地名を冠した塩商品の爆増と 「日本人は塩分を摂りすぎ」問題 「塩味」(後編)

――甘い、辛い、酸っぱい……日本の食生活で日常的に出くわす味がある。でも実は、“伝統”なんかではなく、近い過去に創られたものかもしれない――。身近な味覚を通して、知られざる戦後ニッポンを掘り起こす!

【澁川祐子の「味なニッポン戦後史」】
【1】専業主婦率上昇で浸透した「だし」をめぐる狂騒 「うま味」(前編)
【2】魔法の白い粉「味の素」の失墜と再評価 「うま味」(中編)
【3】無形文化遺産登録で露呈した伝統的な「和食」のほころび 「うま味」(後編)
【4】専売制下で誕生した「自然塩」の影にマクロビあり 「塩味」(前編)

スーパーでよく見かける塩各種。ハーブ入りの「クレイジーソルト」(日本発売は1980年)は、専売制下で唯一出回っていた岩塩。

鮨に天ぷら、とんかつ。いつの頃からか「塩で召しあがってみてください」という店が増えた。私が行くとんかつ屋でもイギリスの海塩やパキスタンの海塩、能登の天日塩など数種の塩がある。味の違いは微妙に感じるかなという程度だが、そこには選べる楽しさがある。

では「塩で食べる」が飲食店で流行り出したのはいつ頃だろうか。調べてみると、2001年(平成13)に複数の新聞がこの話題を取りあげていた。そのひとつ、「日経流通新聞」同年5月22日付の記事「塩で召し上がれ」では、ブームの要因として、1997年(平成9)の専売制廃止から4年経ち、さまざまな種類が手に入りやすくなったこと、さらに流通革命による鮮度の向上も、素材の持ち味をダイレクトに楽しめる塩への注目につながったと分析している。

こうした店でよくあるのは「〇〇産の岩塩です」などと、塩を出すとともに地名が言い添えられること。先のとんかつ屋では、より丁寧に味を解説した説明書きも壁に貼られている。思えば、我が家の台所にはお土産でもらったもの、旅先で買ったものなど常時2~3種類の塩のストックがあるが、それらの商品名は必ずといっていいほど、土地の名を冠している。ひと味違う塩であることを伝えたいとき、地名は手っ取り早い差別化のための記号なのだ。

もっとも専売制廃止前も「伯方の塩」(伯方塩業)や「赤穂の天塩」(赤穂化成)のように、土地の名を冠した塩は売られていた。しかし前編(ウェブメディア「サイゾーpremium」に掲載)で述べた通り、それらは専売公社が取り扱っている輸入塩や精製塩に、海水やニガリなどを加えた再製加工塩だ。それだと「〇〇産の塩です」とは言い切れない。専売制の廃止によって、国産の天日塩や輸入の岩塩などが流通するようになって初めて、堂々と地名を名乗れるようになったのである。

日本は海に囲まれた島国だけあって、海水にはこと欠かない。地域振興のかけ声も後押しとなり、北海道から沖縄まで日本各地の海辺や島嶼部で、塩が作られるようになった。あわせて輸入業者も急増し、専売制廃止10年後の2007年(平成19)時点では、1500種類以上の塩が市場に出回っていると推定されていた(「読売新聞」同年3月6日付朝刊)。

塩の種類が飽和状態になると、今度は塩と別の素材との組み合わせが、食のトレンドをにぎわすようになる。

07年、ゲランド海塩を使ったフランスの塩キャラメルが火つけ役となって、塩スイーツブームが到来。もともと日本では、塩大福や塩ようかんなど甘じょっぱいお菓子になじみがあった。そこへ洋風の目新しさが加わり、チョコやアイス、プリンなど、さまざまな塩スイーツが登場した。追って塩味の八ツ橋やちんすこうが発売されるなど、和の銘菓にもブームは波及した。

さらに11年(平成23)に塩こうじ、14年に塩レモンと、手作りできる調味料が続けてヒットした。17年には塩バターロールをはじめとした塩パンが流行し、いずれも消えずに定着している。昨今は目立ったブームはないものの、ポテトチップスなどのスナック菓子で、定期的に「〇〇の塩使用」といった商品が売り出されるように、今も土地名を冠した塩のブランド力は廃れていない。

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