――「男が化粧水なんてもってのほか!」と、イキり散らしていたおじさんたちはどこへやら、近頃は若年層のメンズメイクに違和感も覚えず、自ら鏡と向き合い化粧水を肌になじませている。しかし、今でも「洗顔だけでいい!」と、かたくなにスキンケアを拒絶する人も。そんな価値観に変化が起きつつある、おじさんのお肌事情を調査しました。
鎌塚亮氏が『VOCE』(講談社)で連載していた「メンズメイク入門」を原案にし、マンガ家の糸井のぞ氏がコミカライズした『僕はメイクしてみることにした』。“おっさんあるある”連発にうなずくと同時に、スキンケアに対してのハードルは一気に低くなる良書である。
かつては「洗顔料で顔を洗う」「髭剃り後のアフターシェーブローション」「乾燥の季節なので肌とボディ兼用の保湿クリームを使用」程度を行っていれば「一応は気を配っている」と胸を張ることができた男性のスキンケア事情。が、「美」への意識の高まる若者層の間では、化粧水や保湿液などでケアすることが常識となりつつある。今、最低限のケアでよしとしている中年男性たちも、己のスキンケアについて見直してみるタイミングではないだろうか。加齢による肌のたるみやくすみ、乾燥や皮脂のテカリといったさまざまなトラブルは、正しいスキンケアで改善可能だ。「面倒だ」「興味がない」「必要性を感じない」と愚痴をこぼすスキンケア初心者のおじさんこそ、てきめんな効果を期待できるのだから、試してみる価値は十分すぎるほどある。
しかし、常に進化し続けるスキンケア商品から、自分にフィットしたものを選ぶのは、至難の業でもある。そこで今回は“おじさんのスキンケア”の最新事情を探ることとした。
まずは男性向けスキンケア商品の歴史をざっとおさらいしたい。さかのぼること1964年、世界初の男性総合化粧品ブランドが登場した。女性用化粧品を製造販売するエスティローダーの傘下に誕生した「アラミス」である。“成功の香り”と称され、全世界のセレブ男性に愛されている香水が有名だが、後に派生した「アラミス ラボシリーズ」もまた、デパートで売っているコスメ商品(通称「デパコス」)のメンズラインナップの中では、いまだ根強い人気を博している。
一方国内では、化粧品メーカーのウテナが1957年に「ウテナ男性クリーム」を販売開始。それまでも男性用スキンケア商品は販売されていたものの、日本で初めて男性にスキンケアの必要性を提唱したのはウテナが初である。以後、手に取りやすい価格帯の「uno」から高級ラインの「資生堂 メン」までを手広く展開する資生堂や、木村拓哉を採用したCMが一世を風靡した「ギャツビー」、40歳からのおじさん向けを標榜する「ルシード」を擁するマンダム、15年に「リサージ メン」で10年ぶりに男性向けスキンケア市場に舞い戻ってきたカネボウ、20~30代の意識高い層をターゲットとした「マニフィーク」を展開するコーセーといった老舗化粧品メーカーが挙げられる。さらに、メイク用品まで網羅した話題の「ファイブイズム バイ スリー」(株式会社アクロ)や、定期購入を申し込めば毎月スキンケア用品が自宅に届く「バルクオム」(株式会社バルクオム)、“人生100年時代”というキャッチコピーで熟年層へアプローチする「VARON」(サントリーウエルネス株式会社)など、男性用スキンケア市場はまさに百花繚乱で、過去最高の男性美容ブームが到来しているといっても過言ではない。
もちろん、ブームの波はおじさん世代にも寄せてきている。大手化粧品メーカーに勤務するA氏はこう論じる。
「男性の美容ブームは、韓流、特にK-POPの影響が大きい。そこにジェンダーレス時代が重なり、企業側も力を注いだ結果、中年男性のエチケットやマナーとしても広まりました。さらに忘れていけないのは、コロナ禍におけるオンラインミーティング。普段、鏡で見る自分の顔とはまったく違う疲れた顔に嫌気、たるんだ頬で自己嫌悪に陥った中年男性が増加というデータが出ているんです」
38歳の平凡なサラリーマンがメンズ美容に覚醒するコミック『僕はメイクしてみることにした』(講談社)原案者であるライター/エッセイストの鎌塚亮氏も、やはりコロナ禍が影響したと断じる。
「もともと美容と健康の意識の高まりが背景にあり、コロナ禍がそれを後押ししたのだと考えています。例えば、筋トレやサウナ、スキンケアをやっている人は、ほとんど同じ層です。30~40代の男性がお酒を飲んだりタバコを吸ったりする代わりに、体を鍛えて、サウナでリフレッシュしたあと、更衣室でスキンケアをしている。また、コロナ禍で外出が減り、室内で完結するスキンケアが急速に普及したという流れもあるのではないでしょうか」