレイじゃないよ!」とか、天気予報に「嘘つけ!」とは言えないじゃないですか(笑)。

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