魔法の白い粉「味の素」の失墜と再評価 「うま味」(中編)

――甘い、辛い、酸っぱい……日本の食生活で日常的に出くわす味がある。でも実は、“伝統”なんかではなく、近い過去に創られたものかもしれない――。身近な味覚を通して、知られざる戦後ニッポンを掘り起こす!

味の素の公式サイトより。

【澁川祐子の「味なニッポン戦後史」】
【1】専業主婦率上昇で浸透した「だし」をめぐる狂騒 「うま味」(前編)

日本のうま味の変遷を語るとき、避けて通れないものがある。かつて「化学調味料」と呼ばれ、「うま味調味料」と言い換えられ、今も存在しているあの白い粉だ。

1908年(明治41)、東京帝国大学の池田菊苗(きくなえ)博士は、昆布だしのおいしさが昆布に含まれるグルタミン酸というアミノ酸の一種であることを発見。この味を「うま味」と命名した。グルタミン酸自体は、1866年にドイツの化学者リットハウゼンによってすでに発見されていたが、池田はナトリウムと結合したグルタミン酸ナトリウムが強いうま味を生じることに気づき、翌年に商品化されたのが「味の素」である。

「うま味」という言葉を創り、その正体を突き止めた池田菊苗博士。

日本はその後も、うま味の研究を牽引していく。現在、昆布などの海藻や野菜に含まれるグルタミン酸に加え、かつお節や肉類に含まれるイノシン酸、干ししいたけをはじめきのこ類に含まれるグアニル酸が三大うま味成分として知られているが、イノシン酸は1913年(大正2)、グアニル酸は57年(昭和32)に、いずれも日本で発見されている。またほどなくして、アミノ酸系のグルタミン酸と、核酸系のイノシン酸やグアニル酸を組み合わせると「うま味の相乗効果」が生まれることも解明された。

昆布、かつお節、干ししいたけ。日本でだしとして使われてきた食材から、次々とうま味が発見されたのはなぜか。それは「日本の食生活が穀類や野菜中心で淡白だったから」と言われている。肉類や乳製品といったうま味を多く含む動物性の食材と縁遠かったぶん、うま味を加えるためのだし文化が生まれた。そこへひとさじでうま味をプラスできる魔法の調味料が登場したのだった。

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