地球を、貧困層を蝕むアメリカの暖房「グリーン化」をエンパワーする スタートアップ

――あまりにも速すぎるデジタルテクノロジーの進化に、社会や法律、倫理が追いつかない現代。世界でさまざまなテクノロジーが生み出され、デジタルトランスフォーメーションが進行している。果たしてそこは、ハイテクの楽園か、それともディストピアなのか――。

今月のテクノロジー
ブロックパワー

ブロックパワーの公式HPより。

2013年、米国ニューヨークの貧困地区出身のドネル・ベアードらが、老朽化したアパートや住居を「省エネ化」するスタートアップとして創業。著名VCのアンドリーセン・ホロウィッツなどからも資金を集めており、ダイキンや富士通など日本製のヒートポンプ(エアコン)を、アメリカ中の建物に次々とインストールしている。ドネルはかつて、オバマ大統領の選挙を手伝い、政府の仕事もしていた人物。

私の住んでいるニューヨークのブルックリンには、歴史的に黒人がたくさん住んでいる。かの伝説的なラッパーであるザ・ノトーリアスB.I.G.なども、この街のストリートから生まれたアーティストだ。

そんなブルックリンから生まれたグリーンなスタートアップが今、大きな注目を集めている。その名も、ブロックパワー(BlocPower)だ。彼らが狙っているのは、老朽化したアパートや住宅などを、省エネルギーでグリーンな物件に生まれ変わらせること。例えるなら、ビルの「テスラ化」だ。

2013年に誕生したこのスタートアップは、これまで全米で1200件以上の物件を訪ねては、ガスや石油を一切使わず、電気だけで動くヒートポンプ(エアコン)に置き換えてきた。以前は燃料代も安かったし、二酸化炭素を好きなだけ撒き散らすことができた。それがどれだけひどいものか、日本人ならドン引きするレベルだった。

「12月のブルックリンに来て、空を見上げてください。多くのアパートが、真冬なのに窓が開いたままになっているのが、見えるはずです」

そう語るのは、ブロックパワー共同創業者COOのキース・キンチ。一緒に同社を立ち上げたドネル・ベアードと共に、ブルックリンの貧困コミュニティで生まれ育った。

貧しい人たちが住むアパートでは、まともに暖房も動かない。そこでキッチンにある料理用のオーブンを使って、むりやり体を暖めていたという。ところがオーブンからは、吸い続けたら死んでしまう一酸化炭素も発生する。そのため真冬なのに、あえてアパートの窓を全開にして、キッチンで暖をとるのだ。

暮らしに困っていない人たちでも、同じくらい非効率なソリューションで生きている。ガスボイラーを使ってアパート全体を暖めるシステムのため、フロアごとに、部屋ごとに、細かく温度調整ができない。そのため、時には室内が暖かくなりすぎてしまう。だからやっぱり、アパートの窓を全開にするのだ。

こんな馬鹿げたことがあるか。もし省エネルギーで、クリーンなヒートポンプ(エアコン)に入れ替えられたら、もっとムダがなく、毎月の光熱費も大きくカットできる――そう思ったキースとドネルは、とりわけ低所得者たちが暮らしている地域にある、アパートやビルを「グリーン化」したいと考えるようになった。

ブロック(地区)からブロック(地区)を塗りつぶすように、そこで暮らす貧者を力づける(パワー)──。そこから、この社名はつけられたのだ。

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