――どの分野においても、どこか惹かれる不良的な要素。本稿では音楽業界のマーケティングにおける“悪”の部分に焦点を当て、「どこまでがOKで、どこからがアウトか」の境界線について座談会を決行。果たして、その悪はリアルか、はたまた作り上げられたフェイクなのか。そんなファクターの現在進行形を知る!
古くは70年代にキャロルやクールスのようなロックバンドから始まり、その後もチェッカーズのようなアイドルが「ちっちゃな頃から悪ガキで」と“不良性”を全面に打ち出すことで人気を得るというのは、昭和の日本の音楽シーンで常套手段だった。彼らの存在は日本のヤンキー・暴走族文化などともつながり、実際はそれが演出されたものだったとしても、当時の若者にとっては、男女問わずかっこよく映っていたのは間違いない。そこから平成を経て令和の時代に入っても、アーティストにとって不良性の重要度は変わらないどころか、よりリアルな“悪”のイメージを持つアーティストも多数現れている。その中でも、今回は悪のイメージとは切っても切れないジャンルである、日本のヒップホップ・シーンに精通する音楽業界関係者に参加してもらい、エンターテインメントと悪の関係について座談会を行った。
[座談会参加者]
A… 中堅芸能事務所 勤務歴20年
B… 大手レーベル 勤務歴22年
C… 大手音楽事務所 勤務歴12年
──まず最初に、アーティストにとって“悪い”イメージというのは必要だと思いますか?
A ジャンルによると思うな。特にロックやヒップホップには絶対に必要な要素じゃないですかね。真面目な人がやっていてもつまらないし、若い子たちが見て憧れる対象は、今も昔もちょっと不良的なところで。今の日本のロックは少し変わってきているけど、本来はそういうカテゴリだと思います。
B アーティストにもよりますよね。例えば、Creepy Nutsは世間的に悪のイメージはないでしょうし。
Creepy Nutsは正統派のイメージが強いが、R-指定の気迫に満ちたフリースタイル力にギャップを覚えるのも憧れの一種のように映る。(写真はオフィシャルサイトより)
──ベテラン勢でいえば、スチャダラパーやRHYMESTERなんかもCreepy Nutsと同じラインですね。
C ロックもヒップホップも主張のあるジャンルだから、例えばスチャダラやRHYMESTERも、社会に対する意見や反抗心なるものが根本にあって、それがイコール悪ではないかもしれないけど、そういう気持ちがないとリリックに魅力を感じない、というのはありますよね。
──一緒に仕事をするアーティストを選ぶ上で、不良的な要素は大事になってくるんでしょうか?
A サイゾーの言う不良的要素が、どこまでのレベルを指しているのかわからないけど(笑)、やはり何かしらの主張を持っている人と仕事はしたい。
──例えば、今のエンタメ最前線でいえば、EXILEを筆頭にLDH所属のアーティストには“不良感”を感じさせるグループもいますが、業界的にどのように映っているのでしょうか?
C LDHは不良文化やクラブカルチャーが好きな人たちの集まりであって、いわゆる“ヤンキー”みたいなアーティストって少ないんじゃないですかね。思い返せばクラスでモテる男って、ちょっと不良っぽい子だったりするじゃないですか。LDHのアーティストは、その延長線上にいるイメージ。ちょっとは素行不良だったけど、暴力団や暴走族側に走るんじゃなく、ダンスやヒップホップのようなストリートカルチャーに傾倒したみたいな。
──悪から派生するカルチャーの延長線上にダンスやヒップホップがあったと。
B それは間違いなくあるでしょうね。あとは純粋に「モテたい」という気持ちが根底にあって、それが人前で踊ったりする行為につながる。実際、ほかのいろんなアーティストにも言えると思うんですけど、毎日、毎週のようにクラブに遊びに行ってたアーティストなんて、業界にはたくさんいると思うんですよ。そこには多かれ少なかれヤバい人たちも常にいて、その中でサヴァイブしてきたから、自然とそういう雰囲気をまとうというか。
ストリートからの叩き上げであり、その悪そうな雰囲気とは裏腹にクリーンなイメージを保つEXILE。ちょっと悪そうでストリートから生まれたアーティストは「EXILEにいそう」という形容されることもしばしば。
──自分らを悪く見せるという意識はアーティスト側にあるんでしょうか?
B フェイクはいるでしょうね。どこも悪くないのに、悪びれるアーティストは。ただ、本当の悪とつるんできたアーティストであれば、それを真似ることが一番のフェイク野郎と理解しているんで、しっかりと線引きはしていると思います。
A 逆に本当の悪だったら、事務所やレーベル側が隠すことに必死になります。
C タトゥーですら日本では悪とみなされるから、テレビではいまだにNGですし。むしろ昔のほうがネットやSNSがなかった分、ユルかったですよね。
B テレビ業界が持つタトゥーに対する悪印象って、本当に変わらないですよね。あれだけ見える場所にタトゥーを入れているラッパーですら、地上波に出るときは「長袖でマフラーを巻いてください」とか言われるみたいですから。