【独自取材】賃金未払い1800万円! 愛媛の縫製会社ベトナム人技能実習生「1日11時間労働・月休2日」

――未払い賃金の総額は11人で約1800万円。愛媛県西予(せいよ)市の縫製会社で働くベトナム人技能実習生(以下、実習生)の違法残業が、支援団体などの介入により明るみに出た。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、厚生労働省が公募した医療用ガウンの生産を同縫製会社が請け負っていたことから、主要メディアもこぞって取り上げた。

雑誌サイゾーにて外国人まかせを連載し、同企画をまとめた単行本『外国人まかせ 失われた30年と技能実習生』を11月に出版予定のジャーナリスト・澤田晃宏氏が、11人の実習生のうちの一人にインタビューを試みた。匿名を条件に女性(32歳)が語った違法残業現場の実態とは……。

取材に応じた女性が働いていた縫製工場。(写真/女性提供、以下同)

仕事は朝の6時から19時半まで。休憩はお昼に30分。それ以外の時間はずっとミシン作業が続く。パジャマなど、洋服の縫製作業が多かったと女性は話す。2020年6月頃から数カ月、社長から「今は仕事が少ないからこれをやってほしい」と、医療用ガウンの縫製作業もしたと話した。

女性はベトナムのハイズオン省出身。高校卒業後、縫製工場で働いた。給料は500万ドン(約3万円)~700万ドン(約4万2千円)程度だった。すでに結婚し、今年7歳になる子どもがいる。

同工場から実習生として日本で働いていた仲間が帰国した。同僚の話を聞き、自分もと思った。夫も木工の仕事に就くが、決して生活は楽ではない。家族のために家を建てたい。親戚らから借り集めた5700ドル(当時のレートで約62万7000円)を送り出し機関に支払い、2019年末に縫製の実習生として来日。筆者が驚いたのは、来日した日や勤務を開始した日を明確に覚えていることだ。

女性は言った。

「もちろん、人生の節目の日ですから。借金をしてでも、日本に行って、いい暮らしを手に入れたいと思った」

残業代は時給350円、2年目からは時給400円

働き始め、すぐに異変に気づいた。30分の昼休みを除き、1日の労働時間は13時間。休みは月に2日だけ。どう考えても、働いた時間と賃金が合わないのだ。

2日しかない休みの1日は「買い出しの日」。9時から14時にかけ、社長が実習生たちを車に乗せ、5つほどの商店を回る。複合型ディスカウントストア「ラ・ムー」から始まり、衣服の「シマムラ」、100円ショップと続くのが、いつものコースだったという。1カ月間で必要なものは、この日にすべて買った。

一緒に働くベトナム人実習生の先輩に相談した。すると、こんな「決まり」を教えられたと女性は話す。

「きちんと残業代がつくのは1時間分だけ。それ以上の残業代は、1年目は時給350円、2年目以降は時給400円と言われました。文句を言いたかったですが、反抗すると帰国させられるかもと言い出せませんでした」

実習生らの残業時間の記録。

一部例外はあるが、企業は実習生を直接受け入れることができない。厚生労働省と出入国在留管理庁が所管する外国人技能実習機構が認可した「監理団体」を通じてのみ、受入が可能だ。その監理団体には、実習先の監督と実習生の保護責任がある。なぜ、女性は監理団体に相談しなかったのか?

「社長が監理団体の理事なので、相談しても仕方がないと思いました」

賃金未払いは一人当たり約160万円

給与は銀行振り込みと、一部、手渡しだったと女性は話す。違法残業分が手渡しだったことは容易に想像ができる。女性から提供を受けた同社の給与明細には不自然な部分がある。明細上の残業代とは別に、欄外に「残業残り」という項目があるのだ。

女性の給与明細

違法残業の事実を確かめるため、女性の勤務先に電話を入れたが、本稿執筆時までに社長と連絡をとることはできなかった。社長は東京新聞の取材に対し、残業代未払いの理由をこう話している。

「海外産との競争が激化し、国内の既製服の工賃が安く、経営が苦しかった。医療用ガウンを3万から4万着生産したが、仲介業者が入り、工賃は1着150円ほどだった」

月100時間を超える違法残業。賃金未払いは少なくとも一人当たり約160万円あるが、11人の総額は約1800万円になる。全額、すぐに支払うことは難しいだろう。

実習生に転職は認められないが、同業種への「転籍」は可能だ。女性らは支援団体の力を借り、岐阜県内の縫製工場に転籍する手続きを進めている。

女性は話す。

「本当は3年で帰国するつもりでした。来日するために親戚から借りた5700ドルは8カ月で返済しましたが、現在の貯金は4億ドン(約200万円)。これでは家を建てることはできません。あと2年、実習生として働いて、家族のためにお金を稼ぎます」

最後に、「日本に対して言いたいことはないか?」と女性に尋ねると、劣悪な環境で働いてきた自身の悲哀を伝えるわけでも、技能実習制度の改善を求めるわけでもなく、意外な答えが返ってきた。

「エンダカニシテホシイ」

女性らを支援しているNPO法人日越ともいき支援会の吉水慈豊代表は話す。

「円安が加速し、同じ10万円をベトナムに送金しても、1年前と比べて約20%目減りしています。日本に出稼ぎに来る魅力が薄れるなか、不当労働行為を強いる企業を撲滅していかなければなりません。若手の労働力を実習生に頼りきりの状況のなか、日本に来てよかったと思えるよう、彼らの生活と人権を守っていく必要があります」

監理団体、受入企業の認定を行う国の外国人技能実習機構には、より厳格な審査が求められる。

(取材・文/澤田晃宏 「高卒進路」記者/ジャーナリスト)

澤田晃宏(さわだ・あきひろ)
1981年生まれ。兵庫県神戸市出身。ジャーナリスト。高校中退後、建設現場作業員、アダルト誌編集者、「週刊SPA!」(扶桑社)編集者、「AERA」(朝日新聞出版)記者などを経て、進路多様校向け進路情報誌『高卒進路』記者、同誌発行元ハリアー研究所取締役社長、NPO法人進路指導代表理事。著書に『ルポ技能実習生』(ちくま新書)、『東京を捨てる コロナ移住のリアル』(中公新書ラクレ)など。11月に新著『外国人まかせ 失われた30年と技能実習生』を出版予定。
Twitter〈@sawadaa078

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