末期がん患者・叶井俊太郎と妻・倉田真由美と叶井似・娘との愛すべき生活

――「死ぬのは怖くない」「この世に未練はまったくない」――。 今年9月『エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の“余命半年”論』(小社刊)を上梓した映画宣伝プロデューサーの叶井俊太郎。 各メディアの取材に対して繰り返した言葉は、仕事人としての叶井を知る者にとっては「らしさ」だったのかもしれない。 では、生活者としての叶井は、いかにしてそのような境地に至ったのか。 当人・叶井俊太郎を横に置いて、妻であるマンガ家・倉田真由美に話を聞いた。

(写真/新越谷ノリヲ)

倉田真由美(以下、倉田) 中村うさぎさんから「絶対くらたまの好みだから会わせたい人がいる」って言われて、そのとき私、「あ、叶井俊太郎じゃないかな」って思ったんですよ。会ったことなかったけど、「映画業界にくらたまの好きそうな人がいる」っていう、これだけでわかったんです。

叶井俊太郎(以下、叶井) なんで知ってたの?

倉田 なんとなく。でも当たってましたもんね。自分の勘が当たったっていう驚きは覚えてます。会ってみたいなと思っていたし、うさぎさん以外の共通の知り合いも何人かいて、いろいろ話を聞いていたので。

叶井 そうなんだ。

倉田 想像を裏切らない面白さでしたね。当時はもっとギラギラしてましたから。どういう男が好きかっていろいろあると思うけど、うちは父がネガティブな人だったんですよね。私自身にもそういう要素がないわけじゃないし、男のタイプがそればっかりってわけじゃないけど、父は割とネガティブな傾向が激しくて。

叶井 機嫌悪いのよね。不機嫌な人はきついな、オレも。

倉田 この人は、何もそういうのがないんです。不機嫌な日がない。明るい男っていいなと思いましたね。この人ほど、良くも悪くも、ものを考えない人って周りにいなかったですから。叶井俊太郎って人は問題解決できないこともあるんだけど、そのことに悩まないで済むんです。私がいなかったら、この人はもう死んでると思うんだけど、私のような、ちょっと横で助ける人間がいれば、何も考えない人がいちばん幸せだと思う。破産したときも債権者集会の前の日のことを覚えているんですけど、「明日めんどくせえな、やだなぁ」とか言いながら、すぐ寝ましたから。むしろ私のほうが寝れなかった。何かが頭を占領して眠れなくなる経験を、まったくしてないと思う。

叶井 してないね。

倉田 本当にないんですよ、悩んだことが。

叶井 「がん」って言われた当日は、ちょっと落ち込んでたんじゃない?

倉田 いや、落ち込んでない。

叶井 がんになっちゃった、みたいな感じだった?

倉田 なかなかこういう人、いないですよね。私、割と相手に引っ張られるほうなんですよ。だから、こういう人で本当に良かったと思う。やっぱり相性ですよね。この悩まない人に対して、腹が立つ人もいると思うんです。何あんた、何も考えないのね、なんて切れちゃう場合もあるだろうから。相手によっては。

叶井 (2022年4月に受けた)余命半年の宣告は、何とも思わなかったね。半年か、10月で死ねると。

倉田 私、何回も死ぬマネされてますから。

叶井 この人は、そのたびに号泣してるけどね。

倉田 「うう、苦しい……」とか言って、パタッと倒れて。つい一昨日くらいも久々にやられて、また動揺して。何回でも騙されますよ。

叶井 ちょっと面白いでしょ。

倉田 でも、面白がってるのが救いになるんですよね。「ああ、娘を残して死ぬのはつらいよ」みたいなことを言われると、こっちもつらくなっちゃう。多分逆に、私ががんでこの人ががんじゃなくても、同じようなスタンスだったと思うんですよね。私が泣いて、この人が「泣いてもしょうがないでしょう」って。そういう受け取り方が自分勝手だとか冷たいとか思う人もいるかもしれないけど、私はまったくそうは思わない。私という人間には、すごく合ってますね。

叶井 だからさ、なるようにしかならんのよ、何もかも。くらたまががんになって死ぬマネをしても、動揺しないだろうね。「くらたまが死んだ」って子どもに伝えなきゃ、と思うだけかも。

倉田 そんな感じ、絶対そんな感じだと思うわ。

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