――MBA(経営学修士)の取得を目指して通うビジネススクール(経営大学院)。学生の職業や動機、カリキュラムの内容、講師のタイプ、そして卒業後のキャリアに与える影響とは――。自身もビジネススクールで学んだMBAホルダーのライター・飯田一史氏が、それぞれ異なる学校の卒業生たちの話から実情を探る。
米ハーバード大やスタンフォード大のビジネススクール(経営大学院)で取得するMBA(経営学修士)といえばビジネスエリートの代名詞的な印象があるが、日本にもMBAコースを有するビジネススクールは約70あるとされる。だが、「海外のトップスクールのMBAじゃないと学歴としては役に立たない」「MBAはもう古い。これからはMFA(美術学修士)が取れるデザインスクールだ」と否定的に語られることも少なくない。では、実際のところどうなのか? この10年で国内ビジネススクールを卒業したMBAホルダーの社会人たちに訊いた。
[座談会参加者]
A…スタートアップ経営(40代・男性)
B…上場メーカー勤務(50代・男性)
C…大手メディア勤務(30代・男性)
D…税理士事務所勤務(30代・男性)
慶應義塾大学ビジネス・スクール「Executive MBA」コースのサイトより。
A 僕は大学新卒からインターネット広告代理店で勤めていたけど、戦略策定を任されたときにうまくいかず、体系的にビジネススキルを身につけたいなと。グロービス経営大学院【1】にしたのは、学部の頃にそこが主催した起業家のカバン持ちをする企画に参加して、大体どんなところなのか認識していたから。
B ウチの会社はグローバル企業ではなく、狭い付き合いの中で働いてきたのもあって、自分の能力不足を感じ始めていた頃、BBT(ビジネス・ブレークスルー)大学が開学すると聞いたんです。説明会に行ったら、左脳(ロジック)だけじゃなく右脳(感情・ひらめき)も動かせそうで面白いなと思い、勢いで申し込んだ。そのままBBT大学院【2】に入ったので、ほかの学校は検討していません。
C 僕はもともと広告代理店の営業だったんだけど、クライアントのマーケティングや宣伝部の人とやりとりするのに自分はマーケのことが全然わかっていないから、勉強しなきゃと。かつ、仕事は続けたかったから、会社や家の近くで学べるところを探して青山ビジネススクール【3】に。早稲田大学ビジネススクール【4】も検討したけど、当時は社会人比率が少なくて、学部からそのまま上がってくる人が多そうだなと思ってやめた。
D 自分がビジネススクールに通ったのは、税理士試験の科目免除が目的だった。税理士試験の「税法」の取得はまともに勉強すると10年かかるといわれるので、税理士を目指す人は2年間、法学部か経済学部、経営学部、商学部のいずれかの大学院に行き、その科目の免除を狙うのが一般的。ただ、僕が学部時代にいた経済学部は、勉強が大変だったので除外。法学部も税理士に関係ない科目が多すぎるから除外。それで、経営学部に行こうと。免除狙いの中だと、一橋と筑波、早稲田、明治のMBAコースあたりが「学歴ロンダリング」目的の人には人気があるけど、そういうのを気にしない人は「免除されればどこでも」って感じ。僕が高千穂大学MBA【5】にしたのは、出身大学で入っていたゼミの先生の弟子筋に当たる教授が結構いたから。
──海外MBAも検討しました?
D 税理士は平均年齢が60歳を超えていて、後継者を急いでつくらないといけない税理士法人がたくさんあるんです。そういう事務所がカネを出して若手・中堅を大学院に突っ込みまくっている。というわけで、税理士になりたいヤツは海外は絶対考えない(笑)。
A へぇ。僕は会社を辞めて行くつもりはなかったから、海外は考えなかったな。
B・C 一緒ですね。
A ちなみにグロービスのカリキュラムは、経営する上で押さえるべき科目は一通り必修で、その上でベンチャー寄りとか大企業の変革寄りとか、各志向に合わせた科目を取れるようになっている。基礎科目系はほぼケーススタディで、院生生活の後半はグループワークが増える感じ。講師は「経営学の研究者」みたいな感じじゃなくて、実際にビジネスで結果を出している戦略コンサルタントのパートナーとか大手マッチングサービスの社長とかだから、そういうプロと刀を交えて自分の実力が測れるのが良かったな。
B BBTは基本が放送大学方式で、好きな時間に講義の動画を見て、期限までにレポートを出す。グループワークやケーススタディもあったけど、ケースは昔のアメリカの大学院でつくられたような古い事例が好きじゃなくて……。名物科目に「イノベーション」という大前(研一)学長が直々に受け持つものがあって、それは「未来に視点をぶっ飛ばしてロジカルシンキングを超えた発想を」というコンセプト。夢みたいなところと論理を往復して考えるのが刺激的でした!
C 青山は博士後期課程に進む学生は5~6%だから、実務寄りかな。カリキュラムとしてはケース6割、講義4割くらい。特徴としては英語の授業が多くて、TOEICで730点以上を取るのも卒業要件だった。
D 高千穂も学生が税理士になる前提で教授が話すので、実務寄り。税法の有名な先生がブロックチェーン税制に関して白熱した議論を学生としたりしていたのも面白くて。高千穂って学部はFランなのに、MBAになると卒業要件の修士論文に求めるレベルがすごく高い。だけど、税法の文献がある専門図書館が都内に2つしかなくて、先行研究を調べるのがしんどかった……。
B BBTは修論かビジネスプランの提出が卒業要件に入っているけど、ほぼみんなビジネスプランを書いていましたね。
C 青山も当時は修論、ビジネスゲーム、マーケティングプランニングプロジェクトなどが選択必修で卒業要件だったけど、後期課程に進む人以外は修論はほぼ選択しない。
A グロービスは修論がそもそもカリキュラム上ない。単位さえ取れば卒業できる。だから、ラクしようと思えばできる。でも大体、学生は2年目になると自分たちでケースを書く研究プロジェクトとか、起業や実務に直結するベンチャー系か企業内改革系の発展科目を取っていました。