「Z戦士」呼ばわりは大間違い! 勘違いだらけのZ世代論

ーーZ世代という言葉が一般的に語られ始めるようになってはや数年、言葉自体はマーケティングの枠を飛び越えて広く一般化しつつある。だが、若者をすべて一括りにしてしまい、これまで連綿と語られてきた「最近の若者は……」という大人の一方的なロジックの中にすっかり組み込んではいないだろうか? 巷で語られている勘違いだらけのZ世代論とは。

(絵/ぱいせん)

Z世代人類録1
ひたすら修行ができちゃう天才
Z世代が明確な目標を持つと強い。自分が興味あるものに対して、ネットで探しだした練習法やメソッドを貪欲なまで実践するし、自分に何が足りないのかも俯瞰で見つつ、それに対する答えもネットから見つけ出してくる。将棋の藤井六冠やヤクルトの村神様のような歴史を塗り替える逸材も飛び出してきたのも納得だ。

Z世代人類録2
目標も自信もゼロ 師匠を探す日々
どうしても目標や好きなものが見つからず、右往左往する日々を過ごす。一昔前であれば、なんとなく大学に行き、なんとなく就職といったコースでも十分幸せになれていたはずなのに、そのコースはすでに失われている。いざ就職となっても、コロナ禍も相まってガクチカ(学生時代に力を入れたこと)は何もなく、心の拠りどころやメンターを求め続けている。

Z世代人類録3
“デトックス”で孤高の存在へ
ネットが子どもの頃からあるので、SNS疲れも著しい。勇気を出して、SNSで引退宣言を行いデジタルデトックスを断行したものの、尋常ではない孤独と喪失感を感じている。しかし、SNSでの頻繁なコミュニケーションからの解放感があるのも事実で、どうしたらいいか思案にふける毎日を過ごす。

Z世代人類録4
ヤンキーが変化 動画配信の王子
溢れかえるような自己肯定感の権化であり、ネット戦闘力も高い新時代のヤンキー像。インフルエンサーを目指しており、インスタグラムやTikTokにオラオラ感溢れる動画を投稿しまくっている。そのむやみなプライドの高さに惹かれる取り巻きも多く、界隈の王子として祭り上げられている。

Z世代人類録5
推し活しまくり 溶ける時間と金
好きなものが見つからず、スマホをレーダー代わりにハマれるものを探していたところ、見事にオラオラ系の動画配信者に心を奪われ、ひたすらに投げ銭を送る日々。もともと、オタク気質を持っていからか、ハマったら全力。動画配信者のまったくしゃべらないツイキャスに無限ログインしている状態で周囲からも心配されている。

2023年に入り、回転寿司などの飲食店での若者による迷惑行為が続々と明るみに出て、メディアが大騒ぎしたことは記憶に新しいだろう。そんな迷惑行為を行った若者たち『Z世代』を揶揄してか『Z戦士』などと呼ぶネットスラングも誕生している。

しかし、そもそもZ世代といった言葉を上の世代が口にするとき、その言葉は世代を丸ごとバカにするような攻撃性を孕んでいないだろうか。日本においては、これまでも『ゆとり世代』や『就職氷河期世代』といったステレオタイプで世代を区切る若者論が横行してきた。だが、今後も雑な認識で世代を切り分けていると、少なからず痛い目を見ることになるだろう。彼らは文字通り『Z戦士』の呼称にふさわしい、上の世代とは別次元での戦いを強いられているのだから。

まずは改めて、Z世代の成り立ちを確認したい。もともとはアメリカ生まれのマーケティング用語で「96年頃から12年頃までに生まれた世代」を指す言葉とされている。23年現在では10代から27歳あたりが対象で、一部はすでに社会にも進出している世代だ。

民間のシンクタンクでZ世代の調査とマーケティングを担当するA氏は、企業の担当者に対してこの言葉の説明に悩んできたそうだ。

「『Z世代はこうだ』と言ってほしいみたいな人が多いんですが、世代で一括りにした『Z世代論』には間違いも多い。インタビューしたり統計をとってみてもかなり、細かな差異が出てしまうんです。

