「中年の星」錦鯉のブレイクが後輩芸人たちに与えた“弊害”

――『M-1グランプリ2021』チャンピオンとなった錦鯉。50歳のボケと44歳のツッコミの優勝は、周囲の芸人から「優勝後の忙しさで死ぬんじゃないか」と心配されるほど異例のことだった。“中年の星”錦鯉の大ブレイクは「おじさん芸人」ブームをもたらしているといわれるが、この流行はお笑い芸人にとってある“弊害”も生んでいるという――。

コンビの自叙伝くすぶり中年の逆襲(新潮社)。

昨年12月に行われた『M-1グランプリ2021』(テレビ朝日系)で、錦鯉が優勝した。ボケの長谷川雅紀50歳、ツッコミの渡辺隆44歳。彼らの存在が、お笑い界における“おじさん”の意味を揺るがしている。

タモリ、ビートたけし、明石家さんまのBIG3が引退せず、ダウンタウンやウッチャンナンチャンら“お笑い第3世代”がテレビ業界の頂点に立ち続け、「お笑い界は上が詰まっている」と若手芸人が嘆く構図はずいぶん長く続いてきた。特に『エンタの神様』(日本テレビ系)や『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)といった人気の番組が終了し、『M-1』も開催されなかった10年代前半にはニューカマーが見いだされる機会が失われ、「“若手”芸人の高齢化がすごい」と、自虐を口にする当事者たちも多かった。

潮目が大きく変わったのは2018年。ハナコの『キングオブコント』優勝と霜降り明星の『M-1グランプリ』優勝、そしてEXITの台頭により、お笑い第7世代ブームがやってきた。彼らはほとんどが平成生まれで(ハナコ菊田、EXITりんたろー。は昭和生まれ)、その若さと新鮮さが硬直化しつつあったテレビ界・お笑い界に新風を吹き込んだ。一方で、彼らよりやや上の先輩たちが「割を食った」と声を上げることで、プロレスとしての世代間闘争も勃発。相乗効果で第6世代、第6・5世代という呼び名も生まれた。

そしてこうした世代交代問題をすべてかっさらっていったのが、『M-1グランプリ2020』決勝進出から始まった錦鯉のブレイクと、翌年の優勝だった。

「ライブ中心に活動している東京芸人で、彼らのすごさを認めない人はいません。しかも、20代の子からするとあまりに年が上すぎて、先に売れていっても嫉妬を感じる余地が少ない。逆に先輩芸人からすれば、優勝時に審査員だったサンドウィッチマン富澤やナイツ塙が涙していたように、そこまで続けてくることのしんどさを知っているからかわいがる。そして視聴者も、若い子はシンプルに面白がる、同世代は励まされる、長谷川さんのキャラクターが子どもにもウケる。全方位をカバーする、最強のチャンピオンが生まれたと言っていいと思います」(放送作家)

愛されるのはもちろん、視聴者や芸人仲間からだけではない。テレビ制作者にとってもありがたい存在だという。

「バイト歴、家族のエピソード、貧乏話、解散を経験して組み直した経緯……切り口が豊富なんですよね。『M-1アナザーストーリー』なんて、全編涙なしに観られない内容だったじゃないですか。錦鯉の物語は、面白くもできるし、エモくもできる。結局みんな、苦労話が好きなんですよ。それは若くして売れた第7世代にはなかったものです」(バラエティ番組スタッフ)

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