ウクライナ侵攻への批判的メッセージを読み取れる作品もーーハリウッドとは一味違う、ロシアSF映画の世界

――宇宙開発でアメリカとしのぎを削ったソ連は、最先端の特撮によるSF映画も生み出してきた。いまもロシアからはハリウッドとは一味違ったSF大作が生み出されている。それらのなかには、体制批判と受け取ることも可能な作品もあれば、今回のウクライナ侵攻とからめて考察できそうな作品も散見できる。映画ライターで幼少期を旧ソ連で過ごしたなかざわひでゆき氏がとくに注目の5作品をセレクト。その魅力を解説してもらった。

『火を噴く惑星』
バーヴェル・クルシャンツェフ監督/1961年

火を噴く惑星

ソ連のガガーリンが世界初の有人宇宙飛行を果たした1961年に公開された宇宙探検映画。金星探検に降り立った宇宙船の乗組員が、謎の宇宙生物や古代文明の痕跡を発見する。

「この頃のソ連のSF映画は、宇宙開発競争のプロパガンダのような作品が多かったのですが、これは珍しくエンターテインメント性の高い作品です。敬語でお願いしないと動いてくれないロボットや、金星なのにすぐに宇宙服のヘルメットを外すなど、シュールな展開ですが、当時としては特撮が素晴らしく、アメリカの有名プロデューサーだったロジャー・コーマンが買い取って、この映画の特撮シーンとアメリカで撮影したシーンをつなぎ合わせてアメリカで公開させました。ソ連映画はハリウッドと違って国家予算で作られていたので、予算や期日を気にせず作品を撮ることができ、非常にクオリティの高い作品も生まれています。

また、1953年に宇宙人が地球を襲撃する『宇宙戦争』を作ったハリウッドとは違って、ソ連のSF映画は異星人が出てきても、人類と戦争をするのではなく、違う文明同士理解し合おうとすることが多い。この映画でも宇宙人の存在がほのめかされているのですが、敵対的な存在としては描かれておらず、異星人侵略型SFとのスタンスの違いが感じられます」(なかざわ氏/以下、コメントはすべてなかざわ氏)


『惑星ソラリス』
アンドレイ・タルコフスキー監督/1972年

惑星ソラリス

ソ連映画を代表する巨匠タルコフスキーが、ポーランド出身の作家スタニスワフ・レムの有名なSF小説を映画化。未知の惑星ソラリスの海は知性を持つ生命体で、滞在する科学者の死んだはずの妻を実体化してみせるというストーリーが展開される。

「難解で眠くなる映画の代名詞のようにも言われるタルコフスキーですが、異星文明の異質さを表現した演出も際立っているし、登場人物の過去への憧憬を表現するセンチメンタリズムも素晴らしいです。わかりづらい映画ですが、これも異質な生命ともわかり合おうとする姿勢を感じるストーリーです。劇中、日本の首都高速の映像が長々と映し出されるのも注目ポイントで、これはタルコフスキーが来日した際に撮影したものなのですが、当時のソ連の人々にとってはネオンサインが輝く東京の様子は未来都市に見えたのかもしれません」


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