幽霊、大衆文化は映画で分断された。

今さら「オタクVSサブカル」なんて虚構の論争を追いかけるくらいなら、『アリエッタ』を探して観たほうがいいよ。抜けないけど。

――ゼロ年代とジェノサイズの後に残ったのは、不愉快な荒野だった? 生きながら葬られた〈元〉批評家が、墓の下から現代文化と批評界隈を覗き込む〈時代観察記〉

担当さんから「『シン・ウルトラマン』が公開されましたが、オタク第一世代というか、50代以上のオタクなクリエイターたちをどう思いますか?」と聞かれ、何のことかと思ったら、巷では「園子温の一件もあったのに、あのセクハラ描写はどうなんだ?」という話題で賛否両論だったらしい。考えてみれば、『シン・ゴジラ』は旅先で、巷の話題も知らずに見たのだが、今回は仕事が忙しいのでネット配信までスルーかな、と思っていた。「実相寺アングルで女優を舐め回すように撮って、会田誠の絵画にもなった巨大フジ隊員ネタも入るんだろうな。でも、アダルトビデオバブルの頃に実相寺昭雄が撮った『アリエッタ』は鬱SM映画として大好きだけど、エロいのかと言われると微妙だしな」とか、なんとか理由を付けて。だが、担当さんから言われたら見に行くしかない。

……で、映画の感想だが「世間で褒められているほど面白くはなく、世間でけなされているほどひどくもない」という、一番困るパターンだった。筆者は特撮や変身ヒーローブームの影響が薄い第二世代なので、世代的な思い入れの追加補正がなく、『シン・ゴジラ』ほど馬鹿馬鹿しい外連味もなかったので「無難に丁寧な語り直しだな」という感想に留まったのだ。基本評価が「庵野秀明=共感はないが引用のセンスは面白い」「樋口真嗣=特技監督だけやってて」なので、樋口度が高いと嫌だな、とは思っていたのだが、そんなこともなく。たぶん『シン・仮面ライダー』を見ても同じ感想になるだろう。

問題のセクハラネタにしても、団令子の系列で悪女役も多い長澤まさみだしな……というか、見に行った知人のおっさんたちに感想を聞いても、そこには関心がないようだった。「セクハラ対象が早見あかりだったらキレてた」と言う、ももクロの古参モノノフ(還暦)はいたけど。

では、この温度差は何なのか? 担当さんが園子温の名前を挙げていたので、おそらくはライムスター宇多丸の評価を蓮實重彦のように畏れるサブカルな映画オタク界隈の話題なのだろう。00年代に「オタクVSサブカル」なる、まるで実感のない対立が謳われたことがあり、「ユリイカ」(青土社)でも特集が組まれたのだが、そうやって分断を推し進めた特権階級とそれに連なる客層の問題意識なので、切り離された普通のオタク第一世代や第二世代は話題になっていることすら知らないのだ。

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2024.11.23 UP DATE

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