スヌープがいち早く参入 ヒップホップとNFTの邂逅

――スヌープ・ドッグをはじめ、エミネムやジェイ・Z、メソッド・マンなど、一時代を築き上げたヒップホップ・アーティストたちが続々とNFTの分野へ参入している。今年、一気に耳にすることが増えたこの“NFT”のマーケットだが、本稿では相性がよいと言われているヒップホップに焦点を当て、その内情を探る。

今年からスタートした月刊サイゾー制作によるポッドキャスト「小林雅明のRap Bandit-R」。4月配信分の「ヒップホップにおけるNFTの需要と価値」では、複数のレコード会社から問い合わせがあった。

本誌から生まれたポッドキャスト「小林雅明のRap Bandit-R」で、今年4月の初旬に配信した「ヒップホップにおけるNFTの需要と価値」には、予想を上回る反響が寄せられた。そこではブロックチェーン云々の説明ではなく、ヒップホップ界隈での実際の活用例から、NFTとはいかなるものなのか紐解きつつ、未来像などについても語った。その内容を受けて、熱心な音楽ファンに加え、国内の有名IT関連企業やメジャーレーベルから編集部に直接リアクションがあったと聞いている。こうした反響の大きさにはそれなりの理由があるはずだ。そのひとつに、ポッドキャスト配信の約1カ月前の22年2月半ばのスヌープ・ドッグによる発言がある。自ら買収の手続きを終えたばかりの「デス・ロウ・レコードはNFT専門のレーベルになるだろう」というものだ。

スヌープをデビューさせ一躍人気者にしたのも、ストリートギャング文化をカジュアルなものとして打ち出し、90年代中盤までに商業的に莫大な成功を収めたのも、その後、所属の2パック銃撃事件を境にストリートギャングとの癒着が一気に表沙汰になり、スヌープ自身も逃げるように離脱したのも──このデス・ロウ・レコードだった。近年、レーベルの創設者であるシュグ・ナイトの悪行がたたり資金繰りに失敗し、所有者を転々としていたこのレーベルを、縁の深いスヌープが引き取っただけでも、かなりのニュースバリューがある。それをNFTレーベルとして、「刷新/更正」させるかのような発言をしたのだ。しかも、有言実行ということなのか、スヌープは新生デス・ロウからの第1弾アルバム『BODR (Bacc On Death Row)』の配信に加え、NFTでもリリースしたのだった。ちなみに、デス・ロウ・レコードも、昨年11月の時点で、レーベル創設30周年記念を機に、NFTに参入していた。

いずれにしても、この〈NFT〉って、いったいなんなの? そんな疑問や関心が、スヌープの発言を機に一気に表面化したのだった。

大麻ビジネスに料理本、本業の音楽もそつなくこなし、今やヒップホップとNFTの最先端を走るスヌープ・ドッグ。これぞヒップホップ的「先見のメイクマネー」。(写真/Stephen J. Cohen/Getty Images)

そんな我々一般大衆よりも、スヌープはずっと先を進んでいた。そこからさかのぼること約10カ月前、21年4月の時点ですでにNFTに参入していたのだ。しかし、その1年後から定期的にリリースされており、”NFTでしか聴くことのできない”ミックスシリーズ 『Death Row Session』が今のところ毎回発表後2日程度で売り切れているのとは対照的に、彼の初NFTは完売とはいかなかった。その肝心な内容はといえば、オリジナルのデジタルアートだった。「A Journey with the Dogg」と題され複数の商品からなる同コレクションには、ヒップホップとの出会いから現在に至るまでのキャリアの中から、印象に残った1場面を語る彼の“しゃべり”が、1点ずつ付随している。加えて1点のみ、しゃべりの代わりにタイトルもズバリ「NFT」なる新曲を聴くことができる。

邦題「おしゃべりカーティス」でもおなじみカーティス・ブロウ。ヒット曲「The Breaks」は彼の愛息の手によって、ヒップホップ初のNFT化となった。(写真/Siemoneit/ullstein bild via Getty Images)

これがNFT化されたラップ曲第1号かと思いきや、翌5月に公表されたカーティス・ブロウによる1980年のヒット「The Breaks」がヒップホップの楽曲として初めてNFT化される。ラップで初めてゴールドディスクを獲得したのも、ラッパーで初めてメジャーと契約したのも、初めてCMに出演したのも彼だったので、花を持たせたのかもしれない。このプロジェクトの発起人である(カーティスの息子)マイケル・ウォーカーは、メディアの取材で次のように語っている。


「自分の世代はオーセンティックなヒップホップの歴史をよくわからないでいる。一方、年上の世代は、NFTの世界に入り込めずにいる。こうしたギャップの橋渡しを、自分の父親を通じてやれるのは光栄だ」

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