交配の進展で競走馬的「血統表」も普及 品種改良に加え合成・培養も!多様化する大麻栽培の最新技術

――世界的に解禁の流れが進む大麻。主に需要の増大と用途の多様化よるものだが、一般の農作物同様、品種改良が進み、「消費者に支持される嗜好性の高い品種」「大量生産に適した品種」なども誕生している。本稿では、そうした日本では知られざる大麻の品種改良の現状や、周辺の科学技術の最前線を業界関係者に聞いた。

上場まで果たした大麻関連のポータルサイト「Leafty」。

医療用大麻の解禁に加え、栽培の緩和についても厚生労働省の大麻規制検討小委員会で議論がなされている日本。だが現在は免許を持つ栽培者も30人程度しかおらず、グリーンラッシュに沸く海外からは、この分野でも後れを取っている。

そんな日本では犯罪を中心とした大麻関連のニュースは散見されるが、「大麻の品種」「品種改良」について取り上げた記事はほとんど目にしない。しかし、大麻マーケットが全世界的に成長する過程で、その品種改良は進んでいるはずだ。

「〝大麻界のコシヒカリ〟と呼べるようなブランド品種はあるのか」「一般の農作物のように新種を生む技術革新も起きているのではないか」。そんな疑問を発端に、本稿では大麻の品種改良と科学技術の最前線を探っていく。

まずは大麻の品種について、基本的な知識を確認しておこう。CBD製品のOEM事業や原料の卸売販売に取り組む株式会社OFFの松浦啓太氏は次のように話す。

「まず大麻草は大きく分けると『サティバ』と『インディカ』の2つに分類できます。効用面での違いは、サティバは向精神作用のあるTHCの含有量が高いものが多く、いわゆるハイな気分になれるもの。一方のインディカにもTHCは含まれていますが、よりリラックス作用が強いという特徴があります」

そして用語についてもザックリ確認しておくと、THCやCBDとは、大麻に100種類以上が含まれる化学物質・カンナビノイドの一種。旧来的な大麻のイメージは、THCの向精神作用によるものが多いだろう。一方のCBDはTHCのような向精神作用はなく、日本でも同成分を配合した各種製品が正規に流通している。なお詳細な説明は省くが、日本では大麻の「成分」ではなく「部位」に基づく規制がなされている。そして実質的には「THCを含有する製品=違法」という状況があると理解していただきたい(大麻【取り締まり】の歴史」企画参照)。

話を品種に戻すと、大麻は品種とは別に「THCの含有量」でも呼び名が変わる。

「アメリカなどでは、THCの含有量が一定基準以下の産業用大麻がHEMP(ヘンプ)と呼ばれ、基準以上のTHCを含む大麻=カンナビスと区別されます。このパーセンテージは国により違い、アメリカは0・3%以下に設定していますが、日本ではTHCフリー(非検出)なものを取り扱う前提で、THCの含有量の上限値は明文化されていません」(松浦氏)

ちなみに日本で栽培免許を取得している大麻栽培者の大半は、1982年に栃木県が開発した品種「とちぎしろ」を使用。同品種はTHC含有量が極めて少ないのが特徴で、皇室の宮中祭祀や神社のしめ縄に使う茎の繊維の採取などが栽培の目的だ。「とちぎしろ」は、いわば日本の法律状況に合わせて品種改良された産業用大麻というわけだ。

株式会社OFFのCEOでアメリカの大麻事情にも詳しい井上裕太氏は、「大麻の用途については、『産業用のもの』と『医薬品の代わりになる医療用のものや愛好家に好まれる嗜好性の強いもの』は分けて考えたほうがいい」と話す。

「まず産業用の大麻は、市場のニーズや各国の法律に合わせて品種改良がなされていることが多いです。たとえばTHC含有量0.3%以下のヘンプは全米で栽培が認められていますが、0・3%以下の品種でも、生育状況によりそのパーセンテージを超えるものが出てきてしまう。無論それらは破棄されます。そのためTHCの含有量が極めて少ない品種の栽培は生産性向上にもつながるので、今の業界で新品種の開発が求められているわけです」(井上氏)

たとえばエストニアのEOPCという企業はオランダの育種会社と共同で、22年3月にTHC値0.03%未満の新品種『エスティカ』を開発。この品種も今の法律状況に適合したものといえるだろう。そしてCBDについては「THCのような含有量の規制はないため、含有量を極端に高めた品種も開発されている」(井上氏)とのことだ。

もう一方の愛好家から支持を集める品種については、「香りやTHCやCBDの含有量、含有比率から決まるエフェクト(効果)が大事になる」と井上氏。

「やはりそれが個人の嗜好性の決め手になるからです。そうした嗜好性の高い品種には、O.G.クッシュやグランダディ・パープル、ストロベリー・コフといった定番がある一方で、大麻フェスティバル『カナビス・カップ』で入賞した品種が人気を呼ぶなど、時代ごとの流行もあります」(井上氏)

そうした品種の交配と品種改良も年々進行している。サンフランシスコで10年から大麻ビジネス起業家として活躍し、日本でもCBDブランド「ユフォラ」のCEOを務めるKiki氏は次のように話す。

「10年ほど前はサティバとインディカの違いがハッキリ分かれていて、それぞれに人気の品種がありましたし、『昼はサティバで夜はインディカ』という使い分けをする人も多くいました。それが近年は、ピュアなサティバやインディカは少数派になり、両者を交配させた『ハイブリッド』と呼ばれる品種が大半になりました。そして業界全体では『サティバかインディカか』という分類よりも、フレーバー(香り)を左右する成分であり、リラックス効果などさまざまな効能も持つテルペンに注目が集まっています」

そして各品種に含まれるテルペンや、THC・CBDの含有量などは細かく解析されるようになり、その情報をネットで確認することも可能になった。

「NASDAQにも上場した大麻関連ポータルサイト『Leafly』では、そうした各品種の成分やエフェクトの違い、使用に適したシチュエーションや目的などが細かくまとめられています。わかりやすく言えば『大麻版の食べログ』みたいなサイトですね。また競走馬の血統表のように、その品種の親と子の血筋まで見ることができます」(井上氏)

なおTHC成分が実質上規制されている日本では、大麻草そのものをジョイントに巻いたりパイプで吸ったりして摂取はできないため、品種独特のフレーバーをそのまま体感することは不可能だ。しかし近年は、「各々の品種のテルペンをプロファイリングし、その成分通りにフレーバーを再現したCBDのベイプリキッドが人気を呼んでいる」と井上氏は続ける。実際に日本の大手通販サイトでも、O.G.クッシュなどの有名品種を再現したCBD製品が数多く販売されていた。そしてKiki氏いわく、「カリフォルニアでもこの2~3年でテルペンの事業に取り組む企業が増えている」とのことで、大麻業界はフレーバーの科学的な解析と再現までもビジネスに取り込んでいるわけだ。

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