――ピクサー、マーベル、ルーカスフィルムなどを買収し、優良コンテンツを多数保有する巨大メディア帝国となったウォルト・ディズニー・カンパニー。同社は著作権の侵害などへの厳しい対処でも有名で、米国の関連法令の改正にも関わったとされてきた。その関連作品の著作権切れが相次ぐ今、ディズニーはどう動くのか?
『プー あくまのくまさん』監督:リース・フレイク=ウォーターフィールド、出演:マリア・テイラーほか A・A・ミルンの児童小説「クマのプーさん」が題材のホラー作品。クリストファー・ロビンに森に置き去りにされたプーとピグレットが、残忍な“人間狩り”を行うさまが描かれる。©2023 ITN DISTRIBUTION, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
今年6月23日に日本でも公開された映画『プー あくまのくまさん』。タイトルからも察せられるように、本作の題材となっているのは『クマのプーさん』。ウォルト・ディズニー・カンパニー(以下、ディズニー)のキャラクターとしておなじみの、あのかわいいクマをパロディにしたホラー映画なのだ。
「著作権侵害に厳しいディズニー作品をパロディにして大丈夫なのか?」と思う人もいるだろうが、特にトラブルもなく公開できているのにはワケがある。この映画の原作はディズニーアニメの『くまのプーさん』ではなく、そのアニメ版の原作でもあるA・A・ミルンの児童小説『クマのプーさん』。1926年発表の同小説の著作権が2022年1月に切れ、パブリックドメイン化した後で製作された作品なのだ。
また24年1月には、ミッキーマウスの初登場作とされる1928年制作の短編アニメ作品『蒸気船ウィリー』も著作権切れに。そのため「ミッキーマウスの二次創作やキャラクターの商品化もできるようになるのでは?」と話題を呼んでいる。
ただし米国では、ミッキーマウスの著作権は法改正で延命を続けてきた過去がある。またキャラクターの二次創作や商品化には、著作権以外の法令も深く関係しており、単純な“著作権フリー化”にならないことが予測される。
そこで本稿では、米国・ジョージア州の弁護士で、特許、商標、著作権など知的財産に関わる分野で活躍する野口剛史氏に話を聞き、ディズニー関連の著作権の現状と未来を探っていく。まずは著作権を保護する法令の歴史について、ザックリと伺った。
「米国で最初の著作権法が成立したのは1790年。同法の著作権保護期間は14年+更新延長14年でしたが、その後の法改正により保護期間は延長を重ねてきました。特に20世紀後半には、ディズニーなどの巨大なコンテンツを持つ企業やアーティストが、保護期間延長を求めるロビー活動を活発化。その成果といえるのが1998年に成立した著作権延長法でした」
著作権保護期間を「著作者の死後70年まで」「匿名の著作物および職務著作物(work made for hire)については、創作から120年または公表から95年のいずれか早い期間まで、著作権行使の期間を延長可能」に改正したこの法律は、先述のミッキーマウス初登場の作品『蒸気船ウィリー』の著作権切れ間際に成立。そのため皮肉を込めて「ミッキーマウス延命法」とも呼ばれている。
では24年1月に再び迫っている『蒸気船ウィリー』の著作権切れに関しても、ディズニーはロビー活動を行っているのか。
「今回はそうしたニュースもなく、著作権延長の法案の議論が進んでいる形跡もありません」