炎上しそうな行為をTikTokなどに動画投稿してしまうのは、彼らがSNSで承認されるのは成功者の義務とも思っているから、とはいえます。でもそういうのって上の世代でも『バイクを盗んだ』とか『中高時代の飲酒』など“昔ワルだった武勇伝”を吹聴する人は一定数いましたよね。ミレニアル世代でもmixiやツイッターでおバカ行為を披露する人もいましたし、披露するツールが違うだけ。Z世代だから、というわけではありません」

まず、Z世代の2つ上にあたるX世代が60年代半ばから80年頃まで、ミレニアルズとも呼ばれるY世代は81年から96年頃の出生とされている。そもそも、このアメリカ由来の世代区切りは大統領選に対する意識調査や社会情勢、文化の流行などに鑑みて作られたもので、日本でそのまま当てはめようとすると、多くの面でその差異があった。

「『Z世代』に関しても、日本とアメリカのそれでは少し、意味合いが異なっていると認識しないといけません。例えば欧米で社会問題化し始めているパートナー文化やLGBTQへの抑圧に対する激しい抵抗、もしくは環境問題に対する意識的な行動などは、東アジアではまだほとんど見られません。海外のマーケターは、日本のZ世代はおとなしいとも言っています」(A氏)

そんな彼らの実像に迫るときに、上の世代がまずは取り払わなければならない“思い込み”があるという。

「各国で様相にずれがあるX世代・Y世代論と違って、デジタルネイティブ・SNSネイティブであることは全世界のZ世代共通です。そしてテクノロジーの進化やそれによって情報に対する対応力が驚くほどの速さで一般化しています。さまざまな情報源に日常的に触れている彼らのほうがこれからの“普通”であり、マスメディアから一方通行で降りてくる情報が至上だったこれまでこそが、歪んでいたんだという捉え方が必要です」(同)

例えば、上の世代とZ世代では『ネットが得意』の意味が大きく違っている。

「上の世代で『ネットが得意』と聞くと、掲示板サイトやニコニコ動画などに入り浸ったり、プログラミングなどを趣味とするギーク的なイメージを持つ人が大半でしょう。Z世代での『ネットが得意』はティックトッカーやインスタグラマーといったネット上での情報発信や仲間集め、コミュニケーションが得意なインフルエンサーを指す言葉になっています。炎上行為を投稿してしまった子たちはむしろ『ネットが苦手』だったと捉えるほうが正しい」(同)

“デジタルネイティブ”と言っても、Z世代すべてが情報発信を得意とするわけではない。それぞれのSNS内にある検索を駆使して、自分好みの情報にアクセスもするのだが、日々送られ続けるプッシュ通知や情報が溢れかえるタイムラインは受け流す。大量の情報を一つひとつ咀嚼する時間はないので、ニュアンスで情報を理解している節も。

「以前、Z世代がどれだけ能動的にネット活用しているのか調査しましたが、実際には超受動的にネットからの情報を受け流しているといった姿が見えてきて驚きました。

例えば人気アニメの話題がニュースサイトから流れてきても、1回はスルーして視聴判断を留保するなんてことはよくあるようです。そこから普段アニメの話題を滅多にしない友人がSNSで言及したり、人気インフルエンサーが発信したり、情報の接触機会が増えて、ようやく重い腰を上げてくれる。代理店や広告主からしてみたら、いかにして彼らを取り込めばいいのか決まった対応策がなく、悩ましい層でもありますね」(同)
 自由に情報にアクセスできるが、同時に接触には慎重でもある。

「だから、勉強熱心というか、学ぶことへの執着はすごく持っていますね。学んでおかないと、余計な失敗をすることが身に染みているから。生存戦略として情報を検索して下調べすることが基本動作として身についています。その過程で情報を取捨選択する能力は、上の世代と比べるまでもないほど向上してきたのだと思います」(同)

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