なぜ令和の時代に怪獣映画が求められているのか

――庵野秀明が監督を務めた映画『シン・仮面ライダー』を皮切りに、Netflixで世界配信中のアニメ『GAMERA -Rebirth-』、11月3日より公開される山崎貴監督の映画『ゴジラ-1.0』と、今年は昭和を代表する怪獣・特撮ヒーロー作品の“新作”が続々と発表されている。なぜ令和の時代に昭和特撮が求められているのかを、特撮関連の著書も多い映画批評家・映画監督の樋口尚文氏に読み解いてもらった。

アメリカ版の映画『GODZILLA ゴジラ』(14)のヒットを受けて、総監督・脚本に庵野秀明、監督・特技監督に樋口真嗣を招いて、本家の東宝が制作した『シン・ゴジラ』(16)は興行収入82億円越えの大ヒットを記録。その後、『シン・ウルトラマン』(22)、『シン・仮面ライダー』(23)と、庵野秀明が参加する“シン”を冠した作品はシリーズ化する。

『ゴジラ-1.0』は2023年11月3日公開予定。現在、劇場には巨大バナーが飾られている。

それを機に昭和特撮のリメイクが目立つようになる。最近では白石和彌監督が手がけたドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』(22)がAmazonプライム・ビデオで独占配信、さらに今年はアニメ『GAMERA -Rebirth-』のNetflixによる世界配信、山崎貴監督の映画『ゴジラ-1.0』の公開と、令和の時代に、昭和を代表する怪獣・特撮ヒーロー作品の新作が活況を呈している。

この状況を、第一次怪獣ブーム(※『ウルトラQ』『ウルトラマン』が放映された1966年頃が始まり)と第二次怪獣ブーム(※『仮面ライダー』や『スペクトルマン』などの放送が始まった1971年頃が始まり)直撃世代の映画批評家・樋口尚文氏は、こう分析する。

「ある時期からハリウッドのスーパーヒーロー映画は、『ダークナイト トリロジー』3部作を手がけたクリストファー・ノーランのように、正当なアプローチではなくて、メタ視線というか、ひねった表現が蔓延しました。我々の世代が見ていた素朴で陽性だったヒーロー像を、ダークで屈折したアプローチで捉え直して、大人が見ても通用するヒーロー映画がゼロ年代以降に顕著になったんです。その背景には、映像技術がSFXからVFXに移行したことによって、映画界全体がトランスフォームされたことも大きいでしょう。僕とほぼ同世代の庵野さんと樋口さんは、そんな流れに『シン・ゴジラ』と『シン・ウルトラマン』でアンチテーゼを唱えることによって、『ゴジラ』と『ウルトラマン』を真っ向勝負で描きたかったのではないでしょうか」

なぜ、『新世紀エヴァンゲリオン』で旧来のロボットアニメを解体した庵野監督が、怪獣映画の原点に立ち返ったのだろうか。

「『シン・ゴジラ』は難しい映画という声が多いですけど、引いて見ると、ものすごくシンプルな話なんですよね。政界の話や自衛隊内のコミュニケーションなどが迫真の表現になっているだけであって、実は大怪獣をみんなで知恵を出し合って倒すだけの話なんです。かつては僕たちの世代が見ていた作品を解体して、裏面を見せていく推進者だったはずの庵野さんが、『シン・ゴジラ』では自分語りもしないし、大怪獣を倒すだけのストーリーラインに絞っている。あのシンプルさは、ノーラン的な表現の揺り返しではないでしょうか。また『GAMERA -Rebirth-』はアニメ作品ですが、デザインは平成ガメラ、敵の怪獣は昭和ガメラを踏襲しています。4人の少年を主人公にしたストーリーも後期の昭和ガメラを上等に再現しているなと感じました」

子ども向けだった昭和の怪獣映画を忠実にリメイクしながらも、“シン”シリーズが一般層に受け入れられたのは技術革新が大きいという。

「昔の怪獣映画は、子どもから見ても技術的にイマイチだと理解していて、それを味と思ったり、脳内で上等な物に補完したりしていたんです。でも『シン・ゴジラ』は最新のVFXを使っているので、子ども騙しではないんですよね。『シン・ウルトラマン』なんて冗談みたいに単純なストーリーで、まさしく僕たちが愛した『ウルトラマン』の人気エピソードのコンピレーションみたいな内容ですけど、オリジナルをテクニカルに補完したことで、迫真性が増しているんです。もちろん映像表現だけではなく、過去のウルトラワールドを読み直して、新解釈することで、令和の時代にアップデートされていますけど、個人的には『正義の味方です。人間が好きだから守ります。以上!』みたいな単純さがすごくよかった(笑)。『シン・仮面ライダー』も冒頭の10分ぐらいは、『仮面ライダー』の第1話『怪奇蜘蛛男』を現代のカッティングと技術で再現していて、脳内補完していた映像がここにある! と感じました。後半に行くに従い、ノーラン的な……というよりさらに内省的な庵野節になってしまいましたが」

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